瘤久保 慎司『錆喰いビスコ』/最近のラノベを語りたけりゃァまずキノコを倒してからにするんだな!!

「最近のラノベは異世界転生ばっかりだ!!」

なるほど最近の新刊は異世界転生モノが非常に多い。その指摘は正しい。

だが、全てではない。

異世界転生モノだけが「最近のラノベ」ではないのもまた事実だ。

その証左として、めちゃめちゃ面白い「最近のラノベ」を一冊、ここに紹介しよう。

『錆喰いビスコ』。第24回電撃小説大賞《銀賞》受賞作。

2018年の3月に出版され、電子書籍版が4月に配信されたばかりの新作である。

とにかくめちゃめちゃ面白いので、私はこの本の話がめちゃめちゃしたい。全人類はこの本をとにかく今すぐ買いに行き、私とめちゃめちゃ熱く語るのが良いと思う。だがあまりにめちゃめちゃ面白くてびっくりしてしまうと思うので、免疫をつけるために内容を紹介しておこう。

尚、この記事では高度なネタバレ・プロテクションが機能しているので安心して免疫をつけて欲しい。

おいしくてつよくなるビスコ

「『つよい男の子に、なるように』……」

「……何だって?」

「おいしくて、強くなる、ビスコだ。」

――赤星ビスコ

主人公の名前はビスコ。赤星ビスコ。そう、グリコのビスコだ!

なんでビスコ!?

――理由はかんたん。この物語は異世界転生モノではないからである。

この物語は、未来の日本を舞台としている。

日本の文明が滅び去って、今やお菓子のビスコは旧世界の遺物として扱われる世界。現代の我々が、先祖や過去の偉人から名前を頂くのと同じなのだ。

難しい言葉でいえば、ポスト・アポカリプス世界観というやつである。

簡単な言葉でいえば、モヒカンの跋扈するヒャッハー世界というやつである。

だから主人公の名前はビスコだし、主人公の顔は怖い。それは厳しい世界を生き延びる、熱い生命力のあらわれだ。本編の中ではモヒカンのモの字も出てこないが、しかしこの物語にはモヒカン魂が通底しているのである。

群馬・イズ・ハードボイルド

全てのすぐれた強者物語ハードボイルド)は荒野から始まる。常識だ。

だが、この物語はさらにその上をゆく。

舞台が幕を開けるのは、群馬県

そう、あの群馬だ。テキサスにヨハネスブルグ――そして群馬こそは、世界三大ハードボイルド・スポットに数えられる。荒野は群馬から物語が始まるのだから、こいつは最高が約束されたことと同義だ。

この世界におけるハビタブルゾーンは多くない。群馬はいまや数少ない、秩序の残された都市のひとつである。

群馬を抜けたその先に広がるのは、埼玉鉄砂漠。そこは、東京爆心穴から吹く「錆風」によって食い荒らされた文明の墓標だ。

「錆風」が蝕むのは鉄だけではない。この世界の人類は、「サビツキ」という奇病に蝕まれ明日をもしれぬ毎日を過ごしている。都市の内では法外な治療薬に金を奪われ、都市の外には凶悪な進化生物たちが暴れている。

そんな世紀末と化した日本を舞台に、赤星ビスコが大切な人の命を救うために旅をする。そんなシンプルな筋書きが『錆喰いビスコ』の物語だ。

「群馬」「埼玉鉄砂漠」「サビツキ」――わくわくワードが満載だろう。ロマンメーターがぎゅんぎゅんに回り始め、性癖ランプがちかちか明滅する。

そんなわくわく世界を旅する物語だというのだから、展開はバトルとサバイバルの連続だ。おそろしいテンポでとんでもない強敵が次々に現れ、えげつないペースで全員ピンチに追い込まれていくので安心して読んでいける。

そしてキノコだ。

悪鬼だの修羅だのと形容されるやたら顔が怖いこの赤星ビスコ、彼のメインウェポンは弓、そしてキノコなのである。

弓? キノコ? 主人公の名前は変だし悪人面だし、本当にこんなのが面白いの?

