ネネネの短歌条例第一回「帰路」


信号が青に変わって人波が乱れることなく流れ始める。
透明な仕切りで満ちた世の中を上手に泳げることが幸福なんだって信じる波だ。

息つぎが、あのとき突然できなくなった。
目の前がふっと歪んで足元が崩れて、わたしは列から逸れた。
さっきまで一緒に泳いでいたはずの影がどんどん遠ざかる。
さよなら、と心のなかでつぶやいた。待ってくれとは思わなかった。

ああやっと、沈んでいける。
苦しみを受け入れられる。ほっとしていた。

とめどなく溢れる涙のスピードが雨と同じで少し笑った。
眼球がこんなに濁ってしまっても涙に色はつかないんだね。

ただ深く潜る。あなたの夢を見た。海に帰ったあなたの夢を。

口づけがまぼろしみたいに優しくてぬるい湿度を持っていたこと。
途切れない悲しみさえも抱きしめて全部ひとりで背負ってたこと。

どうせまた傷つくのならそのときはあなたの嘘に絶望したい。

ゆっくりと瞼を閉じて朝を待つ。
泡になれない人魚のままで。

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●短歌条例とは?
57577の短歌のリズムでつくられた詩のこと。お笑いコンビ、ラーメンズの「条例」ネタが元になっている。

ABOUTこの記事をかいた人

ネネネ

短歌をつくって絵を描くライター。
最近川の近くで一人暮らしを始めました。食べられるチーズと食べられないチーズがあります。特技はおいしいコーヒーのお店を見つけること。