文学フリマで「100部」売れたのでやったことを振り返ってみた

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文学フリマは、小説をはじめとして短歌や評論、エッセイなど「自らが《文学》と信じるもの」を販売する文学系の即売会です。馴染みのない方に向けては、「漫画じゃない、エッチでもない、二次創作でもない本がたくさん並んでいる同人誌即売会」と言うとだいたいの雰囲気が伝わるでしょうか。

私、蓼食う本の虫主宰のあとーすは、この文学フリマに10年以上出店し続けています。そんな中、2025年11月23日に開催された文学フリマ東京41にて、1回のイベントで売り上げた同人誌の冊数がはじめて「100部」を超えました。

近年、文学フリマは拡大傾向にあり、文学フリマ東京41の来場者数は、出店者・一般来場者合わせて18,971人で、過去最高を記録しています。ライターの青柳美帆子さんが2015年に書かれていた文学フリマで「50部」売れるために必要なことをまとめてみたという記事を参照すると、この頃は参加者が4,000人規模だったということ。それに比べれば来場者数は4倍になっており、そう考えればこの「100部」という数字は大したものではないのかもしれません。しかし、僕にとってはずっと夢見てきた数字でもあります。

そこでこの記事では、売上げ部数が100部を達成した文学フリマ東京41を振り返り、何が良かったのかを考えてみたいと思います。

文学フリマ東京41で販売した本

まずは、文学フリマ東京41で販売した本のご紹介です。

  • 『自然言語狩り 2025秋』(新刊・個人誌)
  • 『LAZURITE』Vol.7(新刊・アンソロジー)
  • 『自然言語演習 日本語篇』(既刊・個人誌)
  • 『游象』創刊号(既刊・アンソロジー)
  • 『#にほんごウォッチ まとめ本』(委託)

このうち、作品をご寄稿いただいたアンソロジーと、委託販売の本は、販売部数を公開するのは忍びないので控えます。

個人誌である『自然言語狩り 2025秋』『自然言語演習 日本語篇』の販売部数は以下のとおり。

  • 『自然言語狩り 2025秋』 → 43部
  • 『自然言語演習 日本語篇』 → 59部

というわけで、個人誌だけで販売部数の合計が100部を超えました!

100部売るために考えたこと

というわけで、100部売るために考えたことを書いてみます。

企画・内容

「文学フリマ」と聞いて最初に想起するのは小説本かもしれません。僕も、過去の多くの文学フリマでは小説本を販売してきました。

しかし、商業作家の方だったり、小説投稿サイトなどでたくさんの読者を抱えている方でない限り、小説本はあまり売れないと思います。10部売れたら良くて、20部売れたら大喜び。30部売れたらとんでもないこと、くらいの感覚で僕は考えています。

小説のほかに強いジャンルは、短歌、エッセイなどでしょうか。

さて、僕が今回個人誌として出していたのは、「ことばの謎」に関する本でした。大学生の頃から日本語について考えることが好きだったので、普段不思議に思っていることをまとめてみた本になります。

既刊の『自然言語演習 日本語篇』は前回の文学フリマ40ではじめて販売した時もかなり反応が良く、イベント開始1時間半ほどで30部が売り切れてしまいました。そのため、今回はかなり多めに持っていき、売り切れることなく59部を売り上げました。

新刊の『自然言語狩り 2025秋』は、『自然言語演習 日本語篇』よりも1トピックあたりの文量を減らし、しかし気になっていることばの謎はなるべく全部取り入れる、という方向で執筆・編集しました。

結果としては、既刊の方がかなり手に取っていただけたなあと思います。「自然言語演習1冊のみ購入」か「自然言語演習と自然言語狩りを両方購入」のいずれかのパターンの方がほとんどでした。これを鑑みるに、同じ「ことばの謎」というテーマで新刊・既刊を並べられたのは良かったなと思います。合わせ買いしてくださる方がたくさんいらっしゃいました。

