私は〝十月十日〟を選ばない〜小川洋子『妊娠カレンダー』を読んで
秋は短い。あっという間だ。 秋という季節を、私は時折哀れむ。哀れんだところで、短命な彼女はすぐに死んでしまう。枯葉に横たわって、ついには見えなくなる。死が絶えず漂っている季節という認識があった。時間でいうとちょうど三ヶ月…
秋は短い。あっという間だ。 秋という季節を、私は時折哀れむ。哀れんだところで、短命な彼女はすぐに死んでしまう。枯葉に横たわって、ついには見えなくなる。死が絶えず漂っている季節という認識があった。時間でいうとちょうど三ヶ月…
「私」が丸善の本棚に置いた檸檬は、辺りを木っ端みじんに粉砕する爆弾に変容した。 では、「わたし」はどうか? 誰かに存在を認知され、然るべき場所に置かれたらちゃんと〝変容〟できるのだろうか? その時を待ちわびては、日毎に檸…
この世界に実体として存在している己の肉体について、ふと立ち返り考えたことはあるだろうか。 私たちの身体はひとつの個体として、漂う時間の中で常に定位置を保ちながら留まっている。 存在する実体、という面では不動だが、経過する…
こんな夢を見た。 文豪・夏目漱石が、自身の見た夢を十編の小説にした作品、夢十夜。 エキセントリックな夢の世界と絶妙な不条理を、美しく、時に悍ましく描いている名作文学だ。 この作品について綴る前に、夢とは一体どういうものな…
匂い立つような退廃、というものを感じたことはあるだろうか。 朽ちたもの、節の細いもの、人の手が行き届かないもの、脆く触れられないもの。 この世界には沢山の〝退廃〟が存在する。見る者に生命の終わり頃に漂う独特の匂いを想像さ…
東京のシンボルとしてお馴染みのスカイツリー、そこに隣接するすみだ水族館に行くと、ペンギンの群れが私たちを出迎えてくれる。メーンともいえる大きな展示スペースに棲むペンギンたちは、掲示物によるとそれぞれに関係性が確立している…
西陽が射している。私はそれに煌々と照らされている。 しかしあと一時間経ったらどうだろう。私は影の中に入り、太陽はまた別の場所を照らしている。 時間は不可逆だ。人間が創作したSFの中で、タイムトラベルだとかループだとかいう…