小説を書くことは、ノートPC1台、あるいはスマホ1台あればできてしまいます。そのため、小説を書くにあたって何かしらにお金をかけることがほとんどない、という方も多いのではないでしょうか。
僕は趣味で小説やブログなどの文章を書きながら、ライター・編集者としての仕事をこなし、時にはWebページの制作や写真・映像の編集などを行い、1日の大半をPCと共に過ごしています。そのため、1日におよそ2万回程度キーボードのキーを叩いています。なぜそんなにキーを打っていると分かるのか? 1週間かけて実際に調べたからです。
ノートPC1台でも作業はこなせますが、執筆を長い間続けるのであれば、ここには大きな投資の余地があります。作業の効率化を図るため、体への負担を減らすため、集中力を持続させるため、執筆へのモチベーションを高めるため。道具に投資することにより、様々な効果を得られます。
では、物書きは何に投資するべきなのか? 目覚めている時間のほとんどを机とPCの前で過ごす僕がおすすめしたい投資領域を4つに分けて紹介します。
この記事の目次
はじめに:投資対象をどのように見定めるべきか?
最初にも書いたように、物書きはノートPC1台あれば作業が可能です。では、その他に必要なものは? そう、己の肉体です。
つまり投資は、己の肉体を守ることを念頭に置いて進めていきます。もしこの中に、ちゃぶ台の上にノートPCを置いて長時間の執筆をしている学生の方がいれば、今すぐに環境を見直しましょう。僕も10年前は同じスタイルで文章を書いていましたが、半年くらい続けているうちに腰が痛くなって仕方なくなりました。そして齢30になって今では、もうそんな無理な姿勢では執筆ができなくなっています。
もし僕と同年代かそれ以上で執筆環境にお金をかけていない方がいれば、ぜひこの記事を見て投資を検討してみてください。この先まだまだ続く執筆人生の生産性を高められるはずです。
投資対象その1:広い机
まずは広い机を買ってください。自宅にダイニングテーブルがあれば、そこで執筆作業をしても良いでしょう。できれば執筆のみに使える机の方が良いですが、部屋のスペースでそれがかなわない場合もあるでしょう。ただし、どんな場合でも広い机の上で作業することを心がけましょう。
ダイニングテーブルがおすすめ
僕はLOWYAとのダイニングテーブルをPCデスクとして使っています。でもまあ、広ければ何でもOKです。ちなみに横幅140cmのものを使っていますが、今あらためて購入するなら180cmくらいの机でも全然良いなと思います。とにかく広ければ広いほど良い。
なぜ机は広い方が良いのか? それは、物がたくさん置けるからです。執筆作業を効率化するにあたって、これからいくつかの物を購入することになります。それらを置く広いスペースが無ければ話になりません。
また、机が広ければ余ったスペースに資料を置くことができます。手書きのメモも置くことができます。飲み物も軽食も置けます。しかし、机が狭ければ? 執筆の手をいちいち止めて、それらを片付けなければなりません。
サイドテーブルもあると良い
欲を言えば、メインテーブルの他にサイドテーブルもあるとなお良いです。サイドテーブルはメインのものに比べて小さめでも良いですが、こちらも大きいに越したことはありません。
以下のように、メインテーブルとサイドテーブルが一体になっている、いわゆる「L字デスク」を購入しても良いでしょう。
ただし、配置が気に入らなくなったときに一体型のL字デスクではその後どうしようもありません。そのため、個人的にはデスクを2つ買ってつなげるのがおすすめです。
サイドテーブルは自由に使っていただいて良いですが、資料やメモなどをここに置くと非常に便利です。体勢を大きく変えずにアナログ環境とデジタル環境の視線往復ができるので、作業が非常に効率よく進められます。
また、メインのテーブルが狭くて作業しづらくなってきたとき、一時的にサイドテーブルにぐちゃっと物を置いておくという手段も取れます。
投資対象その2:大きいモニター
広いデスクの次に試していただきたいのが大きいモニターです。
執筆を進める時に、調べ物をする機会も多いと思います。単語の意味を調べたり、小説の中で書きたい内容の裏取りをしたり。
