同人誌を主催する人が知っておくべきカラーマネジメントについて

アイキャッチイラスト:櫁(しきみ)さん

以前に「はじめて同人誌をつくるときの心構えと実務」を書きましたが、今回は「表紙の依頼と印刷」にフォーカスを当てたときの具体的な注意点です。

「絵師に依頼して印刷所に任せておけば大丈夫だろ」では済まないところが多々あるので、デジタルデータと印刷についての基礎知識を押さえておきましょう。

デジタルデータの落とし穴

同人誌制作の流れとしては、絵師さん(あるいは写真家さん)に表紙を作ってもらうよう頼んで、いただいたデータを印刷所に提出します。しかし、そのデータに「とある処理」がされていなければ、印刷時に色が変わってしまうんですね。

一生懸命つくってもらった絵の色を損なうのは、とてもおそろしいことだと思います。文章を書くひとだったら、たとえば、原稿が途中から変わっちゃうぐらいのショックでしょう。それは「じぶんが見てもらいたかった内容が損なわれる」ということですからね。

もちろん、その責任が誰にあるのか、つまり「主催(制作進行)」にあるのか、依頼された「絵師」にあるのか、オーダーを受けた「印刷所」にあるのかは、個々の契約によるでしょう。私は「ぜんぶ主催のせい」という話がしたいわけではありません。ただ、作品を守れるのは主催しかいない、という点を重視して共有しております。

カラーマネジメントができているか都度確認

表紙を守るために必要な知識は「カラーマネジメント」です。このカラーマネジメントにはやや面倒なところがあって、私を含め、絵師さんも、印刷所も、微妙に抜けていることがよくあります。

ふだん「印刷」への意識がない環境で描かれている絵師さんであれば、カラーマネジメントの知識はおそらくゼロに近いはずです。家庭用のプリンターで「出力」している絵師さんでも、「印刷」と「出力」が方式的に異なることを理解しているかどうかは怪しいです。

まずは、最も「なんとなく」になっているはずの、RGB/CMYKについて軽く触れます。

RGBとCMYK

 このふたつは色の範囲(gamut)がそもそも違うんですね。RGBのほうが範囲が広く、CMYKでは色の範囲が狭まります。以下に例を出します。

 こちらが「RGB」の色域です。蛍光色も鮮やかで、映えますね。

 
 

こちらは「CMYK」の範囲で表示した色です。私がなにか悪さをしたわけではなく、なんの対処もしなければこうなります。範囲が狭いので、鮮やかだったところが暗く落ち込んでくすんだ色になりました。(CMYKが苦手な色ばかり選んでもらったので、全体的にダークな感じになりました)

パソコンなどのデジタルで絵を描いているひとは、たいはん「RGB」のほうでやっています。それに対して「印刷」というのは、どこも「CMYK」で行われています。このズレを理解していないと「印刷物の色がおかしい!」となって、印刷所へのヘイトが溜まってしまいがちです。もちろん、どの印刷所もサイトで注意喚起しているはずです。

RGBとCMYKのテクニカルなちがいについては、もっと専門的な優良サイトがたくさんあるのでそちらに譲りますが、とにかく「私たちの持っているモニターの色設定は基本めちゃくちゃで、絵はRGBで、印刷はCMYKで、家庭用プリンターは勝手に自動補正しててあてにならない、つまり全部ズレているよ!」ということを前提にしておかなければなりません。

プロファイルがいちばん大事

先ほどの比較画像は極端な例ですが、よくあることでもあります。たとえば「AdobeRGBで明るい水色だったものをCMYKに変換したら絶望した」なんて話がごろごろ転がっています。印刷所もクレームやトラブルにならないようにがんばりますが、印刷業界的には常識中の常識なので、認識がズレていることもあります。

とにかく同人誌印刷で重要なのは、制作者の記録したプロファイルです。

ちゃんとしたイラストソフトでは「ICCプロファイル」という記録をつけることができます。これは、「こういう環境で絵を描いたよ、色はこれだよ」という申し送り事項をメモった、いわばデジタル付箋のようなものです。

