文芸同人誌を作りたい・読みたい人のためのおすすめ即売会4選

書いた文章を掲載するのにははてなブログやnoteを使い、同人誌を通販するのであればBOOTHを、そして読者との交流にはTwitterを使う……。いつしか、インターネットは文芸同人サークルと読者の両方にとって欠かせない存在になりました。とはいえ、そういう現状においても本を直接売買するのは楽しいものですし、良い作品との予期せぬ出会いという即売会ならではの出来事に胸を躍らせる人もいるのでしょう。出版業界の不況が騒がれて久しいにも関わらず、文芸同人誌の即売会は近頃とみに増えているようにも感じます。

そういうわけで、今回はそれぞれ毛色の異なる4つの即売会を紹介いたします。現在の文芸シーンが気になっている方や、どの即売会に出店しようか悩んでいる方などの一助となれば幸いです。

国内最大級の文芸同人誌即売会、文学フリマ

●文学フリマ
https://bunfree.net/
出店料:1ブース5500円(2019年東京開催の場合)
入場料:無料


言葉の創作に携わったり、文芸同人誌を作成したりしている方であれば、その名前を一度は聞いたことがあるでしょう。

評論家の大塚英志氏の呼びかけで2002年に東京で初めて開催された文学フリマは、年を経るごとに規模が大きくなり、現在は岩手、前橋、京都、大阪、広島、福岡などの全国各地でも開催されています。特にここ数年の盛況は凄まじく、第26回文学フリマ東京(2018年5月6日)の来場者数が3600人であるのに対し、ちょうど1年後の第28回文学フリマ東京(2019年5月6日)の来場者数は5166人と、約1,500人も増加しています。出店数も785から
973と増えていますので、製作者・購買者ともに増加していることがわかります。

では、国内最大級の文芸同人誌即売会と呼んでも差し支えない文学フリマの特徴は一体なんでしょうか?

文学フリマの最大の特徴は、端的に言えば「懐の深さ」です。

「自分が<文学>と信じるもの」が文学フリマにおける文学であると公式に発表されているからなのか、多種多様な形態の作品が出品されています。小説、評論、ノンフィクション、詩歌という大分類の中にもそれぞれ細かくジャンルが設定されていますし、本の見装丁についても同様で、コピー本やオフセット本、果ては布張りの手製本を出品しているサークルもあります。

ちなみに、私がはじめて文学フリマに参加した8年ほど前は、ゴキブリの生態についてまとめた同人誌や、ホームレスとの共同生活ルポなど、ニッチな本が比較的目立っていました。しかしここ3~4年は、デザイン・内容両面でプロ顔負けのクオリティの作品も増えている印象です。そういう変化が起きること自体が、懐の深い何よりのあかしと言えるでしょう。

参加者を楽しませる仕掛けに富んだText-Revolutions

●Text-Revolutions
https://text-revolutions.com/event/
出店料:1ブース4500円(通常)、1ブース3100円(ビギナー)
入場料:無料

通称「テキレボ」と呼ばれるText-Revolutionsは、2015年に初めて開催された比較的新しい即売会です。基本的には年2回の頻度で催されているので運営は安定していますし(ただし2018年は1回のみ)、ここ数年の出店数も200以上なので規模も大きいと言えます。ジャンルが何であれ、様々な理由で初回かぎりになる即売会が少なくない中で、すでに8回も開かれているテキレボ。多くの文芸愛好家に支えられている理由はきっと運営上の工夫にあるのでしょう。

まず注目したいのは、即売会の出店経験に応じて出店料を割引していること。出店料を見て気づいた方もいらっしゃるでしょうが、初めて即売会に参加する方や、サークル活動歴が1年半以下の方は、ビギナーとして出店料が安くなります。

もちろん、新規に優しく既存に厳しいと言われた某携帯キャリアのように、同人活動暦の浅い作家だけに親切なわけではありません。どの参加サークルでもお題に沿って公式のWebアンソロジーに投稿できますので、一般来場者に向けて自身の作品をアピールできます。その他にも、スタンプラリーやポエトリーリーディングといった参加者からの募集企画や、当日会場に来られない一般参加者に向けたお買い物代行サービスなど、イベントに関わりたいと少しでも思う方を大切にしているのがテキレボです。

文学と人々のあいだをとりなす静岡文学マルシェ

●静岡文学マルシェ
http://shizumaru.info/
出店料:1ブース3500円(直接)、1ブース1000円(委託)
入場料:無料

首都圏最大級の文芸同人誌即売会である文学フリマは、「百都市構想」を掲げて地方進出を続けています。距離のせいで東京のイベントに行けない方を思えば全国展開するのは素晴らしい試みです。一方で、その土地ならではの特性を活かしたり、小規模だからこそできる企画を打ち立てたりして、文学好きの関係をとりなす地元発祥の即売会もあるのです。本章ではその代表として「静岡文学マルシェ」を紹介いたします。

