本の処方箋〜異常なほど本が好き〜

悩める現代人のあなたに、薬の代わりに本を処方する『本の処方箋』

第一回目の今回は、「本が好き過ぎじゃないだろうか」と悩む人への本です。

周りの人と話していても、本の話にならない。たまにそういう話になっても、有名な作品しか話題に上らない。読書時間は平均毎日〇時間って普通じゃないの? あれ、もしかして私って、異常なほどの本好きなのかしら?

そんなことを一度は考えたことのある人は意外と多いのではないでしょうか。かく言う私自身も、今まで誰かと本について全力で熱く語りあったことはありません。活字離れが叫ばれる昨今、そもそも読書好きと出会うことすら困難な世の中ですので、仕方のないことなのかもしれませんが。

さて、そもそもどこからが“異常”と言えるのか? 一日三冊以上読む? 本のために食費を削る? 蔵書が何千冊以上? これらの基準で測ろうにも、個人の環境によってどこまで費やせるかが変わるので、一概に異常かどうか判断するのは難しいと思われます。

そこで、今回処方します本を読んでいただきたいと思います。この本の中には、誰が見ても明らかに“異常”なほど本が好きな登場人物たちが出てまいります。

まずは彼らと自分を比べて、自分の本好き度合いを測っていただきます。そして、もしも彼らに負けないほどの本好きだったとしたら、ぜひ彼らの生き方を参考にしてみてください。本好きとしてどんな生き方をとるべきか、また、周りからどう思われるか、少しは道標となるのではないでしょうか。

「“文学少女”シリーズ」 (野村美月/ファミ通文庫)

中学時代に覆面美少女作家としてデビューしてしまった“少年”(主人公)が、高校進学したら“文学少女”な先輩(ヒロイン)に強引に文芸部に入れられてしまい、様々な事件に巻き込まれていくミステリアス学園コメディ。

この文学少女の先輩は、物語を食べちゃうほど愛しています。食べてます。本を、文字通り食べています。

体質が普通の人間とは違うので、そこは置いておくとしますが、この作品では実際に発行されている(主に)古典作品がヒロインから紹介されます。そして、毎回食べ物に例えられて紹介されます。

 一部抜粋しますと、

(グレート・ギャッツビー)「フィッツジェラルドってすごく華やかな味。虚飾と栄光と情熱がワルツを踊っていて、パーティーでキラキラのキャビアをシャンパンと一緒にいただいている気分。歯をあてると繊細な薄皮がぷちんとはじけて、薫り高い液が舌の上にこぼれてくるの。主人公のギャッツビーが、ものすご~~~く純情で応援したくなっちゃう」

と、本の話なのにお腹が空いてくるほどの食レポぶりを発揮します。

このように、本を物語としてただ読むだけでなく、食べ物や何か別の物に例えてしまうようになっていると、普通から外れているほどの本好きであると考えられます。

こうなってくると、周りの人と感性が大きくずれている可能性が高いので、苦労が多いと思われます。しかし、同じ感性の人は見つからなくとも、自分を受け入れてくれる人はいるかもしれません。なので、積極的に人とかかわりましょう。きっと、誰かの物語に触れられて意外な展開がおこることを期待できるでしょう。

「犬とハサミは使いよう」 (更伊俊介/ファミ通文庫)

 本が大好きな主人公が、ある日強盗に撃たれて死んでしまう。

しかし、「読まずに死ねるかぁ!!!」という想いと共に、犬として蘇った主人公だったが、犬である。言葉は通じない。本が読めない。そんな絶望に打ちひしがれていたある日、なぜか自分の言葉がわかる女性が現れ、なんと自分が一番尊敬する作家だと名乗った。そんな犬の読者と作家が織りなす日常(?)を描いたミステリ系不条理コメディ。
 
この主人公はバカが付くほどの本好きで、生前の人間だった頃、田舎は発売日が遅れるからという理由で一人暮らしを始め、読書時間が減るからという理由でバイトもせずに食費を切り詰めて本を買っていました。また、犬になってからも、プライドを捨てて作家のもとで居候生活を送るという、読書のために全てを捨てて生きている、死んでも生き返っても読書を続ける読書バカです。

ただ、人としてのプライドは捨てても、読書家としての矜持はしっかり持った読書バカです。作家に印税が入るように新品本を買い、積読もしない。本になっていない状態の原稿は読まない等々、読書に対してだけは真摯な読書バカと言えるでしょう。

彼のように、読書のためなら何でも犠牲にする。死んでも読む。死んだら読めないなら死を否定する。このレベルまでこじらせているのならば、おそらく悩むこともないでしょう。このまま人生をかけて読書に邁進しましょう。

ただ、もしかすると彼のように、命が脅かされることが多々起きるかもしれません。犬になっても、ハサミで切られそうになったり、槍が飛んできたり、ボールのように投げられたり、とにかく読書の時間がとれない時がおとずれるかと思います。そんな日のために、護身術になるものを学んでおきましょう。もちろん、本で。

「本好きの下克上 司書になるためには手段を選んでいられません」 (香月美夜/TOブックス)

本を心の底から愛している主人公(女性)が、大学卒業を間近にひかえたある日、地震により自宅で本の下敷きになって死んでしまう。しかし、目覚めてみると幼い少女として別の世界で蘇っていた。生まれ変わったとしても、やることは一つ。本を読むこと。しかし、本が家に無い。町に出てもない。ようやく見つけたら、お貴族様くらいしか持てない高級品。無いなら、自分で書こう! しかし、紙も羊皮紙でインクも含めて平民が買えるものじゃない。

ならば紙から作るしかない。そしていつか、本に囲まれて司書になるんだ!

そんな主人公が命がけで本を作る、異世界転生ビブリアファンタジー。

彼女は異世界の平民として生まれ変わり、しかもとても病弱だった。そして、本どころか紙やインクは平民じゃとても手が出ないほど高額だった。そんな状態でも諦めず、ひたすら本のために紙作りからはじめます。草を編んでパピルスを作ろうとしたり(失敗)粘土板を作ってみたり(失敗)と色々試し、人の手を借りてようやく植物紙作りを始めるも、課題は山の如し。また、小さくて貧弱な身体は家から出るにも一苦労。掃除をすれば倒れるし、走れば熱を出して寝込むほどだった。

それでも本のために、彼女は日々暴走しながらも少しずつ進んでいきます。単純に本を愛している度合いで言えば、この主人公が断トツでしょう。

もしもあなたがここまでの本好きだとしたら、一応念のために紙の作り方やインクの作り方、流通の仕組み等を勉強しておきましょう。普通に生きている間は大丈夫でしょうが、万が一本のない異世界に転生してしまった時、とても苦労することと思います。最低限の物資から紙を作り、インクを作成し、印刷機を開発できるほどの知識があれば、きっと大きな助けになるでしょう。おそらくこの知識が、本のない世界で一番大切なサバイバル術かと思われます。

まとめ

今回紹介した彼らはいかがでしたか? 彼らと同じ程度に本が無いと生きていけないのなら、あなたはきっと異常なほどの本好きだと言えます。もしそうなら、彼らの人生が少しは参考になることでしょう。

そして、そこまで命に関わるほど本好きじゃないと感じたあなた。大丈夫です。正常です。胸を張って普通の本好きとして生きましょう。そして、今回紹介した作品の登場人物たちを読者としてそっと応援していただけたら、紹介者として嬉しく思います。

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四方を山々に囲まれた地でひっそりと物書き作業してる人。ライトな文芸好き。ちょくちょく都会に出て、アイドル(二次三次問わず)を応援してます。