互いに続く、どちらか読んでもOKなSF小説 乙野四方字『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』

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こんにちは。文芸サークル『思ってたより動くメロンパン』の新士悟です。

今回は少し変わった構成を楽しめる2冊のSF小説をご紹介いたします。
6月末に発売された、乙野四方字『僕が愛したすべての君へ』&『君を愛したひとりの僕へ』です。
うーむ、タイトルが頭の中で混ざってしまいそうですね。

さて、この小説のどこが変わっているのか。
それは、本作の宣伝帯に記されていることばが象徴しています。

 

『僕が愛したすべての君へ』の帯には、

同時刊行「君を愛したひとりの僕へ」に続く

 

『君を愛したひとりの僕へ』の帯には、

同時刊行「僕が愛したすべての君へ」に続く

そう、この2冊は互いが互いの続編であると設定されているのです!

 

あらすじ

人々が少しだけ違う並行世界で日常的に揺れ動いていることが実証された時代。両親の離婚を経た主人公は、後に並行世界関係の研究者となる。そんな彼の人生における、ある少女『たち』との出会いと生涯を描いた物語。

本作はいわゆる並行世界SFです。『僕が愛したすべての君へ』では両親の離婚後に主人公が母親と暮らすようになった世界を、『君を愛したひとりの僕へ』では父親と暮らすようになった世界が舞台となっています。それぞれの世界で主人公は別々のヒロインとの出会いを果たすのですが、そのことが2作の物語を大きく異なったものへと変えていきます。

単体としては突飛な設定こそありませんが、並行世界間の移動装置や、元の世界からどれだけずれているのかを計測するための機器など、並行世界モノの美味しいところはしっかり押さえられています。その辺りがドンピシャな人には間違いなくおすすめできるでしょう。

また、平易な文章で綴られているため、合計約500ページのボリュームとは思えないほど、スラスラと読み切れてしまう点も特徴です。

どちらを先に読むべきか?

宣伝として『互いに続く』と銘打たれてはいますが、2冊は各々の世界での主人公の生涯を描いており、時系列的に連続しているわけではありません。
なので、正確には続編というよりは伏線を互いに補完し合う関係となっています。
しかしながら、どちらを先に読むかで読了感が異なる仕様となっており、最初の選択がとても重要なポイントであることに変わりはありません。

ハヤカワ文庫の通し番号を参照すると『僕が愛したすべての君へ』がJA1233で、『君を愛したひとりの僕へ』がJA1234となっており、それに従うならば『僕が愛したすべての君へ』の方が先に来るようです。

ただ、作者の乙野氏は「どちらを先に読んでも大丈夫」と語っており、

『僕が→君を』の順に読むと、最後に切ない気持ちになれる
『君を→僕が』の順に読むと、最後に幸せな気持ちになれる

と2作の読み方のガイドを示しています。

私は『君を→僕が』の順番で読んだのですが、作者の言うように幸せな気持ちになりました。
よって、切ない物語が読みたい気分であれば『僕が愛したすべての君へ』から入り、幸せな物語を読みたい気分であれば『君を愛したひとりの僕へ』から入るのが良いでしょう。

ただ、ここで私は両者とも異なる、第3の読み方をおすすめしたいと思います。

それは2作品を『章ごとに交互に読む』という方法です。

上記でも少し触れましたが、本作は主人公の生涯を描いており、2作とも章分けが「幼年期」→「少年期」→「青年期」→「壮年期」というように主人公の年齢を基準として区切られています。

2冊を少しずつ交互に読むことで、主人公の人生の節目節目での感情の移り変わりを比較しながら物語を味わう。それが、今回私がおすすめしたい平行世界SFの楽しみ方です。

というのも、本作は2作ともヒロインが異なっており(他方の作品にもそれぞれサブキャラとして登場します)、彼女達との出会い方が主人公の人生を大きく分岐させることになります。

つまり、物語のポイントとして「出会いが人物を変える」ということが2作を通して強調されているのです。そのため、主人公の年齢の積み重ねに応じて読み比べることで、その時々の感情の様をより細かに比較することが可能となります。

時系列が連続していないからこそ楽しめる、変則的な小説の読み方です。

その上で、『君を愛したひとりの僕へ』の序章を先行して読むのが、私の一推しの読み方です。

まとめ

読書前の気分によって読み手が導入部を能動的に選択できる、という試みが面白いと感じ、今回はこの2作を紹介させていただきました。

上記の読み方もあくまで一例にすぎません。多彩な読み方を楽しめる作品ですので、最初の一回目を拘ってみるのも面白いかと思います。

ところでタイトルが似ていて非常にややこしいですが、カバーイラストは対照的なデザインとなっています。『僕が愛したすべての君へ』は明るい配色が、『君を愛したひとりの僕へ』は暗い配色が用いられています。

雰囲気がそのまま反映されていますので、迷った時は表紙のデザインで区別しましょう……!