そんな時に、小説を書いているエディタと調べ物をするブラウザをそれぞれ左右に分割して表示すると非常に便利です。画面をいちいち切り替えることなく、執筆と調べ物をシームレスに行き来できます。
ノートPCでも画面分割はできますが、それぞれの作業領域が減ってしまってやや不便。そんな時に、大きいモニターの出番です。
27インチ4Kモニターがおすすめ
購入を検討するのであれば、27インチの4Kモニターなどが良いでしょう。安価に抑えたいのであればフルHDでも候補に入りますが、長時間の作業を考えると画面はできるだけ綺麗な方が良いです。
おすすめのサイズは27インチ。さまざまなサイズのモニターが販売されていますが、作業用のモニターとしてはこれが一番「ちょうど良い」と感じる大きさだと思います。
個人的には、このモニターを縦置きで使用しています。これが非常におすすめです。モニターを縦置きにすることで、小説を執筆しているエディタを縦長に表示できます。すると、書いている文章の全体感が分かりやすくなるのです。また、読む時のスクロール量も少なくなるので、読み返す時の疲労感も減ります。
小説執筆は縦置きのモニターで、調べ物はノートPCのモニターで、という風に使い分けをすると、非常に効率的に執筆を進められます。
49インチウルトラワイドモニターもおすすめ
さらに大きなモニターで作業を行いたいのであれば、49インチウルトラワイドモニターもおすすめです。
安価なものであれば、11万円ほどで購入できます。
解像度が5120×1440となっており、4Kには及ばないところが少し気になる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、個人的にもこの解像度・サイズのモニターを使っていますが、凄く気になるということはありません。もちろん4Kモニターに比べれば字がやや滲んで見えるような気がしなくもないですが、普段の作業用には十分です。
通常のノートPCなどでは画面を2分割するのが精一杯だと思います。しかし、この49インチウルトラワイドディスプレイであれば、余裕で4分割にして使えます。これだけ画面が広ければ、調べ物をする際に複数の資料を同時に画面に表示できます。
なお、49インチのウルトラワイドモニターは横幅が1.2mくらいあります。さすがにその大きさは……という方は、34インチのウルトラワイドなどがおすすめです。こちらも過去に使用したことがありますが、画面を3分割にするのは余裕でできます。
二刀流:49インチウルトラワイド & 27インチ4K で最強の執筆環境を
さらに最強の環境を目指したい方には、49インチウルトラワイドと27インチ4Kの併用をおすすめします。
僕はこの組み合わせで毎日作業をしています。ただ、安めのモニターを買っても合計で15万円以上にはなるので、そこまでお金をかけられるなら……という条件付きではあります。
ちなみに、49インチウルトラワイドは横置きで、27インチ4Kは縦置きで使っています。
使用しているPCはMacbook Air 13インチ(M2、2022)です。実はこのMac、そのまま使うと外部ディスプレイは1台までしか出力できないんですよね……。そこで、以下のように画面出力数を増やせるドッキングステーションを併用することが必要になります。これが3万円です……。
環境構築にめちゃくちゃお金がかかるのでここまでやらなくても良いと思います。しかし、4Kモニタかウルトラワイドモニタのどちらかを導入すると世界が変わります。ぜひ購入を検討してみてください!
投資対象その3:疲れない椅子
買いましょう、高い椅子を。大きい机を買ったのは、良い椅子を買うための布石でもあったのです。
数日間作業するだけであれば、どんな椅子でも良いと思います。僕も実家に数日間滞在する時などは、実家のタイニングにある椅子に座って執筆作業をします。しかし、1週間も居るとだんだん腰が疲れてきてしまうんですよね。
PCで執筆作業をするのであれば、座っている時間に比例して書ける原稿の量は増えていきます。逆に言えば、良くない椅子に座って腰が痛くなってしまえば、それだけ椅子に座っていられる時間が短くなり、書ける原稿の量は減っていきます。
