『源氏物語』と『枕草子』の「あはれ」と「をかし」を数えてみました

   

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aharewokasi

こんにちは、『思ってたより動くメロンパン』の真実無目むゆです。

前回に引き続き、古典に関する記事です。

「あはれ」な『源氏物語』と「をかし」な『枕草子』

紫式部清少納言

平安時代を代表する2大女流作家といっても過言ではありません。そして、なにかといってライバルとして語られることが多いのもこの2人です。

西暦1000年頃に清少納言が『枕草子』で文壇に立てば、少し遅れて1008年頃に紫式部が『源氏物語』を完成させて脚光を浴びます。

さらに、紫式部が仕える中宮彰子と、清少納言が仕える中宮定子、ひいては藤原道長と藤原道隆の骨肉の権力争いが2人の立場を決定的なものにします。

そして何より、『紫式部日記』に書き連ねられた紫式部から清少納言に対する辛辣な評価を見ると、二人が火花を散らす様子を伺い知ることができます

原文:
清少納言こそ、したり顔にいみじうはべりける人。さばかりさかしだち、真名書きちらしてはべるほども、よく見れば、まだいとたらぬこと多かり。

口語訳:
清少納言は実に得意顔をして偉そうにしていた人です。あれほど利口ぶって漢字を書きちらしております程度も、よく見ればまだひどく足りない点がたくさんあります。

(紫式部日記『新編日本古典文学全集』小学館 p201 より引用)

現代に燦然と輝く名作を残した才能ある2人だったからこそ、互いに譲れない部分も多くあったのでしょう。

さて、2人の代表作である『源氏物語』『枕草子』。この2作も対比して語られることが多くあります。

『源氏物語』は「あはれ」の文学で、『枕草子』は「をかし」の文学であるとよく言われます。国語の文学史でそう習った記憶がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

『源氏物語』では「あはれ」という語が多用され、一方の『枕草子』では「をかし」が多用されていると言われています。

「あはれ」「をかし」という語は、現代語ではどちらも「情趣」とか「風情」といったように訳される言葉です。しかし、厳密にいうと、この2語は少し異なる意味を持ちます。

「あはれ」…心の底から湧き出てくるしみじみとした感情や感動を表す
「をかし」…はっとした気づきから来る機知にあふれた感動を表す

「あはれ」の文学と言われる『源氏物語』では、光源氏を中心とした登場人物たちの緻密な心情描写や、そこからあらわれるしみじみとした情趣が描かれています。

また、「をかし」の文学と言われる『枕草子』は、若い清少納言のウィットに富んだ気づきから来る、はっとおどろかされるような感動が作品の魅力となっています。

私はこの話を高校時代の国語の先生から聞いて、「はえー、そうなんだ、すごいなぁ」と納得していました。

しかし、最近、古典に触れる機会が増えた結果、「あのときの先生の話は本当なのか」と自分の目で確かめなくては、いてもたってもいられなくなってしまったのです。

というわけで、前置きが長くなりましたが、『源氏物語』『枕草子』に登場する「あはれ」と「をかし」の数を数えてみちゃいました。

結果発表

舌の根の乾かぬ内にすみません。

 

結局、数えませんでした。

 

というのも、初めは、語彙索引やJapanknowledgeの検索機能を使って一つずつ調べていっていたのですが、なにせ時間がかかる。

徹夜と人海戦術を駆使し、手作業で調べていた先人のみなさまには申し訳なく思いますが、なにか良い資料はないかと大学の本棚を探していると、見つけました。

これは、『源氏物語』『枕草子』を始めとして、『方丈記』『大鏡』『更級日記』『紫式部日記』『蜻蛉日記』『後撰和歌集』『土佐日記』『古今和歌集』『伊勢物語』『竹取物語』『万葉集』、計13作品に含まれる語の数を、それぞれ表として提示しているというものです。

すごい! これを使えば一目でわかる!

