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知られざる殺伐百合の名作紹介!同性間の巨大感情にうちのめされる小説

殺伐百合とは近年台頭著しい、女性間の愛憎や確執にフォーカスした作品群の名称です。

世間では殺伐百合愛好家によるアンソロジーが組まれたり、『同志少女よ、敵を撃て』(逢坂冬馬)が殺伐百合の傑作として脚光を浴びています。

今回はそんな知られざる殺伐百合小説の名作を、マイナー・メジャー様々なジャンルをとりまぜてご紹介していきます。

桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』

桜庭一樹のライトノベルにして鬱百合小説の金字塔。

都会から転校してきた美少女・海野藻屑と、片田舎の母子家庭で育った中学生・山田なぎさのアンバランスな友情の顛末を描く。

虐待を扱った重苦しい話であり、どこにも逃げられない閉塞感に満ちている。
作中何度もでてくる砂糖菓子の弾丸とは、「可哀想な子どもの救済装置になり得ぬ妄想、虚しい現実逃避」のメタファー。

かたやひきこもりの兄を養うため自衛隊を志望するなぎさ。かたや父親の虐待による痣を海洋汚染が原因だと偽る自称人魚の藻屑。

生きていくための実弾を欲するなぎさと、砂糖菓子の弾丸だろうと撃たなければ生きてこれなかった藻屑の対比が痛々しく、2人の逃避行の成功を祈りたくなる。

そんな読者の期待は見事に裏切られるのだが、あえて冒頭に結末を持ってくる演出が憎い。同族嫌悪が同族憐憫に寝返る、極限状況下の共依存関係が好きな人にすすめたい。

桜庭一樹は少女をテーマにした作品を多数執筆しており、閉鎖された小学校で夜な夜な行われるガールズファイトを描いた『赤×ピンク』も、殺伐百合好きの間で話題を呼んだ。

遠藤浅蜊『魔法少女育成計画』

遠藤浅蜊によるライトノベル。アニメ化もされている。近年よく見かける魔法少女のサバイバルもの。

キュートでポップなキャラクターがデスゲームに参加を余儀なくされて殺し合い、凄まじい戦いや駆け引きを繰り広げる。

魔法少女もののため登場人物は基本的に全員女の子。一部トランスセクシャルの要素も含む。

百合のテンプレートをすべて網羅するような作品で、お金持ちの天才少女と幼馴染の従者、レディース上がりの魔女っ子とツンデレくノ一、イケメン王子(♀)と相思相愛の元オタサーの姫など、ありとあらゆる関係性を描いている。

そんな女の子たちが固有の能力やギミックを駆使し、血肉や臓物はじけるバトルロワイヤルの勝ち抜きをめざすのだから、面白くないはずがない。

『魔法少女まどか☆マギカ』にハマった読者ならぜひ押さえてほしいシリーズ。

桃野雑派『老虎残夢』

第67回江戸川乱歩賞を受賞した異色の中華武侠百合小説。中国の宋の時代を舞台に、最強の武侠をめざす女主人公のバトルを描く。

師弟愛・主従愛・同性愛を軸に密室ミステリー要素を盛り込んだ贅沢な一冊で、身も心も強い女性が好きな読者におすすめしたい。

主人公の蒼紫苑は碧の瞳を持ち、「碧眼飛虎(へきがんひこ)」の異名で恐れられるクールな美女。

師の養女である恋華とは深い間柄で互いに信頼し合っている。即ち、公式で同性の恋人がいるのだ。

加えて時代小説や歴史小説の雅な息吹を感じられるのもポイント。殺伐百合というとロシア(ソ連)が舞台の作品のイメージが強いが、本作は東洋的なしっとり感と心・技・体をストイックに突き詰める武の描写を両立し、新境地を開いた。

深見真の『武林クロスロード』(ガガガ文庫)が好きなら波長が合うはず。

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深緑野分『オーブランの少女』

『戦場のコックたち』が本屋大賞に輝いた深緑野分の短編小説集。

どの作品も少女をテーマにしており、百合に極めて近い濃密な友情が描かれている。中でも出色の出来である表題作『オーブランの少女』は、ナチス政権下の欧州を舞台に、戦争がもたらした悲劇を描いたミステリーだ。