良い椅子を買いましょう。マジで。
“良い椅子”への最初の一歩:セイルチェア
まずは僕が現在使っている椅子からご紹介します。それがこのセイルチェアです。
価格は10万円……なのですが、実は高級オフィスチェアの中ではこれでも安い部類です。そのため、価格面としてはある程度導入しやすいと思います。
また、他の高級オフィスチェアはゴツい見た目のものが多いです。しかしセイルチェアは見た目もお洒落なので、自宅に馴染みやすいのではないかと思います。
また、その小ささも魅力。重量は20kgもあるので決して軽いとはいえないのですが、他の高級オフィスチェアに比べれば十分に小さい部類です。そのため、自宅への搬入・搬出もそれほど苦労しないと思います。
価格や見た目、大きさなどの面でバランスが取れており、最初の一歩としては非常におすすめできるオフィスチェアです。
また、保証期間が12年間もあるのが魅力。僕も一度故障してしまったのですが、販売店に問い合わせたところ、数日後に出張修理に来てくださりました。修理費用は無料。一度手に入れれば長く使えるのも魅力です。
最高の椅子を求めるなら:Baronチェア
セイルチェアを飛び越えて最高のオフィスチェアを求めている方には、 Baronチェアがおすすめです。
お値段は20万円……。しかし、価格相応の価値はあります。僕は以前勤めていた会社で使っていたのですが、もうぜんぜん違う。セイルチェアも普通に良い椅子なのですが、Baronは格が違います。
椅子の様々な箇所が調整可能となっており、自分にぴったり合うように調整すれば、自分の体すべてを包み込んれくれているような感覚になります。座っている体の中で無理をしているところが一点もない状態。
冗談抜きに、Baronチェアはたぶん一生座り続けていられます。本当に良いものを購入したいのであれば、絶対にこれを買うべきです。
投資対象4:打ち心地の良いキーボード
最初にも書きましたが、僕は1日におよそ2万回程度キーボードのキーを叩いています。だから、キーボードの打ち心地は生産性に大きな影響を与えます。
もちろん、ノートPCのキーボードでも執筆作業は可能です。僕も外出先ではノートPCで執筆をしますし、それで特に問題を感じていません。でも、それだと1〜2時間くらいの作業が限界なんですよね。それ以上は指が疲れてきます。しかし、こちとら1日8時間は執筆作業をしたいわけです。
そこでおすすめしたいのが打ち心地の良いキーボード。「打ち心地の良い」というのは人によって評価が分かれるところだと思いますが、ここでは「メカニカルキーボード」「静電容量無接点方式」をご紹介します。
なお、主なキーボードの分類としては以下の4種類があります。
- パンタグラフ式:主にノートPCに採用されている。薄型。
- メンブレン式:主に安価なキーボードに採用されている。グニュグニュとした打鍵感のものが多い。
- メカニカル:「軸」によって打鍵感が変わる。
- 静電容量無接点方式:キーを接点まで押し下げなくても良い。スコスコ。
メカニカルキーボードにする?
メカニカルキーボードは、そのキーボードに採用されている「軸」によって打鍵感が大きく変わります。
近年は、ゲーミングキーボードに採用されているのをよく見かけます。たとえばLogicool G PROなど。
最高級モデルを求めるのであれば、現状ではHHKB Studioになるでしょうか。ポインティングスイッチや4箇所のジェスチャーパッドなども備えており、これ1つでマウスなしでもPCの操作ができる優れものです。
メカニカルキーボードを特徴づける「軸」にも様々な種類がありますが、代表的なものは以下の3種類です。
- クリッキー(青軸):カチカチとした打鍵感が特徴。他に人がいる環境で使うと確実に嫌がられるレベルでうるさい。
- タクタイル(茶軸):青軸に比べるとクリック感が抑えられている。
- リニア(赤軸):なめらかに入力できる。
この中で「入力している!!!」というのを実感できるのは青軸です。執筆時のテンションは上がると思います。ただ、長時間使っていると指が疲れてきますし、何よりうるさいので、赤軸を選ぶのが無難かなとは思います。
静電容量無接点方式にする?
