編集長が選ぶ!太宰治の個人的傑作短編4選

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こんにちは、蓼食う本の虫編集長のあとーすです。

アイキャッチ作成担当の方に「太宰の短編についての記事を書くから画像よろしく!」と頼んだところ、なぜか「編集長が選ぶ!」という煽りがついていたので、このようなタイトルになってしまいました。

僕は恐れ多くも卒業論文で太宰治大先生の作品を扱いまして、一通り太宰作品は読んでおります。

代表作『人間失格』のイメージからか、太宰作品を敬遠している人が多いなあと感じている今日この頃。太宰作品にもっと触れていただければと、今回は僕の個人的傑作短編を4作紹介いたします。

 

葉桜と魔笛

「葉桜と魔笛」は、昭和十六年に発表された短編です。僕が太宰の短編の中で最も好きな作品でもあります。

太宰治作品は文章のやさしく流麗なところに魅力があるのですが、「葉桜と魔笛」ではそれがより顕著に現れています。

特に僕が好きなのは、作中の手紙に書かれている以下の文章です。

僕たち、さびしく無力なのだから、他になんにもできないのだから、せめて言葉だけでも、誠実こめてお贈りするのが、まことの、謙譲の美しい生きかたである、と僕はいまでは信じています。
(太宰治「葉桜と魔笛」)

また、太宰治ほど女性の描き方がうまかった近現代作家はいないでしょう。それは『斜陽』や『女生徒』など、女性が一人称主体の作品を読むときに強く感じられることです。「葉桜と魔笛」では、死の淵にいる妹と彼女を愛する姉との美しい関係が、姉の回想という形で語られます。

『人間失格』が好きな方には、破滅的な美しさの香りが「葉桜と魔笛」にもあり、太宰的世界に満足することができるでしょう。また、『人間失格』が苦手だったという方でも、ここには堕落した生活はなく、実直に生きる二人の女性が描かれているので、また違う太宰の側面を見ることができます。

青空文庫で読む→太宰治 葉桜と魔笛

ろまん灯篭

一言で言うならば、ある家族の「リレー小説」の記録がそのまま小説になっています。

「ろまん灯篭」には家族が書いたリレー小説もそのまま掲載されているのですが、その書き方から、家族個々人の性格が透けて見えるというのが非常に面白いところです。

それぞれに個性が強く、文体にももちろん差が出ますし、何に焦点を当てるのかというのが違ってきます。

しかも、リレー小説がファンタジーベースになっているのが面白いですね。太宰は「新ハムレット」「新釈諸国ばなし」「お伽草子」をはじめとして翻案ものを得意としていますが、この作品をその系譜に置くことも可能でしょう。ちなみに、「ろまん燈籠」は、作中の言葉を借りるならば「アンデルセン童話集、グリム物語、ホオムズの冒険など」がベースにあるようです。

五人の家族が書き継いでいるという体なので、その物語のいびつさがまた面白いポイントです。

青空文庫で読む→太宰治 ろまん燈籠

千代女

「千代女」は、幼い頃に文才をなまじ文才を認められた少女が、その才能に苦しめられる様が描かれています。

童話雑誌に原稿が二度掲載され、先生や叔父、母親から将来を嘱望される少女。しかし、彼女自身は自分の書いたものがそれほどいいとは思っておらず、周りの期待が高まるにつれてプレッシャーで書くことが嫌いになってしまいます。

僕らは、なるべくなら若いうちに成功したいと思っているし、世間も若いスターをはやし立てがちです。小説の世界でも、綿矢りさの芥川賞最年少受賞はセンセーショナルな話題となりました。

また、スポーツの世界でも高校生や中学生で活躍している人がメディアなどで取り上げられる傾向にあるように思います。

しかし、若い頃に活躍して、その後でパッとしない人もいます。そういう方々の人生に、あまり想像力を働かせることができていないのかもしれない、と思える作品です。

また、徐々に少女ではなくなっていく主人公が、文学に対してどのように向き合っていくのかというのも読みどころです。

青空文庫で読む→太宰治 千代女

きっと、太宰治自身が自分はどう見られているのかを意識して書いたのだろう、なんて想像をしてしまう作品です。

他の作品を読み、太宰作品や太宰に対するイメージを醸成したうえで読むと、より一層楽しむことができるのではないかと思います。

しかし、はっきりとした物語意識に支えられており、太宰治のことをそんなに知らない方でもきちんと楽しめる作品になっています。これを読んだ後で、他の作品を読むことで太宰の印象を埋めていくというのも面白いかもしれません!

この作品では、安易に他人を「理解」することの危険さ、あるいは「かわいそう」と思うことの罪が主題にあるといえるでしょう。

とはいえ、そんなことを考えなくても楽しめますし、短い作品ですので、ちょっと時間が空いたときなどにぜひ。

青空文庫で読む→太宰治 恥

 

ちなみに、この短編は好きが高じて翻案を書いてみたことがあります。現代風に書き換えておりますので、お暇な方はこちらもぜひ。

『恥の心』伊藤祥太(『恥』太宰治) | BOOK SHORTS

まとめ

今回は、期せずにして太宰の中期の作品ばかりとなってしまいました。

初期や後期にも良い作品がたくさんあるのですが、「傑作」と呼べるようなものは、やはり中期作品に多いように思います。

まずはこの辺りから入った後に、初期の混迷を極めた作品群に挑むというのが、太宰を最大限に楽しむ方法ではないかと考えています。

皆さん、もっと太宰を読みましょう!!