発端となるのは一件の殺人事件。栄養失調のみすぼらしい老婆が庭園の女管理人を殺害し、車椅子から立てないその妹が1か月後に自殺を遂げた。ひょんなことから妹の日記を手に入れた作家の「私」は、世界一美しい庭園・オーブランに秘められたおぞましい過去を知り……。

重い病気や障害を患った少女たちが家族と引き離され、四季折々の花々が咲き乱れる寄宿舎で暮らす。そこには優しく美しい憧れの女教師もおり、常春の日々が続くかに思われたが、世界は突如として彼女たちに牙を剝く。

耽美な作風で綴られる寄宿舎の生活は百合の真骨頂。無知で無垢な少女が異分子の少女と友情を育んでいく過程も尊い。だからこそ序盤と終盤の落差、結末で暴かれる真実の残酷さにうちのめされる。

幻想と虚構に彩られた少女たちの楽園が崩壊する様にはカタルシスを覚えるはず。

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ボストン・テラン『音もなく少女は』

アメリカの作家ボストン・テランの小説。ヒューマンドラマとハードボイルドが融合した、読みごたえある傑作です。

横暴な夫にDVを受け続ける貧しいイタリア系移民の女性・クラリッサは、ナチス政権下で恋人とお腹の子を失った孤高の女・フランと出会い、やがて共に暮らし始める。

本作の主人公はクラリッサの聾唖の娘、イヴ。しかしクラリッサとフランの背景が丁寧に掘り下げられており、男に虐げられ傷付けられた2人が、同志のような絆を育んでいくのが感動的。

女2人と娘1人、深い信頼と愛情で結ばれた疑似家族の生き様が三位一体の聖母子像に見えてくる。

殺伐百合よりロマンシスの概念が近いが、暴力・貧困・犯罪・障害・差別に負けず、愛するものや弱きものを守るため、清濁併せ呑み戦い抜く女性性の崇高さに圧倒される。

2人の母親を持ったイヴの成長と選択も見所。

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秋吉理香子『暗黒女子』

秋吉理香子のミステリー小説。作中作文の朗読の形式で語り手が交代していき、最後にすべての謎が明かされる。

ミッション系名門女子高の文学サークルを舞台にしており、思春期の女子のドロドロした感情がこれでもかと暴かれる。

本作のキーパーソンは才色兼備な学園のカリスマ。何もかも完璧な彼女が校舎の屋上から身を投げた動機を、部員たちは自分が持てる情報から考察していくのだが、作文には次第に嘘がまざりだし……。

表面上はキャキャッウフフ、仲良くやっていた少女たちの欺瞞と虚飾が暴かれ、物語の進行に比例して疑心暗鬼の泥沼に陥っていく「マリみて」の極北ともいえるイヤミスだ。

憧れの存在の堕落を許せず、遂には自ら成り代わろうとする究極の思慕に戦慄を禁じ得ない。

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吉上亮『PSYCHO-PASS GENESIS』

人気アニメ『PSYCHO-PASS』のスピンオフ小説。端正でハードボイルドな文体とディストピアな世界観がよくマッチしており、アニメよりさらにディープな魅力を引き出している。

殺伐百合好きに特におすすめしたいのは3巻および4巻。

クールビューティーな女捜査官と組織に切り捨てられた元テロリストの少女がバディを組み、国家規模の陰謀を追いかけるストーリーが素晴らしい密度と熱量で展開され、2人の行く末から目を離せなくなる。

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おわりに

以上、殺伐百合好きをきっと満足させるおすすめの小説を紹介しました。

世界観が殺伐としたもの、キャラクターが殺伐したものと殺伐百合の「殺伐」の種類は多岐に渡りますが、最も重要なのは作中人物の関係性ではないでしょうか?

愛と憎しみは紙一重、他の奴に渡したくない、殺してしまいたいほど好き。ねじれこじれて歪んだ感情はもはや恋愛の枠組みにおさまらず、それを向ける本人さえ焼き殺そうと狙っています。

この記事があなたが殺伐百合を読む上での良き指針になれば幸いです。

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