詩人・高柳誠から学んだ、自由な文章の書き方

蓼食う本の虫の記事を読まれている皆様の中には、創作を始めたばかりの方もいるかと思われます。

私も最初の頃は、書いてみて文章が堅くなってしまうことや、情景を表現するのに苦労することも多々ありました。

今回の記事では、私が文章表現を行うきっかけとなったある詩人との出会いから学ぶことのできた、自由な文章の書き方を記していこうと思います。

詩人・高柳誠との出会い

私が文章での表現を始めた時、ある人との出会いがありました。当時在学していた大学の教授だった、高柳誠さんという詩人です。

高柳さんは高校の教員などを経て大学の教授(現在は退職)に就きながら、詩人として創作活動を続けており、実際に何本も作品を出版しています。穏やかな表情で教壇に立たれていましたが、過激な発言も多く毒舌家の一面も持っていました。

高柳さんがおすすめする作家とその作品紹介

高柳さんの授業は、毎回冒頭におすすめの作家とその作品をホワイトボードに書き、そこから口頭で作家の生い立ちと作品の特徴や魅力を説明されていました。紹介された作家は海外の作家が殆どでした。例を挙げてみましょう

ドストエフスキー「罪と罰」


ボリス・ヴィアン「日々の泡(訳によっては「うたかたの日々」)」

ガルシア・マルケス「百年の孤独」

レイモン・ルーセル「アフリカの印象」「ロクス・ソルス」

主にシュールレアリスムを好む高柳さんの作風に影響を与えた内容が多かったです。

あまりの熱弁ぶりに、授業の大半が費やされることもありました。

高柳流? 文章の書き方

次に文章の書き方について、高柳さんの目線から教わったものの中で印象に残っているものをピックアップしてみました。

文章全体に言葉のリズムやテンポを重視すること

作品の文章を構成する上で、冗長にならない作り方が大切です。
高柳さん曰く、文の終わりに「だ」「た」と5連続では書かないように工夫する、一度起こした文章を音読して、リズムの変な場所がないか、確認すると良いとのことでした。

オノマトペを使う

高柳さんがよく使用する表現です。
「高柳誠詩集成Ⅰ」より「光の記憶 あるいは わが<歌>」という詩の冒頭を例に挙げてみます。

ぶんぶんという虫の羽音で目を覚ました。左耳の辺りに一匹のハナアブがまとわりついて唸っている。いつの間にか寝入ってしまったらしい。暖かな春の陽差しが全身に降り注ぎ、体の中心部から温めてくれる。ぬくぬくとした暖かさに包まれて、ぼくは幸福の実体と初めて触れ合っていた。

音や状態を表す言葉を使うことによって「ぶんぶん」が「ハナアブ」を、「ぬくぬく」が「暖かさ」「幸福の実体」を連想させるように、対象の印象をより強調できる表現となります。

五感を意識する。

作品のリアリティを求める際には人体が感じとることの出来る感覚で表現します。
例えば、SFやファンタジーで読者に対して世界観を引き込ませるには、耳に入る音、手に触れたときの感触、目に入る光、鼻腔で感じ取る匂い、食べ物を口にいれたときの味―――と、いったように、対象に対して人の五感がどのように反応するかを考えて執筆すると良いと思います。

遊び心を忘れない

当時授業の対象となっていたのは大学生だったため、レポート形式のような堅い文になりがちだった当時の私にとって、大きな意味を持っていました。
歌詞のラップのように韻を踏んでもよし、思いきり斜め上な作品にしてもよし等、終始高柳さんからは「文章表現のルールなんて、あってないようなものだから」とおっしゃっていました。

課題の内容

自分が覚えている一番古い記憶を1000字程度の文章に起こしなさい。

皆さんは幼い頃の記憶で、今はなんの変哲もないものが怖かったり、逆に大好きだったりしたことがあるかもしれません。
五感や記憶として強烈に残っている場面を自由な発想で、文章として描いてほしいというのが目的でした。
 

3000字程度で作家の書いた短編作品の続編を書きなさい。

授業内で紹介した作家の短編作品を基に「自分ならどのように続編を作るだろうか」と、その作家の作風を模倣しながらも、自分の色を表現する二次創作的な課題となっていました。

夏目漱石の「夢十夜」のように自分が夢の中で見た内容を1000字程度に起こす。

高柳さんによると、夏目漱石が力をいれていた作品の一つである「夢十夜」をテーマに、夢を見たときの不思議な内容を書き起こすことで、表現の幅を広くする目的も兼ねていました。

まとめ・授業を受けて大切にしていること

高柳さんの授業は、今までの自分になかった考え方も勿論ですが、使う言葉を効果的に文章に起こすことを学びました。
作品を文章に変えていく際に行き詰まり、良いアイデアが出てこないときには、高柳さんから受けた授業を思いだし、初心に帰りながら書き続けることを意識しています。

文章表現の授業を取り、高柳さんと出会わなければ、今の自分はいないと思えるほど、私にとって非常に大切な時間となりました。

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普段は仕事をしながら執筆と音楽活動を行っています。微力ではありますが、私の書いた記事が皆様のお役に立つ情報でしたら幸いです。愛読書は「WIRED」。