論文にpixivのR-18小説を引用したのは何が問題だったのか

立命館大学の情報理工学部の3名が発表した論文について、インターネットでは様々な議論が巻き起こっている。

何が起こっているのかについては大手ニュースメディアの記事を読んでいたくとして…。

論文でpixivのR-18小説を「わいせつ表現」として引用、作者名も公開 モラル欠く“さらし上げ”と批判殺到|ねとらぼ

【追記あり】「モラルを疑う」pixiv上のR-18小説を“晒し上げ” 立命館大学の論文が炎上 今後の対応は

あるいは、togetterのまとめも参考になるかもしれない。
話題になってるpixiv論文の件に関して研究倫理問題に少しだけ詳しい人たちによるまとめ

これに対して、pixivも公式Twitterで見解を発表している。

残念ながら、僕は当該論文を読むことができていない。しかしながら、ニュースサイトやネット上のコメントを読むことである程度の問題点を把握することはできたと思う。そこでここでは、僕なりに今回の問題点を整理してみたい。

 

「無断引用」について

まずは「無断引用」についてだが、これについては問題にすらならないと思う。

というのも、ご存じの方も多いと思うが、そもそも一定のルールを守っていれば引用とは無断で行っても良いものだ。当該論文でその引用のルールが守られていたのかどうかは定かではないが、少なくとも「無断引用」が問題になることはありえないはずだ。

pixivの利用規約を引き合いに出す意見も散見されるので、当該規約を引用してみよう。第13条の「禁止行為」として、第2項には以下の内容が規定されている。

本サイト及び関連サイトにアップロードされている投稿作品の情報を、当該著作者(創作者)の同意なくして転載する行為。

(引用元:pixiv サービス利用規約とガイドライン

これは利用規約以前に著作権法として当たり前の話で、無断で「転載」することは許されていない。しかし、繰り返すようだが「引用」は無断で行って問題ない。

問題になるとすれば、著作権法に定められている以下の部分だろう。

第三十二条  公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

(引用元:著作権法 なお、赤字は筆者による)

pixivでは、ユーザが設定で「R-18指定作品」も閲覧できるようにしておかないと読めないことになっている。これが「公開された」といえるのかというところをポイントとした議論も見られる

しかし、裏を返せば設定で「R-18指定作品」を閲覧できるようにしておけば誰でも読めるということなので、これを「公開されていない」ということは難しいだろう。インターネット上に公開されている時点で、不特定多数の人に閲覧される可能性は十分に考えられることだ。まして、今回論文に使われた作品はデイリーランキングTOP10入りしている作品とのこと。

インターネット上に公開されているといっても、特定のパスワードを知っている人しか閲覧することのできないようなものを引用するのは問題があるだろう。しかし、今回のような場合で「引用」を問題とするのは難しいのではないか。

データ利用は「引用」になるのか?

さて、この問題についてはてなブックマークのコメントなども読んでいたのだけど、そこで興味深い意見を見つけた。

当該論文では、解析のためにpixivに公開されていた作品のテキストデータを利用している。これが、引用とは別の文脈で問題があるのではないかというもの。

著作物を解析のためのデータとして利用することに問題があるのかどうか、僕が調べた範囲では判断がつかなかった。この点に関しては、引き続き調査してみて、何かわかれば追記したいと思う。

【追記】
“データ利用は「引用」になるのか?”という見出しが不適切であったかもしれない。ここで問題としたいのは、テキストの全文をデータとして利用することが、著作権的に問題がないのかということ。「引用」であれば問題ないだろうが、研究目的として、全文を転載しないにしても利用したことに問題がなかったのか。そういう意見を目にしたので、調査してみたいと考えている。

「有害表現」という表現について

おそらく、今回の件で一番問題があったと思われるのはこの「有害表現」という書き方。あるいは「猥褻表現」も問題となるかもしれない。

子どもが読むのに適切ではない性的な表現を「有害」あるいは「猥褻」と呼ぶのには、論文の中である程度の定義がなされていれば、合理性があるだろう。

しかし、作品URLと作者名を示した上で「有害」と指摘してしまったのは問題があるかもしれない。これが名誉毀損にあたるのではないかという意見も見られた。

司法としてどのような問題になるのかは判断がつかないところだが、確かに配慮に欠ける行動であったかもしれない。URLと作者名の表記が引用の要件として必要であったとしても。

司法として問題ないという判断がなされたとしても、これほど糾弾されているとなると、コンプライアンス的には十分に問題があったと言えるだろう。

まとめ

今回の件では、「無断引用」と「有害表現と表記」した問題を別々に見る必要があるだろう。また、取り上げられた作品が「公開」されていたかどうかという議論も、事態をさらにややこしくさせている。

いずれにせよ、創作活動に携わる身としては全く他人事ではない。今後も動向を注視していきたい。

何かご意見等ありましたら、どうぞよろしくお願いいたします。