長時間の執筆をするのであれば、静電容量無接点方式がおすすめです。スコスコとした打鍵感が特徴で、ずっとキーボード入力を繰り返していても疲れにくいです。
おすすめはHHKBシリーズ。有線・無線の両方で使えるHHKB Professional HYBRID Type-Sなどが個人的には良いと思います。僕も使っています。
HHKBは、必要最小限のキーボード構成になっているのが気に入っているところです。通常のキーボードだと、テンキーをはじめとした右側のキーボードって使わないんですよね……。Macbookとキー配列も近いので、特に違和感なく使えると思います。
英語配列の場合は矢印キーが無いのですが、日本語配列には矢印キーがあります! 必要なキーはギュッと詰まっているのが日本語配列の愛らしいところ。逆に、英語配列は矢印キーなどが無いので、よりスタイリッシュな印象になります。
なお、静電容量無接点方式のキーボードとしては、HHKBのほかにREALFORCEシリーズもあります。
HHKBもREALFORCEも3万円超えの高価なキーボードなので、購入前にはできるだけ試打して打ち心地をお試しいただくのが良いと思います。
もしお近くに試打できるところが無いのであれば、セブンイレブンにいきましょう。実は、セブンイレブンのATMについている暗証番号キーは静電容量無接点方式になっています。こちらで打ち心地を試してみて、気に入ったのであればHHKBなどの購入をご検討ください。
デュアルキーボードという選択肢
せっかく広い机の構築にお金を投資をしているのであれば、試していただきたいキーボードの使い方があります。それがデュアルキーボード。文字どおり、キーボードを横に2個並べて使います。
デュアルキーボードの何が良いのか? まずは順を追って説明していきましょう。
通常のキーボードは1枚の板の上にすべてのキーボードが乗っていますよね。しかし、このキーボードを2つに分割してしまった「左右分離キーボード」というジャンルの製品があります。たとえば、FILCO Majestouch Xacroなど。
これの何が良いかというと、キーボードの位置が左右に広がることにより、タイピングする時の手・腕の位置が自然になると言われています。これにより、長時間使用していも疲れにくいというメリットがあります。
デュアルキーボードは、左右分離キーボードを、2つの同じキーボードで実現しようとするものです。同じキーボードを2台買わなければならないので無駄が多いように思えますが、以下のような利点もあります。
◯ケーブルが邪魔にならない
左右分離キーボードは通常、左右のキーボードを繋ぐためにケーブルが必要になります。キーボード自体は無線でも、左右のキーボードを繋ぐためにケーブルを使います。これが個人的には非常に邪魔だなと感じるわけですが、無線キーボードを2台使えば、ケーブルを一切使わずに左右分離環境を実現できます。
◯好きなキーボードを使える
好きなキーボードを2台変えば、その打鍵感を変えることなく左右分離化できます。使い慣れたキーボードの感覚で作業ができるというのは非常に大きなメリットです。メカニカルの左右分離キーボードであれば軸を変更することである程度の調整は利きますが、配列の好みなども考えると、左右分離キーボードよりも2台のキーボードを使う方がおすすめです。
◯乱れたタッチタイピングにも対応できる
2台のキーボードを使えば、多少乱れたタッチタイピングも対応できます。たとえば僕は「B」のキーを右手で入力する癖があります。これが左右分離キーボードであれば、空振ってBが入力できません。しかし、2台のキーボードを使っていれば、この問題は起きません。便利。
これが答え:デュアルHHKB
さて、迷えるキーボード難民に送りたい答えがこれです。デュアルHHKB。静電容量無接点方式のHHKBを横に2個並べて使います。これが最強。
まず、打鍵感の良さは保証されています。次いでHHKBが良いのは、必要なキーボードがギュッと詰め込まれているところ。これにより、キーボードのサイズが非常に小さくまとまっているので、デュアルキーボードとして使っても机の上をそれほど占領せずに済みます。いや、正直に言うと机の上のキーボードが占める面積はかなり大きくなってしまうのですが、他のキーボードを2台並べるのに比べるとずいぶんマシです。
これにより、静電容量無接点方式のHHKBを左右分離キーボードのように使える最強の布陣が完成します。
おわりに:分散投資と継続投資が大事
ここでは、物書きが投資すべき4つの分野について、その基本的な考え方と僕が実践している投資方法をご紹介しました。
投資をする際に大事なのは、「分散」と「投資」だと思います。
この4分野においては、一点豪華主義でどこかだけにお金をかけるのはおすすめしません。手元に10万円があるとすれば、できるだけこの4分野に分散して投資するのが良いでしょう。道具を実際に使ってみると、その中で良いところと悪いところが見えてきます。すると、「次はどこに投資するべきか?」がおのずと見えてくるでしょう。
また、投資は継続的に行うのがおすすめです。これも「時期を分散する」という意味では、分散投資の一種と呼べるかもしれません。最初からどの分野の投資が自分に一番うまくはまるかはわかりません。そこで、まずはなるべく安い製品で使い心地を試しながら、お気に入りのものを見つけていき、効果のありそうなところからグレードアップしていくのがおすすめです。また、継続投資することが前提であれば、一度の投資で無理にお金を使うこともなくなります。
物書き投資は長い道のりです。かつ、こだわればこだわるほどお金がかかります。しかし、確実に執筆は楽になりますし、モチベーションも上がるので、無理のない範囲で投資を楽しんでみてください。