表紙のデザイン

文学フリマで同人誌を販売するにあたって、表紙のデザインはかなり重要だと思います。たとえば、コミケやコミティアなどであれば、表紙のイラストなどを見て好みの絵柄かどうかを判断することができます。しかし、テキストが中心の文学フリマの本は、見本誌コーナーやブースで立ち読みをしてもクオリティや好みを判断することが難しいです。そのため、その本の顔である表紙も大切な要素になります。

これは、CDに「ジャケ買い」という言葉があることからも分かるでしょう。実際にその音源を聴かなくても、ジャケットのデザインを見ることで、自分の文化圏にそのCDが位置づけられているかを判断する。同じような理由で、本を表紙買いすることもあります。

今回、特に『自然言語演習 日本語篇』では、何が書かれているか表紙で分かりやすく表現する、ということを心がけました。

まずは黄色を基調にした配色。黄色は黒と組み合わせて警告色として扱われることが多く、最近は二郎系ラーメンもこの配色が使われていますね。特に目を引きやすい黄色を使うことで、宣伝ツイートや見本誌コーナーで目立ちやすいようにしています。

ところで、イラストなどのビジュアル要素が強ければそれで売れたりもするのですが、残念なことに僕には絵の才能がありません。才能が無いどころか、これまで真面目に絵を描く練習をしたことがありません。要するに絵が下手です。そのため、イラスト以外の要素で表紙を構成する必要がありました。

そこで、今回の表紙は文字を多めに使ったデザインにしています。この本の内容として、たとえば「有給休暇の略語の表記は有休・有給のどちら?」みたいなことを取り扱っているのですが、それが端的に分かるように表紙に文字を配置しています。

このアイディアは、ひつじ書房から刊行されている小松原哲太さんの『概説レトリック』を多いに参考にさせていただきました。装丁は村上真理奈さん。

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文字を配置するにあたって、ただ単純に並べていくだけでは目を引く構成にはならないので、これまで趣味で作ってきたチラシで用いた装飾技法などを用いて、良い感じに並べてみました。賑やかな感じが出て、個人的には気に入っています。

また、表紙の最下部にはこの本のコンセプトもやや長めに書いています。商業誌の場合は帯などを巻いてその本のコンセプトを伝えられますが、今回の同人誌の場合はこの表紙だけが顔になるので、ここに書くしかありませんでした。

組版

テキスト系のブースで中身をパラパラとめくっても何も分からないだろう……と書きましたが、自分が他の方のブースに寄って本の中身を見る時に、そういえば組版が綺麗かどうかはある程度気にしているような気がします。

そこで、今回ははじめて横書きの書籍を作ったということもあり、組版についてはちょっと考えながら作ってみました。これも具体的には、『レトリック概説』をはじめとして、ひつじ書房から出ている本を参考にしながら、なるべく綺麗な組版になるように近づけていっただけなのですが……。

個人的に、組版は減点方式だと思っています。可読性の低いフォントを使っていたり、字間や行間が詰まりすぎていたり、「何か読みにくいな」と読者の方に思われるのが一番良くない。そのため、本をパッと開いた時に、違和感が極力少なくなるような組み方にしてみました。

自分で過去に作った本を開いてみると、読みづらいフォントを使っていたり、行間がとんでもなくギチギチだったりします。そのため、これから本を作る場合は、商業出版の本と自分の本を見比べながら組版を進めていくことをおすすめします。

なお、僕はInDesiginで組版を行っているのですが、以下の記事をいつも参考にしています。

InDesignで小説本の組版を作る方法とは?実例付きでやさしく解説

見本誌の設置

ところで、先ほど「既刊の方が新刊よりも多く売れた」といったことを書いたのですが、これには思い当たる節があります。実は、文学フリマ東京41の会場に入場証一式を忘れてしまい、一緒に届いていた見本誌シールも忘れてきてしまったのです。何とか別ブースの方に余っている見本誌シールを1枚頂けたのですが、持ってきたラインナップを見て一番目立つ本を考えて、『自然言語演習 日本語篇』にこの見本誌シールを使ってしまいました。そのため、『自然言語狩り 2025秋』の方にも見本誌シールを貼っていれば、もう少し興味を持ってもらえていたのかもしれません……。

