こんにちは、福本毛玉です。
小説の批評をする際に、「人間を書けていない」「登場人物が薄っぺらい」などといった言葉をしばしば目にするように思います。
そこで今回は、『人間らしいキャラクターをいきいきと表現する方法』について考えてみました。
この記事の目次
キャラクターに『嘘』をつかせる
人間はいくつもの顔を演じ分けて生きることができますし、得手不得手の差はあれど、嘘をつくこともできます。それゆえ、ときに私たちは利害の有無に関わらず目の前の相手を疑います。
それはごくありふれた現実ですが、フィクションにおいては『優しくて正直で、ちょっと天然ボケな女の子』がそのまま、付与された属性を表現するために存在している、ということも多くあります。
ここに『嘘と本音』という二面性を付加することでキャラクターに厚みを持たせるのもひとつの方法です。
たとえば、「桜野春香」という女の子がいたとしましょう。
(画像はイメージです)
彼女はおっとりとした性格で争いを好みません。いつもにこにこして、のんびりとした話し方をします。少し『天然ボケ』と感じさせるところはありますが、たいていの頼まれ事は快く引き受けることもあって、心優しい親切ないい子だと評判です。
ここに、もう一つの側面を付与することで、「桜野春香」に二面性を持たせることができます。
●パターンA
なんだか恐ろしい黒幕になってしまいましたので、次はもう少しマイルドに仕上げてみます。
●パターンB
ただしこの方法もまた、多用しすぎるとワンパターンになりますのでお気をつけください。
具体例を挙げてリアリティを高める
フィクションにおいては、どんな人物を生み出すことも可能です。
だからといって、
●彼は英語を完璧に習得している
●彼女は派手な雰囲気の女子高生だ
などと説明してしまっては、「ふうん、そういう設定なんだ」と理解させるに留まり、なんらかの印象を抱かせることはほぼありません。
「英語を完璧に習得している彼」を表現する
校内の問題児として有名な稜也に声をかけられて、祐一は身を硬くした。派手な指輪をはめた手に捕まった文芸書を押さえ込みながら、つとめて淡々と答える。
「Silent Springっていう環境書」
「英語の本?」
「そう、洋書だよ」
「じゃあ全部英語だろ、読めんのかよ」
「読めるよ」
事も無さげに断言した祐一を、稜也は大げさな調子で褒めはじめた。
ひとつの場面を作ることで、「彼(裕一)」の実力をより具体的なものとして表現しています。
さらに、登場人物のひとりである「稜也」の顔出しも済ませることができますので、一石二鳥といえるでしょう。
「派手な雰囲気の女子高生」を表現する
「サイドテールを結いなおしながら」「教師の小言を受けてまでつくりものの睫毛を得意げに飾る」という文によって、見た目を常に気にしているような印象を生み出そうと試みています。
また、「彼女の嗜好を理解しがたい」とする主人公の感想を入れることによって、間接的に主人公の人物像も暗示しています。
ストーリーをどう展開するか、何を表現したいのかによって、どのような具体例を挙げるかを考えてみると良いでしょう。
言葉選びや行動の違いによって個性を持たせる
●パターンA
「なんなの、これ」
●パターンB
「なんだってのよ、いったい」
パターンAの千秋は気の弱い女の子に、パターンBの冬海は気の強い女の子として映るよう表現しています。
「なんなの、これ」という呟きには、「この現実を受け入れたくない」という心情を、
「なんだってのよ、いったい」という呟きには、「今起きていることに対抗しようとする」ある種挑戦的な意思を込めています。
日常的なワンシーン
次に、日常的なワンシーンを例にあげてみます。
仲の良い4人の女子高生が徒歩で下校する様子を想像してみてください。基本的に前方に注意を払いつつ、時折、会話をする相手の顔を見る、といった形になるはずですが、はたして、彼女たちの意識が常に同じ方向に向いているかといったら、そうとは限りません。
●時折、仲間ににっこりと笑いかけながら、空を見上げる美春。
●周囲の確認すら仲間に任せきりで、手元のスマートフォンに夢中な夏香。
●会話を楽しみながらも、通行人や車、自転車などにしっかりと注意を払う千秋。
●仲間たちの喧騒から一歩身を引いて、道端の山茶花に気を取られる冬海。
キャラクターの言動と性格について、掘り下げて考えてみると良いでしょう。ただし、言葉に対する印象には、読者によって多少の差があることも忘れないでくださいね。
まとめ
物語の要となるキャラクターを、心の宿らない駒として終わらせてしまうのはもったいないことです。
魅力的なキャラクターは生き生きと動き、あなたの筋書き(プロット)さえ逸脱して、まったく意図しなかった方向へと導いてくれることさえあります。
あなたに命を吹き込まれたキャラクターは、あなたの作品の魅力を存分に語ってくれることでしょう。
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