チャットフィクションは日本でも新しいテキストコンテンツの形になり得るのか?

今月10日に、株式会社FOWDからチャットフィクションアプリ「Balloon」がリリースされた。チャットフィクションとは、LINEなどのチャットアプリに似たUIで進行していくタイプの物語だ。地の文はなく、会話も短文のやりとりで物語が進んでいく。

Techcrunchの紹介記事によると、米国のティーン層の間でこのチャットフィクション人気が高まっているらしい。

僕もここ数日、「Balloon」や同様のアプリである「TELLER」などの作品を読んでみている。チャットフィクションは、果たしてテキストコンテンツの新しい形となり得るのだろうか?

コンテンツ消費の変化

僕も最近はめっきり長い小説を読まなくなってしまった。というより、“読めなくなってしまった”という方が正確かもしれない。もちろん、今でも小説をはじめとした本を読むのは好きだ。しかし、それは時間があるときにやることで、隙間時間にはTwitterなどをチェックするようになってしまった。

また、知人とのチャットに時間を費やすことも多い。僕らは普段、無意識的に短文に最適化した生活を送っているのかもしれない。

そこに目をつけたのが「チャットフィクション」だということだろう。僕たちがいつもなれ親しんでいるUIで物語が進行していく。

小説をずっと書いてきた身としては、こういうテキスト形態に対して少し疑問を抱いている。それは、一時期流行った「SS(ショートストーリー)」に対する気持ちと似ている物があるかもしれない。SSとは、地の文はなく、会話文だけで進行していく物語のことだ。

とは言え、僕が許せないだけでテキスト消費の形態は明らかに変わってしまっているのだから、SSやチャットフィクションのような物語形態が求められる可能性はある。というより、SSは求められていた。

しかし、SSは一つの文化として完成しなかったように思う。それは、単純に多くのSSの“出来が悪かった”からではないだろうか。もちろん、素晴らしい物語も中にはあったことだろう。しかし、それは表面化しなかった。それに、そもそも会話文だけで“出来の良い”物語を作ることが、僕にとっては不可能なことのように思える。

とはいえ、僕も“出来の良い”はずの小説がなかなか読んでもらえないという事実にも気づいている。長文のテキストは、その良さがすぐには分からない。だからこそ、僕も140字小説というジャンルに取り組んでいる。

(140字小説が気になる方は、当サイトの140字小説カテゴリもあわせてご覧ください。)

チャットフィクションに勝機がないわけではない。事実、米国のティーン層に絶大な人気を誇っているというのだから。あとは、このテキスト消費の形態が日本人にもマッチするか、“出来の良い”作品を創る書き手が現れるのか、というところにかかっていると思う。

日本のチャットフィクションの現状

そして、BalloonやTELLERの作品を読んでみて思うのは、まだまだコンテンツのレベルは高くないということだ。もちろん、新しいコンテンツの形式なので、ここで高レベルなものを求める方が酷な話である。

とはいえ、今のままでは先ほど述べたSSや、2ちゃんねるのまとめ都市伝説の焼き直しのようなものが多いという印象だ。チャット形式であるという特徴をがっつり利用した書き手が現れれば、また現状も変わるのかもしれないし、そうあって欲しいと願っている。

特にTELLERにアップされている「赤い部屋」という作品は、怖い話をほとんど知らない僕でも知っているような有名な話をチャット形式に落とし込んだだけのものだった。これでは、誰も課金することはないだろう。

今は、これが公式の作品として提供されている状態だ。この状態で他のコンテンツと戦わなければならない。相手は小説だけではない。漫画アプリやソシャゲ、アニメ、Youtubeなどの動画などと、あらゆるリッチコンテンツとも戦っていかなければならない。

ちょっとした暇つぶしにテキストを読みたいのであれば、それこそ前述した2ちゃんねるまとめを読めば良い。著作権の問題はあるが、これらのまとめは無料で読めてしまう。文章も平易なもので書かれているので、どんな人でも気軽に読める。

そんなコンテンツがあるのに、わざわざチャットフィクションに人はやってくるだろうか? そして、それに課金をするというようなところまで行くだろうか?

公式作家とCGM

チャットフィクションの動きは、漫画アプリと同じようになるのではないかと考えている。

一つは、作家陣をとりあえず豪華にしていくというような方向だ。すでに小説やシナリオ作家、劇作家などとして活躍している人であれば、チャットフィクションのような形式でも素晴らしい作品を作れる可能性は十分にあるのではないかと考えている。まずは、運営側がそのような作家を準備することが急務だといえるだろう。

そう考えると、今後どのような企業が参入してくるだろうかというところも非常に楽しみなところではある。すでに活躍している作家と繋がりがあり、そこに原稿料を支払うことができる体力のある企業。もう少し市場が成熟すると、そういうプレイヤーも登場するのではないだろうか。

公式作家とは別に、サービスをCGM化するという方策も取ることができると思う。作品の投稿機能を一般の人にも解放し、そこでコンテンツを拡充していくという方向性だ。作品の質をコントロールすることは難しくなるが、量を確保することはできるし、チャットフィクションという文化を爆発的に加速させることができるだろう。

ただ、同じく会話で物語が進行するストリエがいまいちブレイクしきれていないところを見ると、この方向性も可能性があるのかと少し疑問が残るところではある。

まとめ

チャットフィクションが日本でブレイクするのか、というところは正直なところまだわからない。というわけで、テキストで勝負しているクリエイターにとってチャンスのあるかというところもわからない。

しかし、米国で起こっていることが日本でも起こるということは十分に考えられる。今後も、チャットフィクションの行く末に注目していきたい。

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