ということで、この『古典対照語い表』を用いて今回は調査を進めました。
(※2014年に『日本古典対照分類語彙表』という新版が出ていますが、今回はすぐに手に入らなかったためこちらで調査をしました)

結果はこうなりました。

源氏物語 枕草子
あはれ 944 87
をかし 534 422

(※「あはれ」は名詞「あはれ」、形容動詞「あはれなり」のどちらも計上しています。)

 

あれ? 「あはれ」「をかし」のどちらも、『源氏物語』の方が多いぞ……?

実はこれにはちゃんとわけがあります。それは、『源氏物語』と『枕草子』の分量の差です。

今回の調査対象を両作品とも収録している小学館の『新編日本古典文学全集』では、『枕草子』が1巻で収まっているのに対し、『源氏物語』は6巻分にも及んでいます。

単純に数だけを比較すれば、『源氏物語』がどうしても多くなってしまうのです。

そこで、『古典対照語い表』の巻末に載っていた、『源氏物語』と『枕草子』ののべ語数を使うことにしました。

「(該当する語)÷(のべ語数)」を計算することで、全体の語数に対する「あはれ」「をかし」の割合を見てみます。

結果がこれです。

源氏物語(のべ語数:207808) 枕草子(のべ語数:32906)
あはれ 944(0.54%) 87(0.26%)
をかし 534(0.26%) 422(1.28%)

(※少数第三位で四捨五入。)

 

割合を見ると、たしかに、『源氏物語』は「あはれ」が多く、『枕草子』は「をかし」が多いという結果になりました。高校の先生が言っていたことは間違っていなかった!

それにしても、目を引くのは『枕草子』の「をかし」の多さです。驚異の1%越え!

それもそのはず、『古典対照語い表』の巻末資料によると、『枕草子』における『をかし』の割合は全語の内、上位8位に食い込んでいます。

1位~7位までを「あり」「いふ」「いと」「人」「す」「もの」「こと」といった、上位にいて納得のラインナップが占める中、唐突な「をかし」なので、清少納言のこだわりが感じられます。

『源氏物語』を超える「あはれ」な作品

余談ですが、『古典対照語い表』に掲載されていた他作品も調べてみたところ、「あはれ」の割合が『源氏物語』を超える作品を見つけました。

それが『更級日記(さらしなにっき)』です。『源氏物語』が0.45%だったのに対し、『更級日記』は0.61%とそれを上回っています。

『更級日記』は平安時代中期に菅原孝標女(すがわらのたかすえのむすめ)によって書かれた日記文学の名作の1つです。物語に憧れた無邪気な少女時代から、身内の死去、結婚などを経て、次第に現実の厳しさを知り老いていくまでの約40年間が綴られています。

注目したいのは、菅原孝標女が特に恋い焦がれていた物語が『源氏物語』だということです。

国語の教科書にも「源氏五十余巻」として掲載される『更級日記』の一節では、叔母である藤原道綱母(ふじわらのみちつなのはは)からもらい受けた『源氏物語』を喜々として読む姿が描かれています。

こうした菅原孝標女の強いあこがれを見ると、『源氏物語』から影響を受けた結果、『源氏物語』を上回るほど「あはれ」を多用してしまったんじゃないかと考えてしまいます。

おわりに

調べた結果、『源氏物語』は「あはれ」が多く使われていて、『枕草子』は「をかし」が多く使われており、『源氏物語』は「あはれ」の文学、『枕草子』は「をかし」の文学、という言説に間違いはなさそうだという結論に至りました。

そして、真偽は定かではありませんが、『源氏物語』の「あはれ」の精神は『更級日記』にも受け継がれているようです。

みなさんも、好きな作家、憧れの作家がいたら、その人の文体を徹底的に真似してみることで後世に伝わる名作を書ける……かもしれません。

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「メロンパンだって動くのだ。物語が止まるはずがない。」をモットーに、阿佐翠、新士悟、真実無目むゆの三人で活動する文藝サークルです。

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