プロ志向のアマチュア作家向け指南書? 筒井康隆『創作の極意と掟』

筒井康隆さんと言えば代表作『時をかける少女』を筆頭としたSF作家でありながら、純文学や他のエンタメ領域にも跨る多種多様な作品を生み出されてきた大作家さんであるわけですが、その筒井康隆さんが書いた『創作の極意と掟』が文庫化されたと聞いて黙っている訳にはいきません。

この題から推して測るに、興味を示す読者の中には自ら小説を書いている方が多いはず…。

そんな方々のために、本書が小説を書く上で実用的であるかどうかの点に触れながら紹介してみようと思います。

 

どのような人のための本なのか

先ずは序言から少し引用させていただきます。

この文章は謂わば筆者の、作家としての遺言である。その対象とするのはプロの作家になろうとしている人、そしてプロの作家すべてだ。
(『創作の極意と掟』序言より)


筒井康隆さんの想定では、この本の読者はプロか、それに近い創作者ということになるようです。

これはいわゆる教科書でもなければ何なに読本の類いでもない。ふざけたタイトルからもわかるように、単なるエッセイだ。
(『創作の極意と掟』序言より)

こちらでは少し様子が異なります。エッセイとして楽しめるわけですから、どのような読者に対しても開かれていると言っていいでしょう。

つまり、筒井康隆さん曰く、本書から創作者として何か盗もうというのであればプロ並みの文章を書けることが大前提であり、本書を楽しむのであれば誰でも構わない、そう言っているように思えます。

甘い言葉をかけないあたりはさすがの貫禄ですね。

そのようなお言葉にも負けじと、小説を書くためにこの本から得られるものを総括するとすればそれは「工夫についてのヒント」でしょう。

書き方というよりも、面白さや文学性を追い求め悩んでいる方でしたら参考になることも多い筈です。

とはいえ、エッセイとしても読書案内としても十分面白い内容となっています。

内容の分類

さて、本書をわかりやすく紹介するために全31項目を大雑把かつ私的に分類させていただきました。

勘違いしがちな話

凄み 色気 濫觴

読者はきっとこう思っているのだろうが、実は〜という形式の話題が登場します。

注意したいこと

破綻 表題 迫力 会話 省略 形容 細部 蘊蓄 妄想 諧謔 

こういうようなことは止めておけよ、また、こういう失敗があるぞという内容が見られる章です。

試みの話

揺蕩 展開 省略 実験 意識 異化 逸脱 電話 羅列 連作 文体 視点 反復

この本の中で最も多く語られているのは試みについてでしょう。レベルの高いお話ですので無闇にこれらの章の中身を生かそうと思うと怪我をする恐れがあります。

生活

薬物 品格 幸福

これらの章は単にエッセイとして読むのがよいかと思います。

技術的指南

語尾 遅延 人物 視点

割と基本的な話が含まれていますのでどなたにとっても参考になるのではないでしょうか。

最後に

こうして見ますと、やはり全体的に“このように書くといい”ということが書いてあるわけではありません。

筒井康隆さんは、序言で次のようにも書いています。

小説とはどのように書いてもよい文章芸術の唯一のジャンルである、だから作法など不要、というのが筆者の持論
(『創作の極意と掟』序言より)

しかしながら、筒井さんはこの本の中で“これはやらない方がいい”ということを多く述べています。
これらを読めば創作する上で想定される失敗をいくつか避けることができるのですから、創作をする皆さんにとって大きなメリットとなるのではないでしょうか。

また、はじめにも書いたように、試みについての話も多く述べられています。そのまま扱うことは難しいかもしれませんが、工夫のためのヒントにつながるのではないかと思います。

ABOUTこの記事をかいた人

桜鬼 (波の寄る辺)

公募と同人と、模索の日々。 (良くも)悪くも浮世離れした話を書いています。 梶井基次郎の器楽的幻覚、Kの昇天、蒼穹、筧の話、中原中也の一つのメルヘン、或る夜の幻想等が好み。