斜線堂有紀という才能――おすすめ小説作品5選

「最近、誰の本が面白いだろうね?」

本好きが何人か集まってそんな話題になったときは間違いなく彼女の名前が出る。

斜線堂有紀、いま気になって仕方がない作家である。

『キネマ探偵カレイドミステリー』『死体埋め部の悔恨と青春』

大学在学中だった2016年秋、ライトノベル系レーベルの賞を獲得し、翌年同レーベルから受賞作でデビュー。映画と推理を絡めたそのデビュー作『キネマ探偵カレイドミステリー』(メディアワークス文庫)はシリーズとなり計三冊刊行されている。同じくシリーズものでは『死体埋め部の悔恨と青春』『死体埋め部の回想と再興』(ポルタ文庫)の死体埋め部シリーズもある。「死体を埋める」という倫理観無視の設定とそれを埋めに行くまでに行われる推理。主人公と先輩の関係性もなんとも良い。いずれも青春ものとしてもバディものとしても秀逸だ。

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「小説を書くのが好き」と常日頃から発言している斜線堂はその言葉通り、デビューから現在に至るまでかなりのハイペースで執筆している。純粋な小説以外にもエッセイ、漫画原作、朗読劇の脚本、そしてSNSでの情報発信(小説とは違った意味でとても面白い!)など執筆活動は多岐に渡り、読者である私たちはどれだけの時間を彼女は書くことに費やしているのだろうと心配にすらなりながらも、ただただありがたく読ませてもらうばかりだ。

彼女の小説を読んでいると、”才能”というものがひとつのテーマになっていることに気付く。斜線堂有紀は”才能”に拘り、憧れ、そしてそれ以上に恐れているように思えてならない。

生まれながらの天才。

努力して勝ち取った才能。

才能がある者への嫉妬。

それが枯渇するとき。

彼女の小説には、常にそれらが纏わり付いている。

『私が大好きな小説家を殺すまで』

2018年に刊行された『私が大好きな小説家を殺すまで』(メディアワークス文庫)。

才能を失い書けなくなった人気小説家とその小説家を愛する少女の物語だ。登場人物はごく少なくほぼ二人だけの世界で完結している。「まともな部外者」も登場することにはするのだが、それが邪魔に思えるほど、甘く美しい異常な世界が描かれている。何かがどこかで静かにずれていく、どこで間違えたのか、小説家の才能が枯れたからなのか、少女に才能があったからなのか。

読み終えたとき、あまりの残酷さに言葉が出なかった。こんな幕切れは正解なのだろうか、と。

当然ここではその全てを書くことは出来ないのでぜひ読んで、自らの感情がどれだけ揺さぶられるかを確かめてほしい。

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『ゴールデンタイムの消費期限』

2021年1月には現時点での最新刊となる『ゴールデンタイムの消費期限』(祥伝社)が発売となっている。

若くに小説の才能が見出され天才と呼ばれた少年、しかしいつしかそれが失われてしまった、そんなところから話は始まる。「元」天才はとある国家プロジェクトに参加することになり再び才能を取り戻すことが出来るのか、という物語だ。

この作品こそが『私が大好きな小説家を殺すまで』の今時点でのアンサー作品だと私には思えてしまう。

才能が失われた者はどう生きればいいのか。

その命題を斜線堂有紀はずっと抱え、書いているのではないだろうか。この『ゴールデンタイムの消費期限』と先述の『私が大好きな小説家を殺すまで』はある意味で作者自身が抱える葛藤の結果がよくわかる作品だと思う。

もちろんこんなことを言ってもあくまで一読者である私が勝手に解釈しているだけで、作者は全く別なことを考えて書いているのかもしれない。それでも読んでいる側にこれだけ何かを思わせ、答えを見つけたい気持ちにさせるのは素敵な小説であることの証拠だ。

『私が大好きな小説家を殺すまで』で打ちのめされた人はこちらも絶対読んで欲しい。

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『楽園とは探偵の不在なり』

そして、斜線堂有紀の名前をより多くの人に知らしめたものといえば2020年に刊行された『楽園とは探偵の不在なり』(早川書房)だろう。
二人以上殺した者は”天使”により即地獄行きという世界で起きた連続殺人、不可能状況の中で犯人はどうやって罪を犯し続けているのか。このルール設定、そして作品の象徴とも言える”天使”。斜線堂の書くこの”天使”のデザインがたまらなく良い。使い方も上手く、この天使の造形描写を読めただけでも嬉しくなってしまう。いわゆる特殊設定ミステリと呼ばれるものだが、突飛な設定でありつつも孤島に館、という定石は外していない。その絶妙なバランスが話題となりそれまで読者層外だった層も取り込むことになった。年末恒例のミステリランキング(※)に軒並みランクインしたことでもそれがわかる。

(※)
『ミステリマガジン このミステリが読みたい!』早川書房 2位
『このミステリーがすごい!2021年版』宝島社 6位
『2021本格ミステリベスト10』原書房 4位
『第44回 週刊文春ミステリーベスト10』文藝春秋 3位
(いずれも国内編)

この作品の刊行時、斜線堂は「一番好きな本格ミステリーを書いた」とSNSで発言している。彼女が「今現在」一番好きな本格ミステリをリアルタイムで体験出来るのは読者にとってもこの上なく幸せなことだと思う。

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デビュー時のポテンシャルが既に高かったにも関わらず、それからわずか数年でさらにそこに磨きがかかり彼女の活躍の場はさらに広がっている。これからも様々なことを吸収し、ますます進化していくのであろう。

どんな方向へ向かっていくのかは読者にはわからない。思いもよらないことになるかもしれない。でもそれで良い。彼女がすることはきっと間違いない。そう思わせてくれる。

それが斜線堂有紀の才能だ。