「文学賞を受賞した後の裏話」前回は受賞後に贈られる著者への献本のお話をご紹介しました。さて、今回は受賞につきものの「授賞式」にクローズアップします。
文学賞として抜群の知名度を誇る「直木賞」や「芥川賞」といえば、受賞後に金屏風の前で行われる華々しい会見が記憶にある方も多いでしょう。受賞前から候補者の家にマスコミが張り付き、受賞の一報を待つシーンも有名ですね。
では、もう少し規模のちいさな文学賞ではどういうことが行われているのでしょう?
本記事をお送りする北川の経験を元にお話いたします。
某文学賞① ジャンル:児童文学
応募規模:全国
応募総数:〜200作
主催:団体
賞金:30万円
本文学賞は全国から応募を募る賞だけあって、当日の台本も事前にきっちりと作成され受賞者にも周知がありました。
会場はホールを貸し切りで、大掛かりな文学賞授賞式です。
ドレスコードは特に定められていません。しかしドレスとまではいかないものの、受賞者はスーツやアンサンブルあるいは制服など、上品な服装でまとめていました。
受賞者には、マイクを手にステージでそれぞれひと言ずつ受賞の気持ちを語る機会が設けられています。熱く思い入れを語る人あり、ひとことお礼を述べるにとどめる人あり。芥川賞のような大きな賞でもそうですが、コメントの対応に作家の個性が際立ちます。
現地までの交通費の支給はありません。授賞式のホールにはマスコミ席が設けてあり、団体の主催する雑誌にも式の様子は掲載されることになっています。
当日受賞者は控え室で静かに授賞式を待ち、終了後解散という流れです。受賞のパーティや交流会などはありませんが、受賞者向けには昼食がレストランで提供されます。同行者の分までご用意いただけるのがちょっぴりお得です。
某文学賞② ジャンル:小説・評論など
ジャンル:一般文芸
応募規模:主催都市居住限定
応募総数:〜400作(文芸ジャンルすべてを含む)
主催・協賛:地方自治体・団体
賞金:10万円
この文学賞の受賞者は小説・評論・現代詩などジャンルごとに各三人ずつ。一地方都市の文学賞ではありますが、幅広く文芸作品が募集されるだけあって、表彰者も二十数人に及ぶ一大イベントです。
授賞式会場のホテルの広間には立派な金屏風が用意され、重々しい書体で「表彰式」と看板が掲げられています。マスコミ席も設けられており、式の模様は地方局のニュース番組で放映されました。
出席に際してドレスコードの指定はありませんが、前項の受賞者の服装に比べれば、装いは実に様々でした。モーニングや訪問着で臨む受賞者もいれば、作務衣にハチマキが自分の正装と堂々と式に臨む受賞者もいます。
受賞のスピーチは、小説部門の受賞者一名が受賞者代表挨拶を行います。その後各部門、受賞者へは審査員から詳細な講評が述べられます。直に評価を聞く貴重な機会です。
この文学賞には食事会などは付属していませんが、後日交流会のようなものが設けられます。居住する地域の文芸を愛する人たちが一堂に会する機会は貴重です。同郷で切磋琢磨する仲間を見つけるにもよいイベントだといえるでしょう。
小説の受賞作は地方紙にも連載され、受賞者インタビューも同紙面に掲載されました。
多ジャンル同時募集の文学賞ではありますが、小説部門への注目度が高い文学賞といえます。
某文学賞③ ジャンル:一般文芸
応募規模:全国
応募総数:〜150作
主催・協賛:地方自治体+出版社
賞金:50万円
主催自治体の管理するホールでの授賞式です。前項の賞と同じく地方TV局・地方紙でも式の模様は報じられます。
授賞式の様子はこれまでに述べたふたつの式とあまり変わりありませんが、式には審査委員長である有名作家が直に参加しますので、売れっ子作家の話を聞きたい!というアマチュア作家とっては垂涎の機会です。
また、この賞では文学賞の上位入賞作の作家にたいしては現地までの交通費が支給されます。遠方からの参加者にはやさしい仕様です。しかし、下位の賞ですと自費での参加になりますので注意が必要です。
また希望者には宿泊先も用意されます(費用は一部補助)。夜は食事を兼ねた交流会も設けてありますので、中には作家とたくさん話ができたという方や、なんと温泉で裸の付き合いをしたという人も!
遠方からでも参加する甲斐ある、貴重な授賞式だと言えそうですね。
まとめ
さて文学賞の授賞式について、いかがだったでしょうか。
三つの文学賞ともに受賞者受付では胸につける赤い花のコサージュが渡されます。「受賞したんだ」という感慨が湧く瞬間です。
日本中に知れ渡るほどに知名度が高くなくとも、紹介したすべての賞でマスコミの前に出る機会があるということに驚かれた方もいるかもしれません。今の時代こうした情報はすぐにネットのニュースにもなりますし、前回ご紹介したような「作品集」を手にした人がSNSで作品を紹介してくれることもあります。
運が良ければこうしたところから作家として「バズる」チャンスもあるかもしれませんね。