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『悪い言語哲学入門』を30時間かけて読んだので内容を紹介します

先日、和泉悠『悪い言語哲学入門』を読みました。

「読みました」と言っても、この本は発売されてすぐの2022年3月くらいに購入していて、すでに読んだことがありました。つまり、今回は再読ということになります。

また、再読するにあたり、この本をとてもゆっくり読みました。というのも、知り合いの大学生と開催している読書会の課題図書としてこの本を取り上げたからです。

読書会は、1時間×2回 + 2時間×6回で開催されました。また、各読書会の前に、本の中のポイントを探るため、各章を読んで内容をまとめるという作業を2時間程度行っていました。そのため、だいたい30時間くらいかけてこの本を読んだことになります。

時間をかけて読んだことで、この本のおもしろさや構造について、初読の時より理解が深まったのではないかと思います。そういった観点から、本書のおもしろいポイントを紹介します。

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「悪口」とは何か

本書は、まず「悪口」の必要条件と十分条件を考えるところから始めます。

悪口とは一体なんでしょうか? たとえば、「悪口」は「人を傷つけることばである」としてみましょう。しかし、よく考えれば、「悪口」は必ずしても「人を傷つけることば」ではないし、「人を傷つけることば」は必ずしても「悪口」ではないことに気づきます。

それは、まるで「星」が必ずしも「ピカピカ光って見えるもの」ではなく(曇った日の星は光って見えない)、「ピカピカ光って見えるもの」が必ずしも「星」ではない(夜の飛行機も光って見える)のと同じようなことです。

それを踏まえて、「悪口」とは何かということを考えていきます。

言語哲学に必要なことばたち

『悪い言語哲学入門』は言語哲学の入門書ですから、言語哲学にまつわる概念が丁寧に説明・導入されていきます。

たとえば、タイプとトークン、言語行為、意味の外在主義と内在主義、ラッセル的命題、クリプキ的理論とヘーゲル的理論、確定記述などなど。

最初のうちは読んでいて楽しいのですが、途中で「何の話をしているんだっけ……?」と分からなくなる箇所があるかもしれません。とくに、意味の外在主義と内在主義の話などは僕にとって難しく、読書会でちゃんと読んだ割には、外在主義も内在主義も、そのように考えることによって何が嬉しいのかあまりよく分かっていません。

しかし、悪い言語の分析を行うのに必要な道具立てとしてこれらの概念が紹介されているので、そこには一筋の物語があります。そのため、何が嬉しいのかはまだあまり良く分かっていないけれど、これから言語哲学についての勉強を進めていくためのひとつの道しるべを与えられている感はあります。

「悪口」以外の悪いことば

最初は「悪口」に着目するこの本ですが、最後の方では悪口以外の悪いことばについても紹介されています。嘘、誤誘導、ブルシット、総称文、ヘイトスピーチなどなど。

それらのことばが悪い、ないしはあまり良くない、というのは、僕も何となく理解していたつもりでした。しかし、その良くなさをあまり上手く説明できないというもどかしさも同時にあった。ところが、この本ではそのあたりを言語哲学のことばを使って上手く説明しているので、ことばの悪さを測る論理的な基準や手続きのようなものが自分の中に少しだけ内面化されたような感覚を得ました。

そもそも、悪口はなぜ悪いのか? そして、悪口以外の悪いことばはなぜ悪いのか? 詳しいことはこの本の議論を丁寧に追っていけば分かると思いますので、ぜひ読んでみてください。

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『言語哲学がはじまる』をあわせて読むのもおすすめ

ところで僕は、『悪い言語哲学入門』を読んだあとに、野矢茂樹『言語哲学がはじまる』もあわせて読みました。

この本は、『悪い言語哲学入門』とはまた別の仕方で言語哲学について説明しています。たとえば、『悪い言語哲学入門』では一切出てこないウィトゲンシュタインについての話が『言語哲学がはじまる』では厚めに出てきます。

反対に、『言語哲学がはじまる』の方には、オースティンによる言語行為論の話などは出てきません。

しかし、もちろん話題が重なるところもあります。とくに「意味」をどのようなものとして捉えるのかという問題については、2冊を読み比べることによって、その内容がよりクリアになるように思います。

また、個人的には「確定記述」については両書を読み比べてみるのがおすすめです。『悪い言語哲学入門』ではよく分からなかった箇所が、『言語哲学がはじまる』をあわせて読むことで、何となくわかったような気持ちになれます。

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