森絵都『屋久島ジュウソウ』 今すぐ旅に出たくなるエッセイ

   

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『屋久島ジュウソウ』は、小説家である森絵都氏によるエッセイ。タイトルの通り、屋久島への旅行が飾らない文章で綴られています。

また、同時収録の「slight sight-seeing」は主にヨーロッパ旅行についての思い出を書いた連作短編エッセイ。表題作の「屋久島ジュウソウ」に比べると、やや気取った印象を受けますが、短編らしく面白い部分が綺麗にまとまっています。

ところで、僕はエッセイを読むのがあまり好きではありません。とりわけ、小説家のエッセイというものは、いつも小説で幻想を見せてくれる小説家の現実を見るのが怖くて、敬遠しがちです。

僕は『カラフル』で読書の面白さを知り、平均的な日本人に比べれば森絵都作品を読んでいる方だと思うのですが、それでも彼女のエッセイは敬遠していました。この『屋久島ジュウソウ』も、未読の作品があると思って購入してみたらエッセイだったので、仕方なく読んだのです。

しかし、読んでみるとこれが意外に良かった。これまではさくらももこ氏のエッセイシリーズ以外は面白くないものと決め付けていたのですが、読書の幅が広がりそうな予感。

 

『屋久島ジュウソウ』が面白いのは、屋久島行きがこのエッセイのための旅行であるということ。メンバーは筆者の森絵都氏と、3人の担当編集者、そしてカバーイラストを担当している池田さん。

普通のエッセイはすでに起こったことをいかに書くのかが勝負だと思うのですが、このエッセイでは森絵都氏がエッセイをどう書こうか考えあぐねている様子まで書き込まれていて、それが妙にリアルなのです。

また、文章から屋久島の魅力が伝わってくるのも良いですね。僕は、旅行といえばすぐに都市の観光地を思い浮かべるのですが、このエッセイを読んでいると無性に自然がたくさんあるところに行きたくなりました。もちろん屋久島に行くことができれば最高なのですが、熊本在住の僕は、ひとまず阿蘇にでも……。

屋久島の描写の中で特に気になったのが、縄文杉の後に森絵都御一行が訪れた「ウィルソン株」。屋久島なのにウィルソン、というのがミスマッチでおかしいなと思いました。なんでも、1941年にアメリカのアーネスト・ウィルソン博士がこの株を世界に紹介したためにこの名前が付けられたのだそうです。

思わずGoogleで画像検索をして、写真を眺めているうちに「行きたいな~~!」という思いがどんどんと強くなっていきました。僕はそもそも家でゴロゴロするのが大好きな人間なので、これほどまでに旅行に行きたいと思ったのは初めてのことかもしれません。それほどにウィルソン株は画像で見るだけでも凄いし、何より、森絵都氏の文章が僕を屋久島へと誘います。

 

上にも「slight sight-seeing」はヨーロッパ旅行を中心にしたエッセイだと書きましたが、こちらは「屋久島ジュウソウ」とは違って、森絵都氏が過去に行った旅行のエピソードをいくつかのトピックに沿って書いたものです。

どれも面白かったのですが、印象に残っているものを一つ挙げるとするならば「トラベル読書術」ですね。森絵都氏は、宿泊日数分+4冊の本を旅行に持っていくそうです。これは、1日に1冊読み、往復の飛行機の中では2冊ずつ読めるだろうという計算からこのようにしているということ。

僕も旅行に行くときは本を持って行くことにしているのですが、大体1冊も読み終わらずに終わってしまいます。行きの飛行機は早起きしているためにぐっすりと眠っているし、帰りの飛行機も疲れているために絶対に寝てしまいます。

旅行中も、せっかく来たのだから時間いっぱい色々なところを回り、帰ったらすぐに寝てしまうので、本を読む時間が取れません。一体、どうやって1日に1冊も読んでいるというのでしょうか……。

しかし、無理して様々な場所を巡らずに旅先でのんびりと本を読むのも楽しそうではあります。いつも同じところばかりで本を読んでいると、疲れてしまいますもんね。ヨーロッパで本を読むと、また違った楽しみ方ができるのでしょうね。
読んでいて、今すぐ旅に出たくなるようなエッセイでした。ヨーロッパは言葉が分からないとヘトヘトに疲れそうなので、ひとまずは屋久島に行ってみたいです!

屋久島へ行く前夜にこのエッセイを読み返し、同じルートを辿るというのも楽しそうですね。そのときは、ぜひともウィルソン株をこの目で見たいものです。

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あとーす
あとーす
蓼食う本の虫 主宰。文芸同人「無間書房」で短編小説や140字小説を書いています。

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