こんにちは! 『思ってたより動くメロンパン』の阿佐翠です。
さっそくですが物書きのみなさん。あなたは「短編書き」ですか? それとも「長編書き」ですか?
同じ小説という枠でも、「短編」と「長編」は別物。単純に文字数の違いだけではなく、形式や構成の上でもさまざまな差異があります。
「長編」が長いスパンで読者を引きこむのに対して、「短編」は瞬発力が命! 序盤で読者の興味を一気に惹き、流れるような展開でクライマックスまで誘導する。作品のジャンルや書き手によって差はあると思いますが、基本的に「短編」は読者の目を休ませず、寄り道なしに最後のページまで進ませることが重要です。
勢いのある「短編」を実際に作るためには、ワンシーンごとの密度を増やし、不必要な部分を削り、より短く、より重い物語を作ることが大切です。
……しかし、慣れないうちはどうやってプロットを作ればいいのかわからなかったり、「長編」のようにいろんな要素を盛りこみすぎてしまったりして、まとめるのが難しいものです。
そこで今回は、「短編」のプロットのまとめ方がわからない……という方々に向けて、『三種の神器』を用いた「短編」のプロット作成法をご紹介いたします!
『三種の神器』って、いったい何?
この記事で紹介する『三種の神器』とは、
①マクガフィン
②オッカムの剃刀
③チェーホフの銃
という3つの概念のことを指します(『三種の神器』というのは私が勝手に名付けました)。
これらの概念について、それぞれ簡単なプロット例を出しながら、「短編」作りにどういう形で活かせるのか詳しくご説明いたします!
①『マクガフィン』で優先度の把握を!
まず最初に、以下のプロット例をご覧ください。これが「男女の恋愛を中心に描く作品」のプロットであると仮定します。
(※プロットの具体的な形には個人差があると思われますが、ここでは大まかな話の流れをタイムラインのようにまとめたものをプロットとして記載します)
- ある日、街で主人公とヒロインがすれちがう
- すれちがいざま、ヒロインがハンカチを落とす
- そのハンカチはめっちゃ有名なブランド品で、名前は忘れたけどなんか高級な生地からできてて、その生地の元となる動物は北欧のノルウェーとかその辺で飼われてる動物で、最近どうも地球温暖化とかの影響で数が少なくなってたりして、現地の農家はちょっと困り気味で、それはそれとしてまあそれなりに長い間、ヒロインが使いつづけてるハンカチである
- 主人公、ヒロインの落としたハンカチを拾い、渡してあげる
- それをきっかけに二人は知り合いになる
- ….
さて、ぶっちゃけた話、どの部分がいらないですか?
おそらく、多くの方は
……3番いらねぇ~!!
と思われるのではないでしょうか?
前述したように、こちらは「男女の恋愛」をメインとするプロットです。実際に完成した作品を読者がどう解釈するかは別として、まず何よりも作者自身が「恋愛物語を書きたい」がために作ったプロットなのです。
それを念頭に置いてみますと、3番の過剰すぎる詳細設定は正直いらない部分ですよね。2人の恋愛模様と北欧の農家事情は、まったくもって結びつきそうにないわけですから。
仮に「主人公の家族がノルウェーで農家やってます!」といった設定を入れ、無理やりこの設定を活かそうとしても、その謎設定のインパクトが強すぎるせいで、読者が素直に恋愛要素を楽しめなくなってしまいます。少女漫画に芋けんぴとか法隆寺とかが出てきたら恋愛どころじゃなくなるのと同じです。
実際のところ、ハンカチの詳細なんてどうだっていいのです。ハンカチはあくまでも「主人公とヒロインを出会わせるためのアイテム」でしかなく、もしそれが「百均で買った安物のハンカチ」とか、「手作りのハンカチ」とか、あるいは「ハンカチ以外の何物か」に変わったとしても、「男女の恋愛模様を描く」という主目的は達成できるのですから。
このように、「何か別のものに置き換えられたとしても、問題なくその役割を果たすことができるもの」が、いわゆる『マクガフィン』と呼ばれる概念です。
ここで考えたいのは、プロット中のさまざまな要素のうち、「変えてはいけないもの」と「変えてしまってもいいもの」との区別をつけ、各要素の優先度を確認しましょう! ということです。
中身が変わると作品自体が成り立たなくなるものと、中身を変えても作品が成り立つもの。これらを比べてみたら、前者の方が重要なものであることは明らかですね。
先ほどの例では、「恋愛」が物語のメインであるために3番の要素は必要でないと判断しました。しかし、作者にとってのテーマが「環境問題」にこそあるのだとしたら、3番の要素は非常に重要な意味を持つようになるかもしれません。
作者が「その作品の中で何を書きたいのか」をはっきりと認識することで、それぞれの要素の優先度をしっかり見定めることができる! というわけなのです。
②『オッカムの剃刀』で、不要な部分を削りとる!