いいところの印刷所のスタッフさんは、そのメモを見て「なるほど、じゃあこれはこういうことだな」と、できるだけ色を的確に翻訳できるように対応してくれます。

逆に、このプロファイルがない場合(あるいは正確ではない場合)、色の正確な翻訳がむずかしくなるんですね。プロファイルをしっかりやる必要があります。ルールは、印刷所のサイトに必ず書いてあるはずです。

ガチでやるならキャリブレーション(較正)

色を完全に一致させることはできませんが、プロ志向であれば「同じ基準で色を決めればほぼ近いところまでは調整できるはず」という発想のもと、きめ細かい調整作業、つまり「較正(こうせい)=キャリブレーション」を行います。

じぶんの作業用のモニターと印刷所で、できるだけ同じ条件でキャリブレーションできれば、かなり近い色を再現できます。ただ、ここで重要なのは、ハイレベルな調整作業に対して、技術的・費用的・コミュニケーション的に応答できるかどうか、という非常に高いハードルです。

プロを志向しないのであればキャリブレーションは無理してやらなくともいいかなと思いますが、技術と費用とコミュニケーションさえあれば、非常に近い色を再現することも可能ということだけは知っておくとよいかもしれませんね。

印刷所選び

さて、意外と大事なのは「印刷所選び」です。「印刷所付き合い」と言ってもいいかもしれませんね。これがうまくいくかどうかで表紙の色が変わってきます。

まず、大前提として、オフィシャルサイトに記載されていることをすべて読解します。とくに「データについて(RGBについて)」とか「入稿について」とか「Q&A」とか、そういう感じで書かれているはずです。

そこで注意されていることや提示されているルールがわからなければ、きちんと問い合わせます。ここで知ったかぶりして入稿すると、

  1. 受付拒否でイベント当日に間に合わなくなる
  2. スタッフさんに超迷惑がかかる(無駄なオペレートと残業をさせることになる)
  3. ぜんぜんイメージと違う変なものが仕上がる

このどれかの不幸なパターンになるでしょう。

時代が時代ですから、緑陽社さんのように「RGBで入稿しても無料でなんとかするよ!」という同人誌印刷所もあります。あるいは、有料オプションでビビッドな仕上がりに戻してくれるところも見かけます。

とにかく私たち「印刷素人」が作るデータはギャンブル要素満載です。良心的な印刷所とお付き合いできれば、すこしは色にこだわってもらえるし、きちんとコミュニケーションして絶望的な結果は回避できます。

もちろん、いいところはいいとこなりの料金です。逆に安いけどノーチェックで印刷する印刷所もあります。いろいろですね。なんにせよ「イメージ通りの色を出す」のは難しいです。どこまで近づけるかという部分で、印刷所とのカラーコミュニケーションが大事になります。

個人的な経験としては、ねこのしっぽさんが非常によかったです。費用はやや高い印象ですが、色に対するこだわりがスタッフさんから感じられます。神奈川県にあるので、近場の方はぜひ店頭入稿してみてください。よその印刷所では感じることのない「やる気」を感じます。

最後に。印刷所もミスることがあります。本番で使う印刷機を使った色のチェック作業――本機色校正と呼びます――も、人間の目でやっていて、通しちゃいけないものが通ることもしばしばあります(とくに色のダブリなど)。スケジュールに余裕があって見本を受け取れたら、小型顕微鏡で見て、印刷機による色の不具合がないかチェックするぐらいの心意気がほしいところです。

余談ですが、やる気のない印刷所なんかは適当な設定でチェックすることもあります。そういうのは対応の雰囲気でなんとなくわかるはずです。口コミもチェックしましょう。

まとめ

表紙の色で不幸にならないように、制作側ができることをやっておく。最低限の知識、最低限のコミュニケーション、最後は運なところもありますが、あとで困らないように最善を尽くしておきましょう。

主催が主体的に守ってゆく部分だと、私は思っております。

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