思わずヨダレが…?!鶏の唐揚げに関する作品だけを集めた同人誌『文芸アンソロジー トリカラ』

お初にお目にかかります。怪しげな文芸サークル「神聖自炊帝国」からやってきました、紫水街です。

今回は、去る10月に開催されました文フリ福岡に参加した際、『七歩』様のブースにて購入した『文芸アンソロジー トリカラ』(以下トリカラアンソロ)を紹介させていただこうと思います。

鶏の唐揚げに関する短編が詰まった一冊。

きっと読んでいるうちに唾液腺を刺激されまくるのでしょう。読み終わった後は近所の定食屋に駆け込んで鶏の唐揚げ定食を頼んでしまうに違いありません。

ちなみに私は「孤独のグルメ」「ワカコ酒」「ダンジョン飯」「食戟のソーマ」等々のご飯系漫画大好きマンです。当然、ご飯系の小説も大好きです。食べ物の描写がおいしそうな作品は基本的に名作であるというのが私の持論です。というわけで、食べ物関係の本を見かけると買わずにはいられません。

それに、神聖自炊帝国にも所属してますし……。あ、神聖自炊帝国って何? という方はぜひとも公式Twitter(@holyjisuiempire)をフォローしてくださいね!

こちら委託販売だったらしく(七歩様は寄稿されているものの、発行者ではないとのこと)、発行者は『氷砂糖』様でした。どこまでも食べ物ですね。

案外薄い?でも中身はぎっしり!

さて、Twitterの宣伝ツイートで見かけてから気になっていたこの『トリカラアンソロ』ですが、かなり人気だったようで、早々に売り切れていました。

10月8日に開催された第3回文学フリマ福岡は私もサークルで参加して、ブースに立ち寄った犠牲者たちに甘言囁き詭弁を弄し、怪しげな本をたっぷりと売りつけてきたわけですが……イベントというのは、ついつい財布の紐が緩みがちですよね。

気になる本を見つけたら買わずにはいられません。しかも目の前に並んでいるのは、書店流通しているものと違って、ここで買わねば一生手に入らない可能性のほうが高い同人誌たちなのです。

そう、本との出会いは一期一会。買わずにいられようか、いや、いられない(反語)。

そういうわけで躊躇なくゲットしたこのトリカラアンソロ。

案外薄い、と思ったのも束の間。パラパラと捲ってみると……思った以上に文字がギッシリ。そう、この本文フォント、かなり小さめに設計されています。可読性を失わないギリギリのラインです。

しっかりと身が詰まっているというわけですね。揚げたての鶏胸肉の唐揚げのように。さすがトリカラアンソロ!

余談ですが、鶏の唐揚げを作る際にはつけダレの中にウイスキーを適量入れることで香ばしく仕上がるそうです。

一人暮らしを始めてから一度も揚げ物をしたことがないのですが、いつか揚げ物をするなら最初は絶対に唐揚げだと決めています。噛むと肉汁が弾け飛ぶような唐揚げをごろごろ揚げて、熱々のまま食べるんです。絶対楽しい。唐揚げパーティーしたい。

さてさて、トリカラアンソロについて見ていきましょう。特筆すべきは、やはり表紙でしょうか。

おいしそうな表紙!

見てくださいこのおいしそうな写真!(皿に載せてみました)

悪魔的なまでのチョイス……一目見れば腹を鳴らさずにはいられない、熱々の唐揚げ写真です。もう、この表紙を見ながら白ご飯が三杯ぐらい食べられそうですね。

皆さんも「表紙買い」したことありますよね?

本を買うとき、中身を全部読んでから買う人って少ないと思うんです。表紙やレビュー、前評判から「これは面白いだろう」と判断して買う……本を買うのって実はけっこうギャンブルなんですよね。

つまり、表紙がよければ買われる確率は上がります。同人誌を作るときも、たとえどんなに面白い中身でも表紙がダサかったらあんまり手にとってもらえないわけです。

個人的な話になりますが、イベントにて「表紙に騙されて手にとったけれどあまり面白くなかった」という経験はしたことがありません。表紙にこだわる作者さんはほぼ例外なく中身にもこだわっており、どれもこれも面白いのです。

問題なのは「表紙では興味を唆られなかったが読んでみるとものすごく面白い本」の存在ですが……これは何度も体験しました。昆虫が擬態して捕食者から身を守るように(?)、こういうものは一定数存在します。読んでみる以外に判別法がないのが非常に残念です。

そんな表紙ですが、自分で作れば安上がりで、しかも自分のやりたいようにやれます。外注すれば、お金はかかりますが素敵でクオリティの高いものが見込めるでしょう。

友人に都合よく神絵師か神写真家がいて、「え、お前本作るの? 表紙描いてやる(撮ってやる)よ!」となるのが最高なのですが、現実はそう甘くありません。
どこかに神絵師か石油王が落ちてたらいいのに。

さて、「表紙によって興味を惹く」点においてはこの表紙、完璧ですね。ただただ旨そう。写真と文字以外の余計な情報を一切合切削ぎ落とした感じ、まさにシンプルイズベスト。

表紙で気になり、手にとってみると中身もぎっしり……素晴らしい二段構え。やっぱり手にとって眺められるサンプルは重要ですよね。文フリでいう見本誌です。これぞシンプルイズベストならぬサンプルイズマストってね。はい。すみません。

中身もご紹介!