改めまして、別のプロット例を見てみます。このプロットも①と同じく、「恋愛」を中心とするプロットだと仮定します。
- AくんとBさんはお互いのことが好きだが、両方告白できずにいる
- Cくんは食べることが大好きである
- AくんはBさんをお昼に誘う。Bさんはそれを承諾する
- Cくんは弁当を忘れてしまう
- AくんとBさんが和やかに会話中、ふとAくんが口を滑らせ、好意を持っていることを言ってしまう
- Cくんは売店に行ったが、全品売り切れてしまっている
- それを聞いたBさん、勇気を出してAくんに告白する
- Cくんは遠のく意識の中、食べ物を求め校舎をさまよう
- Aくん、Bさんの告白を受ける。二人は付き合い、ハッピーエンド
- Cくんはあまりの空腹具合にとうとう息絶える
さて、何がいらないでしょうか。
Cくんいらないですね。
この話はAくんとBさんの恋愛物語なわけですから、ところどころに挟まるCくんの描写はどうでもいいですよね。いや、息絶えちゃってるのでどうでもよくはないんですけど。
さっきのハンカチの設定も不必要なものではありましたが、ハンカチそのものの存在は、物語において重要な役割を担っていました。しかし今回のCくんは、もはや物語にかかわってすらいないという、まさに真の意味でいらない設定なのです。
結局のところ、この話は「お互いに片想いしてるAくんとBさんが、両想いだとわかって付き合う!」というラストを書ければそれでいいのです。
そのためにはAくんとBさんの挙動だけを追えばよいので、Cくんに関わる部分の描写はすべて削り取っても問題ありません。
このように、「必要最小限の要素だけを用いて結論(ラスト)を導き出す」という手法のことを、『オッカムの剃刀』と言います。
(この用語はもともとは論理学や哲学の用語ですが、「作品作りにも活かせるのではないか?」ということで紹介いたします。)
先ほどの①でプロットの各要素の優先度を確認しましたが、優先度が低い要素の多くは、まるごと削ってしまっても問題なかったりするものです。たとえばキャラクターの家族構成とか、モブキャラの本名とか。裏設定としては必要かもですが、本編ではあまり必要のない設定というのは、意外とたくさんあったりします。
物語に直接関係のない要素は、ここでじゃんじゃん削りとってしまいましょう! 必要だと感じるなら裏設定として残しておき、本編には明示せずに軽く匂わせる程度で済ませておきます。そうすることで、読者の意識を乱すことなく物語を進めることができるのです。
ただしここで、ひとつ注意すべきことがあります。
それは、「不要な部分を削るのとは逆に、要素が不足している部分があるならば、そこを埋めなければならない」ということです。
つまり、プロットを削るだけ削ってから、よし書くぞ! とする前に、「そのプロットには必要最小限のものがすべて揃っているか?」というポイントを確認する必要があります。
先ほどのプロット例では、AくんとBさんが互いに片想いであることが序盤に書いてあります。
もしこの部分が書かれていなければ、読者はこの作品が恋愛物語だとわからず、もやもやした気持ちで読み進めることになるでしょう。そのもやもや感が作者の意図したものであれば問題ないのですが、恋愛を書きたいというのが主な目的なのであれば、その誤解は作品の魅力を削いでしまうものになりかねません。
では具体的に、「必要最小限のもの」をそろえていくためには、どういう視点でプロットを見直していけば良いのでしょうか? そのヒントのひとつとなるのが、次の神器『チェーホフの銃』です。
③『チェーホフの銃』で、物語の因果律を調整しよう!
