現実世界とは異なる世界で展開されるミステリ3編!

「ミステリ」「推理小説」と聞くと、どのような小説を思い浮かべますか?

相棒のワトソンと共に次々と事件を解決する『シャーロック・ホームズ』シリーズ。ミステリーの女王と呼ばれたアガサ・クリスティの『ABC殺人事件』や『そして誰もいなくなった』。小説に限らずに言えば、日本では『名探偵コナン』や『金田一少年の事件簿』などが有名ですね。

これらの作品は、その作品が書かれた当時の世界が舞台となっています。何を当然のことを、と思った方もいるかもしれません。

さて、ファンタジー世界で推理小説のような謎解きを主題とした物語は可能でしょうか。何でもありの(ように見える)荒唐無稽な世界で、犯人やトリックを推理によって暴くという行為に、一体どうすれば真剣味を持たせることができるのか。

現代の推理小説家の中には、そんな試みに挑戦している人たちがいます。

今回は、ファンタジー的・SF的な世界など超現実的な舞台で描かれる推理小説を、舞台ごとに3編紹介いたします。

ファンタジー世界でのミステリ

まず紹介するのは、ファンタジー世界でのミステリです。

近年、この分野は勢いを増しています。きっと、現代世界では猛威を振るう科学捜査を、ファンタジー世界でなら無視できるからでしょう。

なかでも、この分野で中心的に活躍されている北山猛邦さんの『クロック城殺人事件』について紹介します。

北山さんは叙述トリックが持て囃される現代において、物理トリックに並々ならぬこだわりを見せている作家あることが特徴です。しかしそれ以上に、ファンタジー世界を舞台とした作品が相当数あることでも有名です。

『クロック城殺人事件』は、世界滅亡を目前とした幻想的な世界が舞台。幽霊退治専門の探偵・南深騎が、スキップマンと呼ばれる幽霊を退治するため、クロック城を訪れるところから物語は始まります。本書は魅力的な物理トリックが有名ですが、そのトリックは物語の序盤で解明されてしまします。なんという潔さでしょうか。そこから、物語は探偵役を何度も入れ替えながらの推理合戦に発展していきます。

ミステリの醍醐味にあふれた一冊と言えるでしょう。

SF世界でのミステリ

SFとファンタジー、ミステリとSFの境目は非常にあいまいだと私は思います。

まず、SFとファンタジーについて。なんらかの技術的革新によってもたらされた超現実は間違いなくSFの領分ですが、個人が唐突に超能力的な力に目覚めるみたいな局所的な超現実はSFなんでしょうか。ファンタジーなんでしょうか。とりあえずここでは、科学的解明を試みているものをSFとみなします。また、時間停止、タイムリープなど、SF的な文脈で伝統的に主題として扱われてきたような題材を扱ったものもSFの方に分類します。

次に、SFとミステリの境目について。SFとミステリの場合は定義上は全然かぶっていませんが、ミステリを「謎が解かれるジャンル」とするならば、かなり多くのSFがミステリとも言えることになってしまいます。実際SFにおいては、技術的革新による社会的歪が隠蔽されているというのはかなり基本的な筋立てです。

ここでは、あえてミステリのほうを少し狭義に、「なんらかの事件が起き、それをミステリ小説的な証拠集めと推理によって明らかにする物語」としたいと思います。

ここまで絞っても結構な数の本があがるのですが、なかでも私が推薦したいのは西澤保彦さんの『人格転移の殺人』です。西澤さんはこの手のミステリが得意分野で、『人格転移の殺人』以外にも多くのSFミステリを書かれています。

物語は、カルフォルニアに隠された人間の感覚を入れ替える謎の装置(人工のものではなく、作中では宇宙人のものという説も)、スイッチ・サークルの科学者による実験から始まります。

実験のなかで、スイッチ・サークルが人間には制御不能であることがわかり、実験は凍結、そしてスイッチ・サークルの存在は地下に秘匿されます。

しかし時が経ち、同じ地で起きた地震の際に地下に逃げ込んだ男女6人は人格が定期的に入れ替わるようになってしまいます。

6人は秘密保護のために政府から生涯をその場所で過ごすことを強制されますが、そこで連続殺人事件が起き、結果として4人の人物が命を落とします。

果たして、犯人とこのような極限状態で人を殺す動機とは。そしてスイッチ・サークルの謎を解明し、人格転移を止める術は存在するのでしょうか。

異世界転移ものとしてのミステリ

上でファンタジー作品の要素を持つミステリを紹介しましたが、ここではファンタジーの中でも異世界に行ってしまうミステリを紹介します。ちなみに、異世界に「転生」してしまうミステリについては、私の知るところでは商業にはありませんでした。

このジャンルも結構な数がありますが、往々にして世界の謎を解くことが主題になっているものが多いような気がします。

そんななかでも、世界の謎を解きつつも普通の殺人事件を推理するのが東野圭吾さんの『名探偵の呪縛』です。天下一大五郎シリーズの2作目として位置づけられていますが、1作目の『名探偵の掟』を読んでおらずとも十分に楽しめるでしょう。

1作目の『名探偵の掟』は、読者や視聴者の目を認識できるメタな探偵・天下一大五郎を主人公とし、推理小説のお約束と読者を徹底的に皮肉ったユーモアあふれる小説でした。

一方で『名探偵の呪縛』では、図書館で小説家の「私」が調べ物をしていると別世界に迷い込んでしまい、そこではミドリという少女が「私」のことを探偵の天下一と呼びます。

その世界ではトリックという概念や本格推理の小説が存在せず、密室で人が死んでいれば警察はすぐに自殺と片付けてしまいます。そんな世界で、天下一こと「私」は本格推理の知識を活かして事件を解決していきます。

世界の正体と本格推理の存在しないはずの世界でなぜ本格推理的なトリックでの殺人が行われるか。事件を解決しながら天下一はその謎にも迫っていきます。

はたして「私」は元の世界に返ることができるのでしょうか。

まとめ

以上、超現実的な舞台で描かれる推理小説を、舞台別に紹介いたしました!

通常の推理小説ではなく、ちょっと変わった推理小説にも挑戦してみませんか?

本当はまだまだ紹介したかったのですが、すべて紹介すると文字がいくらあっても足りませんので、他の作品は以下にまとめさせていただきます。

●ファンタジー世界でのミステリ
米澤穂信『折れた竜骨
青崎有吾『アンデッド・ガール・マーダー・ファルス

●SF世界でのミステリ
春畑行成『僕が殺された未来
西澤保彦『ナイフが町に降ってくる
西澤保彦『七回死んだ男
早坂吝『探偵AIのリアルディープラーニング
今村昌弘『屍人荘の殺人

●異世界転移ものとしてのミステリ
古野まほろ『その孤島の名は、虚
河野裕「階段島」シリーズ
名倉編『異セカイ系
米澤穂信『ボトルネック

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推理小説愛好者。 ロジック派と呼ばれる作品が特に好き。国内作家では古野まほろ、青崎有吾、有栖川有栖が好きです。 カクヨムで素人ながら推理小説書いてます。