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ゆっくり効く読書の効用を説く / pha『人生の土台となる読書』

『人生の土台となる読書』は、日本一有名なニートという肩書を持っていたpha氏によるブックガイド的な本で、30の本の効用に合わせて、100冊の本が紹介されています。

ここで紹介されている本のほとんどを僕は読んだことはありませんでしたが、本書の読了後には、読みたい本がたくさん増えたことによる喜びが残ります。

本書の構成

本書は、「ゆっくり効く読書」の効用や読書方法を伝えるため、以下の4つの章に分けて本を紹介してくれます。

  • 読書で「ロールモデル」を見つける
  • 読書で「世界を動かすルール」を知る
  • 読書で「日常の暮らし」をひっくり返す
  • 読書で「自分のこと」を誰よりも知る

いずれの章でも、ビジネスや実生活ですぐに役立つ知識を提供してくれる本ではなく、物事をラディカルに考える「ゆっくり効く読書」に適した本が紹介されます。

「ロールモデル」という言葉を聞くと意識が高そうで、キャリアアップのための目標設定をしなければならないのか……などと身構えてしまう人もいるかもしれません。でも、この本の中では最初から「ダメな人」をロールモデルとして紹介しています。自分と同じダメさを持った人を見つけることで、自分のダメさを見つけることができる。読書にはそんな効用もあるのです。

また、「世界を動かすルール」などと聞くと、僕は「資本主義経済のルールを知り、がっぽがっぽの大儲け!」などと想像してしまうのですが、それはいわば「社会を動かすルール」にすぎないんですね。もちろんこの本では社会のことを知るための本も教えてくれるのですが、宇宙についての本を紹介してくれたりと、本当に「世界」に対する洞察を深めてくれる内容になっているのが特徴です。

「生き延びる」ための方法論

この本にも使われている「生き延びる」という言葉を見て、僕は穂村弘氏が『はじめての短歌』で述べていた言葉を思い出しました。

『はじめての短歌」において、「生きのびる」という言葉は、「生きる」という言葉の対照をなす概念として登場します。社会通念にのっとってサバイブすることを穂村氏は「生きのびる」と表現するわけです。ところが、『人生の土台となる読書』における「生き延びる」という言葉は、穂村氏の使う「生き延びる」とはちょっと意味が違っている。穂村氏の場合は、社会に対して効力を発揮していくことで「生きのびる」ことを選択しますが、pha氏の場合は、自分の内面を書き換えることによって「生き延びる」ことが出来るというようなことを言っています。

この2種類の「生き延びる/生きのびる」は、どちらが優れているというわけではなく、人生の中で使い分けをすることが可能だなと思いました。自信が有能な面では、それを発揮して「生きのびる」ことをやっていけば良いし、自分が無能だと感じられることがあれば、世界のルールを見直して「生き延びる」ことをやっていけば良い。この2つの基準を同時に内面化することで、この世界の中でサバイブしていくことは物凄くやりやすくなるように思います。

読みやすい読書論

世の中には多くの読書論が出ていますが、いわゆる「ゆっくり効く読書」にフォーカスしたものの中には、やや読みにくいものもあります。それはそれで、ゆっくり読んでいくと面白さがあるのですが、なかなかページが進まないという苦しさがあります。

しかし『人生の土台となる読書』にはそういった類の苦しさが一切ありません。それは、pha氏が橋本治氏の本に影響を受けていることが大きいのでしょう。このことについて、本書では以下のように書かれています。

 僕が文章を書くとき、できるだけやさしい言葉を使うようにしているのは、橋本治氏の影響が大きい。橋本治を読むまではずっと、難しいことを考えるには、難しい言葉を使ったり、難しい理論をたくさん知っていたりしないといけないと思っていた。
 だけど橋本治は、簡単な言葉と、ごく普通の感覚だけを使って、どんな難しいことでも論じきってしまう。

pha『人生の土台となる読書』

僕としては、難しいことを考えるために難しい言葉や理論を使うことの有用性は間違いなくあると思っています。難しい言葉や論理には様々な定義や合意が詰め込まれており、それを使うことによって議論が圧縮され、スピーディーになる。でもそれは上級者向けの話で、定義や合意を一つずつ進めながら論じることにも重要な意味があるのはまた事実だと思います。そして僕は、このように「できるだけやさしい言葉を使う」というpha氏の方針によって、「ゆっくり効く読書」の効用を実感することができました。

おわりに

本書は「ゆっくり効く読書」の効用を説く本ですが、この本自体は「すぐ効く」タイプの本ではないかなと思います。本書を読む前と後とでは、本に対する構え方や読み方が変わってくる。本を読むのがもっと楽しくなる。

それらの本の効果が出るのはまだまだ先かもしれませんが、少なくとも「本を読むのが楽しくなる」という効用は、『人生の土台となる読書』を読んだ後ですぐに発揮される効果でしょう。


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