皆さんは「因果律」という言葉をご存じでしょうか? これは「すべての結果には必ず原因が存在する」といった意味合いの言葉です。
小説においては、「伏線」が因果律の概念を最もよく表しているでしょう。
ここで、次のプロットを見てみます。これも今までと同じく「恋愛」を主軸におきつつ、やや昼ドラ的なプロットです。
- 花子と太郎は新婚の夫婦。しかし最近、どうも太郎の様子がおかしい
- 調べてみた結果、太郎は浮気をしているのではないかという疑惑が浮上する
- 太郎の不審な言動を見かけるたびに、花子の頭には台所の出刃包丁がちらつく
- その包丁は、二人が結婚記念に買った最初の道具だった……
- 疑わしい太郎の言動のせいで、花子は日に日に狂気にとらわれていく。浮気、包丁、浮気、包丁――
- そしてある日、些細な夫婦げんかをきっかけに、花子は太郎を殺してしまう
- 死んだ太郎の服から出てきたのは、次の結婚記念日を祝うための花と手紙……
- 太郎は浮気なんてしていなかったんだ――花子は真実を知り、自らの行いを後悔する
- 真っ暗な部屋には、花子の泣き叫ぶ声と、凶器となったトーテムポールから滴る血の音だけがこだました……
はい、いかがでしょう。
なぜトーテムポールなんだ。
「いやいやいや、包丁使えよ! なんで使わないの!?」と思われた方、あなたの感覚はたぶん正常です。「あ~トーテムポールね~、使う使う~」と思われた方、あなたは相当広い心の器をお持ちです。大事にしてくださいね。
さて、先ほど述べた「因果律」という観点からこのプロットを見てみると、明らかにおかしい部分が浮かびあがってきます。
分かりやすい伏線として描かれている出刃包丁が最後まで使われなかったこと。それと同時に、それまで一度も出てきていない謎のトーテムポールがよりにもよって殺人の凶器に使われたこと。この2点が、シリアスであるはずのプロットをシュールギャグにしている要素にまちがいないでしょう。
ここに、あるひとつの法則が見えてきます。つまり、「序盤に出てきた包丁は、後半に何らかの形で使われるべきだ」という考え。あるいは「後半にトーテムポールを出すなら、それ以前のどこかのシーンで描写しておくべきだ」という考え。
このように、「作中で重要な役割を担うアイテムは、作品の前半と後半で存在を示さなければならない」という考え方を、『チェーホフの銃』と呼びます。
登場人物が後半でいきなり「実は俺、名探偵なんだ」とか言って作中の諸問題をズバズバ解決しだしたり、逆に序盤で「実は俺、石油王なんだ」って言っておきながら最後の最後までその設定が活かされなかったりすると、正直「ハァ?」って思いますよね。それを避けましょうというのが、この概念が教えてくれる大切なポイントです。
(ただし場合によっては、ミスリードを誘うためにあえて偽物の伏線を入れるというテクニックもあります。こちらは『燻製ニシンの虚偽』と呼ばれています)
また、作者が伏線として書いたつもりはなくても、読者からはそう見えてしまうパターンも往々にしてあります。それを防ぐためには、いかにも「伏線っぽい」要素を意図もなしに散りばめないことが大事です。何気ないアイテムを変に詳しく描写したりすると、そういった誤解を与えやすいので注意しましょう。
その逆に、ほんの一文だけちょちょいと書いた程度の要素を指して、「ほらここに伏線張ってるでしょ?」と主張するのも、読者としては納得のいかない点となることがあります。特にミステリ作品などでは、ちゃんと読者を納得させられる理由がないかぎりは、そういったやり方は避けた方が無難だろうと思います。
読者が作品を読んでいるとき、「あれっ?」といらぬ疑問を持ってしまい、前のページに戻ってしまう……というような混乱の起きないプロットを作ることが、読者をまっすぐラストへ導く手助けとなります。『チェーホフの銃』による因果律の調整は、そんな混乱の少ない物語を目指すための手法のひとつなのです。
まとめ
さて、今回は『三種の神器』と、その具体的な活用法をお紹介いたしました。
まずは『マクガフィン』を使い、プロット内の各要素の優先度を確認。『オッカムの剃刀』を使っていらない部分を削りとり、残った要素のうち足りない部分を確認したら、『チェーホフの銃』で因果律を調整。完成したプロットに問題がなければ、あとはお待ちかねの執筆開始です!
いろんな要素を随所に詰めこむことのできる「長編」とは反対に、「短編」はむしろ「どこを削るか」が重要視される形式だと思います。いままで「短編」を書くのが苦手だった方は、ぜひこの機会に三種の神器を活用したプロット作りを試してみてはいかがでしょうか? この記事の内容がお役に立てれば幸いです。
それでは!
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