そう思うのも詮方無い。だが安心して欲しい。この男、めちゃめちゃカッコイイのである。

ビスコのキノコはスーパーキノコ

まず、我々は弓のパワーを思い出さなければならない。

「弓キャラ」というと、なんだか後方支援の先入観が付きまとう。弓は美少女キャラの武器という見方も強い。

だが本来、弓は最強の武器だ。まだ武士がウッホウッホと乱暴狼藉を働いていた源平の頃から、武士のメインウェポンは刀ではない。武士の道は弓馬の道。そう、弓こそ真のつはもの)の武器なのである。

主人公、赤星ビスコの弓は強い。その剛弓は岩を貫き、鉄を切り裂く。

これまでの弓イメージを一変させる、無茶苦茶で豪快無比な弓バトル! ゲーマーの間では「弓が強いゲームは良ゲーの法則」なんてものが語れることがあるが、その噂に照らし合わせるならば、本作の戦闘シーンはまさしくマーベラス。荒々しく、テンポの良い言い回しで展開されるバトルアクションには駆け抜けるような爽快感がある。

だが、赤星ビスコの放つ矢はただ敵を貫くだけではない。

矢が突き刺さったモノには、 キノコが生える。しかも、超でかいキノコが。

だから戦闘シーンは爆発の連続だ。

家を射抜けば、壁天井を突き破って巨大キノコがめきめきと発芽するし、敵兵器を射抜けば、内側からキノコが膨らんで爆発四散する。独特の擬音表現とともに発芽するキノコ描写は荒々しい生命力に満ちあふれていて、本作の持つ”アクの強さ”を象徴しているかのよう。

実のところ赤星ビスコは、世界有数のキノコ使いだ。崩壊した世界における特殊なキノコを操る菌術、分けても破壊専門の菌術の専門家、それが赤星ビスコという男である。

もちろん、キノコの用途は何も敵を爆裂させるに留まらない。でかいキノコを発芽させてジャンプ台にしたり、時間差でキノコを爆裂させたりもする。次々に繰り出されるド派手で奇天烈なキノコ捌き、しかしこれがケレン味たっぷりで最高にかっこいい。ビスコのキノコは天を突くキノコ、無理を通して道理を蹴っ飛ばすキノコなのである。

弓でキノコという、前代未聞の組み合わせ。これが意外とイケるのだ!!

男の子回路、フルチャージ

荒廃した日本を舞台に、弓とキノコで赤星ビスコが戦い抜く。

この設定だけで、ご飯三杯はいける。男の子回路に火花が走る。

性別など関係がない。この燃え上がる受容回路は全人類に搭載されている。それは便宜上、男の子回路と呼ばれている。人類は皆、心の中に5歳の男児を飼っているのだ。

男の子回路をぎゅんぎゅんに回すものはなにか? ――それはロボットアニメである

よって男の子回路がバチバチに回る本作もまた、すなわちロボットアニメである

本作はロボットアニメなので、当然めちゃめちゃ強くてカッコイイヒロインが出る。
本作はロボットアニメなので、当然めちゃめちゃ強くてカッコイイおっさんが出る。
本作はロボットアニメなので、当然めちゃめちゃ強くてカッコイイ悪役が出る。

そして本作はロボットアニメなので、当然、大切な人のためにボロボロになってまで命を懸ける、熱き人々の輝きがある。親と子の、友と友の、絆に殉ずる人々の煌めきがある。
論理的な帰結である。

我々は、最高の小説を読んだ時は涙を流して「ロボットアニメだ」と叫ぶ。最高の漫画を読んだ時に「ロボットアニメだ」と拳を突き上げ、最高の演劇を観た時に「ロボットアニメだ」と吠え、最高の詩を詠んだ時に「ロボットアニメだ……」と涙をこぼす。

だから『錆喰いビスコ』もまた、ロボットアニメだ。実際にロボットが出ているかどうかなど関係がないのだ。そこに熱い輝きがあれば、そう、男の子回路がぎゅんぎゅんに回るならばすなわちそれはロボットアニメに値する。だからこれはロボットアニメだ。それは最高ということだ。

すげえぞ電撃文庫

ここまで語ってきた通り、本作『錆喰いビスコ』は非常にシンプルな物語だ。

妙ちきりんな世界観で、へんちくりんな主人公が、しかしめちゃめちゃ熱いバトルを繰り広げる。泥臭く、暑苦しく、アクが強い本作は、思えば流行りのラノベの傾向とはだいぶ毛色の異なる作品である。

実は、アクが強くて癖が強いのは『錆喰いビスコ』だけではない。

そう、実は電撃文庫は超すごい。毎年、「流行りのラノベ」とは一線を画すものを出してくる。近年の電撃小説大賞は、毎回「なにこれ!?」と目を疑うような作品、「今どきこんなん売れる訳ないだろ!」と思うような作品が受賞している。

断っておくが私は異世界転生モノもチート無双も大好きだ。大好きだが、それをもって「最近のラノベ」と言われるのは御免こうむる。この『錆喰いビスコ』をはじめとして、電撃文庫が出している”最近のラノベ”も是非に読んでみて欲しいと思う。ステレオタイプな「最近のラノベは異世界転生ばっかり!」という考えを、木っ端微塵に吹き飛ばせることだろう。

なんと奇遇なことに、今なら電撃文庫の公式サイトで無料で試し読みが出来るじゃないか。

読もう。今すぐ読もう。

読んで私と熱く語り合おう!!