添嶋譲氏、徒川ニナ氏、柚木康裕氏により発足した静岡文学マルシェは、2016年から年1回の頻度で静岡にて開催されています。インターネットでの作品発表を肯定しながらも生身の交流も大切にしたいという思いから、「静岡で作品発表の場を設けること」、「地域で創作者の繋がりを作ること」、「文学の楽しさを共有すること」というコンセプトを掲げています。主催のひとりである添嶋譲氏は、初開催のときのインタビューでコンセプトについて下記のように話しています。

一つ目ですが、他の地域で行われるイベントに参加することも良いことですが、興味はあるけれども、まだ参加したことのない方には多少ハードルが高いこともあるかもしれません。『静岡文学マルシェ』は参加するためのハードルを低くし、参加しやすい形をつくることで、静岡で創作をする方の作品発表の場を作りたいと考えています。

二つ目はこのイベントの規模が小さいこともあり、大規模イベントではしにくい、創作をする方々が互いに話をしやすい場、集まりやすい場を作れたらいいな、と思います。例えば、イベントがないときでも会場であるスノドカフェに集まって話をしたりとか、作業をしたりとかがあってもいいのではないかと。
三つ目は書く側だけでなく読む側の人も含めて、文学について堅苦しくなく、好きな作家や小説などについて気軽に話ができる場を作ろうということです。読書会や読書環境にまつわる話などもできたらいいですね。
https://getnews.jp/archives/1477345

最近は出店数も増え、現在はコミュニティホール七間町で催されていますが、最初は柚木康裕氏の運営するスノドカフェで開催されていました。地元の方に愛されているカフェが運営に携わることで、様々なお客さんと交流できること、そして個性的な作品を読みながら美味しいお菓子などに舌鼓を打てることなど、単なる本の売買を超えた体験が生まれます。場所をホールに移した今なお、スノドカフェは出張出店や前夜祭の会場として関わっていますので、依然として名物と言えるでしょう。

静岡の文学好きと交流したい方や、スノドカフェの美味しいお菓子を味わいたい方はぜひ一度足を運んでみてください。

潜在読者がいるかもしれない技術書典

●技術書店
https://techbookfest.org/
出店料:1ブース7000円
入場料:無料(有料化を検討中)

2016年に初開催されてから毎年2回催されている技術書典は、その名の通り技術系同人誌の即売会です。技術書に馴染みのない方に簡単に説明すると、テクノロジーに関する知識や実装方法、あるいは開発手法といった実践的なトピックについて書かれた書籍だと思ってください。
技術書典の特徴は、販売手法にテクノロジーを利用しているサークルが多いことでしょうか。文芸系の即売会で売買される本の大半は紙の書籍なうえにその支払いも現金である一方、技術書典では電子書籍は珍しくないですし、支払い方法もpixiv Payのような電子決済を採用しているサークルも多いです。

このイベントを紹介するのは本稿の趣旨に反するようにも見えますが、本の内容によっては、文芸同人誌の即売会よりもこちらに出店する方が多くの読者を得られる可能性があります。

たとえば、システムエンジニアやWebサービスの開発をしている方が仕事に関するエッセイ集を発表した場合、その内容に興味を示すのはIT系の読者が多いでしょう。実際、2018年の技術書典5で頒布されて好評を博した『完全SIer脱出マニュアル』は、目次だけだとシステムの開発から運用までを行うSIerにおけるキャリアパスをまとめた「Tips」に見えすが、その実態は筆者の経験や思想がふんだんに詰まった「読み物」です。本書のあとがきにはこう書かれています。

本書の対象読者は、「SIerやSES企業でSEや開発をしていて、毎週月曜日の朝に仕事に行くのがつらい人」です。『完全SIer脱出マニュアル』というタイトルであれば、そうした人たちにも「これは自分のための本だ」とすぐに伝わると考えました。また、批判的な意見も含めて少しでも話題になれば、多くの届けたい人にこの本の存在を知ってもらえるのではないかという目論見もありました。

本書をオイディプスや源氏物語のような芸術作品と同種と見做すのは難しいでしょうが、一部の読者のこころに働きかけようとする意図もある以上、単なるノウハウ集と切り捨てるのも腑に落ちません。

とはいえ、郷に入りては郷に従えという言葉もあります。

「文学」の解釈が書き手に委ねられてる文学フリマと言えど、機械の図面のみを頒布するのが少々場違いであるのを思えば、技術書典でお披露目する本は、それが小説であれエッセイであれ、エンジニアリングをしっかり絡めるのが良いかもしれません。もちろん、技術書典にかぎらず文芸系以外の即売会に言語表現の創作物を頒布するときは、イベントの参加資格などを理解してから申し込んでくださいね。

まとめ

文学フリマのような大規模な即売会にはじまり、比較的小規模でありながらも文学好きの仲をとりなすイベント、そして文芸とは異なるジャンルの即売会に至るまで、近頃は作品を発表する場が非常に多いです。色々な即売会を紹介するのが目的だったので個別に掘り下げはしませんでしたが、ご自身の活動スタイルに沿った即売会をもし見つけられたなら、それに勝る喜びはございません。

ABOUTこの記事をかいた人

秋津 燈太郎

フリーのWebエンジニアとして生計を立てながら、アプリの個人開発、琉球文学の研究、小説やエッセイの執筆などを行なっています。最近はIoT(モノ)に興味あり。