可哀想な女の子は好きですか?/西塔鼎『死にたがりの聖女に幸せな結末を』

可哀想な女の子は好きですか?
無力感に苛まれる男は好きですか?
モノとして消耗する人間兵器とか、好きでしょう?
そして、ハッピーエンドはどうでしょう。

それ、ぜんぶあります。

健気に命を賭ける女の子が、悲惨な死を迎えるのは好きですか?
悲鳴を上げて狂乱する少女が、頭を撃ち抜かれて静かになるのは?
生き残れる、なんて希望を抱いたことすら後悔するのを見たくないです?
血涙を流して苦しむ少女に最後の慈悲を与える行いはどうですか?

それもぜんぶあります。

『死にたがりの聖女に幸せな結末を』を読みましょう。

 調律官――『聖女』たちの体調管理を目的とした医官――として赴任した“私”の視点から、少女たちの「最期」の日々を綴るファンタジー・ドキュメント。

公式あらすじより

人類は可哀想な女の子が好き

 歪めに歪められた彼女たちの身体は当然、あっさりと破綻した。
 具体的にいえば――初期生産の九体のうち七体は、生まれて五年以内に一人残らず命を落とした。
 何かを得るには、須らく何かを喪う必要がある。
 ……彼女たちの場合、それが命だったというだけの話だ。

0――記録番号1942-12-24(九号文書に付随した記録データより抜粋)

この作品に、普通の女の子は登場しません。一人残らず異能持ち、全員が全員、国家によってその身体を弄られた人間兵器たちです。

たとえば、「絶対防御」の異能を持つ少女。彼女はその強力な異能と引き換えに心臓が弱く、常に首筋には痛々しい薬液管が突き刺さっています。
たとえば、「加速」の異能を持つ少女。彼女は人間離れした身体能力と引き換えに痛覚を喪っており、壊れていく己の身体を認識することができません。

だいたいみんなそんな感じ。兵器としては失敗作であり、廃棄寸前の少女たち。それでも彼女たちは兵器ですから、一日も早く戦場で役に立とうと、毎日訓練に励んでいるのです。きっとそんな日は永遠に来ないにも関わらず、です。

なぜなら、人間兵器として設計された彼女たちの寿命は残り数年。泥沼の戦争は今にも終わりかけていて、彼女たち人間兵器はいつ廃棄されてもおかしくないのです。戦争が続いても続かなくても、望むと望むまいと、彼女たちはすぐに死ぬでしょう。

それでも彼女たちは訓練をやめません。彼女たちは兵器として設計された道具であり、その存在意義は戦闘にしかありません。未熟な精神は、戦争に従軍して戦果を立てる以外にアイデンティティを知りません。どれほど失敗作であろうと、どれほど役立たずであろうと、彼女たちは必死に己の性能を証明しようと努めます。そうする以外に生きる術を知らないから。

戦場で華々しく戦う日を見る少女たち。繰り返しますが、そんな日は永遠に来ないでしょう。

兵器としてすら用済みになった彼女たち。先のない、閉塞した彼女たちの日常から本作の物語は始まります。

人類は無力感に苛まれる男も好き

  結局のところ私は彼女たちの物語とは関わりのない、赤の他人でしかなくて。
 だから私に、こんなことをする理由も意味も無いのかもしれない。
 こんなことをしたところで、私たちの犯した罪が赦されるわけではないのだから。

0――記録番号1942-12-24(九号文書に付随した記録データより抜粋)

この作品のもうひとつのポイントは、主人公にして語り部”調律官(ウォッチャー)”の存在です。

彼はその名の通り、傍観者として少女たちを看取る存在。彼の淡白な独白から、少女たちの日々が語られます。

“調律官”である彼の職務は、人間兵器たる少女たちのメンテナンスです。強大な異能を宿す少女たちは、その代償として必ず身体的な問題を抱えていることは先述の通り。すなわち調律官とは、少女たちの健康を管理し、兵器としての性能を保つ役割です。生命としては儚いとすらいえるほどに虚弱な少女たちを、少しでも延命し続けるのが彼なのです。

無理を重ねて生きる少女たちを、無理してでも生かし続けるのが調律官。ですが、彼にはもう一つ、極秘の任務がありました。

それは、少女たちの廃棄処分。

人間を改造して兵器にするなんて、当然この世界でも倫理的に大問題です。計画に関わった者たちは、戦後は例外なく戦争犯罪の咎を問われることになるでしょう。そこで戦争終結に向けて、当然のように軍部は証拠の隠滅を図ります。

戦争が終わってしまう前に、事が明るみに出る前に、少女たち全てを抹殺すること。それが調律官に課せられた、本当の使命でした。

強大な異能を宿す少女たちに真正面から立ち向かっても勝ち目はありません。ですが彼女たちのメディカルチェックを担当し、信頼を得ることのできる調律官ならば。常日頃から彼女たちに薬を処方し、身体に触れることができる彼ならば、簡単に事を為せるでしょう。

調律官自身は、銃や刃を使う必要すらありません。支給された薬を、そっと少女に注入してやればいいだけ。たったそれだけで、苦しむこともなく、少女はその悲しい運命から解放されるでしょう。

しかし、”調律官”は任務の遂行を引き伸ばします。
どうせ寿命の残り少ない少女たちです。放っておいても苦しんで死ぬだけです。
けれど、それでも少女たちは、戦場に立つ日を夢見て懸命に今日を生きているのです。

人類はハッピーエンドが好き

はいもうお分かりいただけけたと思います。本作にはめちゃくちゃ可哀想な少女たちと、少女たちを前にめちゃくちゃ苦悩する男が出てきます。

女の子たちが悩んだり死にたがったり死んだりするのが好きな人にはたまらない展開があります。男の人が悩んだり殺さなかったり殺したりするのが好きな人にはたまらない展開があります。最高ですね

何が最善なのか。何が幸福なのか。タイムリミットの中で、何かを選び何かを選ばないということは残酷です。ですがそうした選択の苦悩は、翻って考えれば私達が日常的に直面している問題です。晩御飯に何を買うのか、トイレの紙は何枚使うか。赤信号を渡るか否か、お年寄りに席を譲るか否か。そして追課金してガチャを回すべきか。そう考えれば、調律官の苦悩もきっと身近に感じられると思います。

加えてネタバレにはあたりませんが、本作は「ハッピーエンド」です。もちろんカギカッコ付きのそれであり、解釈は人それぞれかもしれません。それでも、本作の結末を著者は「ハッピーエンド」だと語っています。読んだ後に嫌な気持ちになるお話ではないですし、嫌なトラウマが残るような結末でもありません。安心してオススメできるライトノベルです。

“調律官”(ウォッチャー)という名前の示す通り、傍観者に過ぎない男が何を見て、どう語るのか。その始まりから終わりまでを楽しんでいただければと思います。

人間兵器とか好きな人類は読め

本作のポイントは3つです。

  • 兵器少女たちがエモい
  • 無力な主人公がエモい
  • “ハッピーエンド”への収束

可哀想な人間兵器の少女たちは一人ひとりが魅力的で、儚くも美しいです。
主人公の”調律官”の淡々とした、しかし苦渋に満ちた語りは何より美味です。
そして訪れるハッピーエンド。安心して物語をお楽しみいただけます。

人類の8割は人間兵器とか異能とかが大好きであることが知られていますが、本作はそんな人類にこそオススメしたい一冊です。まさに我々が求めていたライトノベルですよ。