10月2日に第14回山田風太郎賞の結果が発表され、受賞作は前川ほまれ『藍色時刻の君たちは』に決まった。
山田風太郎賞は、戦後日本を代表する小説家、故山田風太郎氏の独創的な作品群と、大衆性、ノンジャンル性、反骨精神など氏が貫いた作家的姿勢への敬意を礎に、有望な作家の作品を発表顕彰するために創設されたもの。新人、新進、中堅作家の作品が対象となる。
受賞した『藍色時刻の君たちは』は、ヤングケアラーを扱った作品。前川氏は、会見の中で「今回、ヤングケアラーをテーマに取材する中で、地元(宮城県)の風景が浮かんだ。大人になったヤングケアラーの子どもたちがどういうふうに生きているのか、ということと、もともと書きたかった震災(東日本大震災)のことをあわせて書いた」と述べている。
【前川ほまれ『藍色時刻の君たちは』 あらすじ】
2010年10月。宮城県の港町に暮らす高校2年生の小羽(こはね)は、統合失調症を患う母を抱え、介護と家事に忙殺されていた。彼女の鬱屈した感情は、同級生である、双極性障害の祖母を介護する航平と、アルコール依存症の母と幼い弟の面倒を見る凜子にしか理解されない。3人は周囲の介護についての無理解に苦しめられ、誰にも助けを求められない孤立した日常を送っていた。しかし、町にある親族の家に身を寄せていた青葉という女性が、小羽たちの孤独に理解を示す。優しく寄り添い続ける青葉との交流で、3人が前向きな日常を過ごせるようになっていった矢先、2011年3月の震災によって全てが一変してしまう。
2022年7月。看護師になった小羽は、震災時の後悔と癒えない傷に苦しんでいた。そんなある時、彼女は旧友たちと再会し、それを機に過去や、青葉が抱えていた秘密と向き合うことになる……。
最終候補となっていた作品は以下のとおり。
- 白井智之『名探偵のいけにえ―人民教会殺人事件―』(新潮社 2022年9月)
- 高殿円『忘らるる物語』(KADOKAWA 2023年3月)
- 中脇初枝『伝言』(講談社 2023年8月)
- 前川ほまれ『藍色時刻の君たちは』(東京創元社 2023年7月)
- 吉川トリコ『あわのまにまに』(KADOKAWA 2023年2月)