140字小説における人称「君」について

こんにちは、蓼食う本の虫編集長のあとーすです。

僕は趣味で140字小説を書いており、Twitterでは筆名である「篠原歩」という名前で作品を投稿しています。

 

さらに、最近では「雨谷ハル」さんと共同で140字小説を執筆することに取り組んでいます。

どちらかが前半の70字を書き、もう一方が後半の70字を書くという方式。1週間に1度のペースで執筆をしています。

 

そんな共同140字小説で先日、以下のような前半が雨谷さんから送られてきました。

ここで気になったのが、「あいつ」という表現です。今回は、僕の考える140字小説の人称について書いていきたいと思います。

「君」と「あいつ」の距離

先ほどの前半に対して、僕は以下のような後半を返しました。

僕は普段、一人称は「僕」と「私」を使い、他の人称は「君」しかほとんど使いません。ゆえに、この140字小説の後半を書くときも自然に「去年の今頃、は葉桜が嫌いだと言った」と書いており、途中で気づいて慌てて「あいつ」に書き換えました。

この「君」と「あいつ」では、随分と文章の感じが違ってくるように思います。一体どこがどう違うのでしょうか?

文字数

まずは文字数の違いがあります。

僕はできるだけ文字数を減らそうとするので、人称もできるだけ1文字のものを使うように心がけています。ゆえに、「僕」「私」「君」などを使うことにしています。

もちろん、必要がある場合には今回のように「あいつ」にすることも効果的です。僕の場合は、1文字に慣れてしまってあまり使うことがなくなってしまいましたが……。

二人称と三人称

次に、根本的に違うのは「君」が二人称であり、「あいつ」が三人称であるということです。

先ほどの140字小説では、ここにはいない人を指し示すので「あいつ」などの三人称を使うのが適切だと思います。しかし、それを二人称である「君」に変更すると、グッと二人の関係性が近づくように思われるのです。

もちろん、「あいつ」を使うことによる効果もあります。別れた恋人との決別を表明するシーンで「あいつ」と呼ぶことは、その決意を全面に押し出すことになります。ここで「君」を用いれば、その呼び方から親しみが感じられ、決別したという感じは薄れてしまい、まだ名残惜しいというような印象が残るでしょう。

「君」について

僕が140字小説を書くときに二人称として「君」を用いるのには、先述したように文字数を節約できるからということもありますが、他にもいくつか理由があります。

まず、日常では「君」という言葉をなかなか使わないということ。普段の生活において、二人称「君」を使うことは(少なくとも僕は)全くありません。また、言われることもほとんどありません。

それだからこそ、「君」という響きには何か特別なものを感じてしまいます。現実離れした、「物語」の雰囲気を感じるのです。

また、日常生活では相手の名前で呼びかけることが多いと思うのですが、140字小説では名前が唐突に出てくると意味がわからなくなるので、僕は基本的に使わないことにしています。

名前を使わずに呼びかけると、相手の性別か分からないというのも良い点でしょう。たとえば、僕が男女の恋愛模様を書いている場合でも、男性同士の恋愛に当てはめて読む方もいらっしゃいます。あるいは、好きなカップリングに当てはめて楽しまれる方もいるようです。書き始めた頃はそんなことを想像もせずに「君」を使っていたのですが、そういう楽しみ方もあるのだなと最近は意識的にキャラクターの個性をなるべく出さず、人称も「君」を中心に使うようにしています。

さて、二人称を使うということで「あなた」という二人称も選択肢に出てくるかと思います。字数の関係で1字の「君」を使うということもありますが、「あなた」よりも「君」の方が特別な感じがしています。

これは、和歌などで恋人のことを「君」と呼ぶことが多いのが関係しているかもしれません。また、「あなた」は目の前にいる人を指すまさに二人称的な響きがあるのに対して、「君」はどこか三人称的な要素を含んでいるように思われます。目の前にいない「君」を夢想しながら、物語が進んでいく感じです。

まとめ

「僕」と「私」についても書こうと思っていたのですが、それはまたの機会に。

僕は以上のような理由で「君」を使うことにしていますが、もちろん他の人称を使うのも良いと思います。ただ、その言葉を使う意味は、書く前に考えてみても良いかもしれませんね。

140字小説を書いたことがないという方は、この記事を参考にして挑戦していただけると嬉しいです。

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