さあ、話を戻しましょう。なんだか、こうやって書いてるだけで唐揚げが食べたくなってきました。

おいしそうな表紙に期待度は高まる一方。さっそく本を開き、目次を見てみると、実に十一篇。もちろんすべて鶏の唐揚げの恐るべき本です。

そして執筆陣も、文学賞受賞経験のあるプロ作家さんから小説執筆未経験の方まで実に幅広く揃っています。ここまでの幅はあまり目にしたことがありません。通常のアンソロジー参加者は皆「趣味で創作を嗜んでおり、企画参加するほど意欲の高い人」がほとんどですからね。

多様性……テーマ固定アンソロジーの発行において何よりも重要なポイントのひとつです。同じテーマの中でどのように違いを出していくか、これはアンソロ主催者としてかなり大きな悩みどころだと思います。なにしろ原稿の内容は各自に任せるほかなく、どのような作品が出揃うかはいわば運任せでしかないからです。
その点、執筆者自体に幅を持たせるというやり方は非常に上手であると感心しました。

本文に移りましょう。

鶏の唐揚げというテーマこそ共通しているものの、内容は実に様々です。同じ唐揚げでも店によって味が違うように、SFから恋愛、散文チックなものまで彩り豊かに揃っていました。

今回は、もっとも気に入ったひとつだけを紹介しようと思います。本当はすべてを紹介したいところですが、文字数の都合上割愛させていただきます。申し訳ありません。

紹介するのは『海崎たま』様の『トーコのトリカラ弁当』です。

舞台は昭和の日本でしょうか。おとぎ話のような、ファンタジーのような、伝記のような。滔々と流れ出す文章によって、あっという間に怪しい夕焼けの町の中へと引きずり込まれてしまいました。

弁当屋の娘であるトーコが鶏を締め、トリカラ弁当を作り、これまた怪しげな僧侶の集団へと売る。日常のなんでもない風景を切り取った活動写真のような作品です。それも、古いインスタントカメラで撮ったような、どころどころボケて滲んだ写真。

読んでいるうちに胸に去来するのは、言いようのない懐かしさ。自分の子供時代の記憶が、子供の頃に食べた鶏の唐揚げの味が、セピア色に染まって甦ります。

もっとも強烈に迫ってきたのは、僧侶たちがトリカラ弁当を食べるシーンです。本来は殺生を禁じられているはずの僧侶たちが、締めたばかりの鶏の唐揚げを貪り食う一場面。少し本文より抜粋させていただきます。

ムシャムシャ、ガツガツと箸で米と唐揚げをかき込みながら、顔や服に米粒や肉の汁を飛ばしている。手掴みで次々に口の中に米を放り込んでいくものが居れば、箸を放り出して両手で器を持ち、犬のように顔を突っ込んで弁当を食らっている者もいた。

この後、トーコは胸の内で僧侶に向かって毒づきます。「他人に殺させた肉を食らって生きるんだ」「自分たちだけ徳を積むんだ」と。名前をつけ、かわいがっていた鳥を自らの手で殺し、調理したトーコだからこそ吐ける言葉が、容赦なく心に突き刺さってきます。僧侶に向けた罵倒は、明らかに私たち読者へも向いているのです。「お前が食らっている肉は、誰かが殺した生き物なんだ」と。

命を殺し、食べるということ。それがこの作品を貫くもう一つのテーマとなっています。パックに入った肉の生前の姿を想像もしないまま私たちは毎日を過ごしています。その欺瞞を、目を背けていたことを、生活の一部を切り取ることで痛烈に浮かび上がらせているのです。

トリカラというテーマに沿いながらもさらなるテーマを突き詰めた、非常に素晴らしい短編でした。めっちゃ好きです。

力作揃いのトリカラアンソロですが、素敵なのは作品だけではありません。短編と短編の間にも仕掛けが施してありました。

ひとつだけ紹介しましょう。なんと、Twitterでおこなわれた謎のアンケート結果報告が挟まっています。

Q.トリカラ
1.「ト」
2.「リ」
3.「カ」
4.「ラ」

これは一体何のアンケートだ? このアンケート結果から何がわかるんだ? アンケート結果はネタバレになるので書きませんが……ネタバレになるのか? そもそもネタバレって何だ?

謎が謎を呼ぶ謎のアンケートが作品と作品の間にしれっと挟まって、箸休め的な役割を果たしています。まさに、そう、唐揚げと唐揚げとの間に食べるシャキシャキの千切りキャベツのように。

なんというか、味な真似をしますね。

まとめ

ここまで好き勝手書き散らしてきたのですが、そろそろ締めに入らせていただきます。

表紙の暴力的引力に始まり、執筆陣の多様性、作品の間に挟まる小ネタ等々、アンソロジーとしての工夫が随所に盛り込まれていた本作。非常に完成度の高い一品、いや逸品でした。楽しませていただきました。

こちらで購入できるそうです。
→ 文芸アンソロジー トリカラ|架空ストア

在庫も残っているようですよ(2018年3月19日現在)。チャンスですね。

(これは最後に書くことでもない気がしますが、実は鶏の唐揚げをトリカラって略すの、初めて見ました。これひょっとしてメジャーな呼び方なんでしょうか?)

同人誌と商業出版の違いは、好き勝手やれるということに尽きますね!

売れるとか売れないとか考えず、自分のやりたいことを全力で詰めこめる。これが同人誌の醍醐味だと思っています。

数人で話し合いながら一冊の本を作り上げるのは、それはもう楽しくて仕方がないですから。また、一人で自分の性癖を全力で詰め込んだ本を作るのもきっと楽しいと思います。

まだ個人誌を出したことはないですが、私もいつかは出してみたいものです。

さて、初めてで拙い記事だったと思いますが、読んでいただいてありがとうございました。

いつかまた別の記事で(あるいは文フリ等のイベントで)お会いしましょう。さようなら。お元気で。

ABOUTこの記事をかいた人

紫水街

文芸サークル『神聖自炊帝国』の国土。「自然言語処理マシーン」と呼ばれることも。いつか人間扱いされる日を夢見つつ、文章を読んだり書いたりして優雅に暮らしている。