見本誌は最大で3冊まで置けます。見本誌シールを忘れていない場合は、この3冊の枠をもちろん最大限使うべきです。

ブースに来てくださった方とお話していて、「どうやってこの本を見つけましたか?」と聞いてみたのですが、「見本誌コーナーで読んで、面白そうだから来ました〜」という方が思いのほか多かったです。ここでも、もしかすると表紙の派手なデザインが生きたのかもしれません。

事前の宣伝

見本誌コーナーも大事ですが、やはり事前の宣伝も大事だと思います。ブースに来られる方の中には、紙のカタログに印を付けた物を手に持ち、一直線にブースで来られる方もいらっしゃいます。それを見ると、「事前にちゃんと宣伝しておいて良かった〜!」と思います。

宣伝ツイートの内容としては、

  • 本のタイトル
  • 本の概要
  • 本の表紙画像
  • 文学フリマに参加すること

が書かれていると良いかなと思います。ハッシュタグを使うのもおすすめですね。僕のTwitterのおすすめタイムラインには、よく文学フリマの出店ツイートが流れてきていました。同じように、僕のツイートも他の方のおすすめタイムラインに流れいたのではないかなと思います。

また、WebカタログのURLを載せるのも良いと思います。文学フリマのWebカタログには「気になる」という機能があります。これを見ることで、自分のブースがどれくらい注目されているのかがある程度分かって便利です。また、宣伝ツイートだけでは伝えきれない他の本の情報なども伝えられるので、できればWebカタログを充実させておくのがおすすめです。

Twitterのポストアナリティクスを見ると、Webカタログも37回クリックされているようです。

ブースのレイアウト

ブースのレイアウトは、特にこだわったことは何もしていないのですが、いくつか持ち込んだものがあるのでご紹介しますね。

まずは値札。それぞれの書籍のタイトルと価格が分かるように事前に印刷しています。三つ折りにして自立するように印刷しており、こうすれば持ち運びの時にかさばらなくて便利です。買い手の立場になれば当然のことなのですが、本の価格はかなり大事。他のブースと合わせてどのくらいの予算で回ろうかと事前に考えているはず。そのため、全ての書籍に分かりやすく値段を表示するのがおすすめです。

続いてポスター。今回はA3ポスターを持っていきました。本当は丸めて持っていった方が良いのですが、飛行機移動だったため、四つ折りで持ち込みました。折り目がついてやや不格好ですが、まあポスターは遠くからでも見えることが大事なので、あまり気にしていません。通りがかりにポスターを見て「自然言語演習……?」とつぶやきながら立ち止まってくださった方もいらっしゃったので、効果はあったのだと思います。

このポスターについては、、『自然言語演習 日本語篇』の表紙画像に値段を入れただけのものなので、制作コストはぜんぜんかかっていません。表紙をちゃんと作り込んでいると、その素材だけでどうとでもなるので、楽で良いですね。

ところで、今回は在庫の本を全て並べて面陳してみたのですが、一番上の本を見本として見ることに抵抗がある方もいらっしゃるようなので、次からは見本誌を1冊ずつ準備しようかなと考えています。ただ、そうすると在庫を置くスペースはなくなってしまうので、お買い上げいただく本を1冊ずつ足下からお出しする形になるかなと思います。

来年に向けて新刊の構想もあり、今後も冊数が増えていきそうなので、組み立て式のディスプレイなどを購入したいなと思っています。

ディスプレイについては、海猫沢めろんさんの以下の記事も参考になります。

文学フリマのディスプレイ、正解がわかった

声かけ

今回の文学フリマでは、声かけの重要性を痛感しました。

僕は、ブースにいるときは基本的に本を読むことにしています。今回は、お隣のブースで販売されていた『推し活HELL 33歳オタク女、アイドルにハマる』が凄く面白そうだったので購入し、開場時間中はずっと読んでいました。

ただ、本を読みながらも、常にブースの前に誰か来ていないか気を配り、少しでも立ち止まってくれそうな気配があればそちらを見るようにしていました。そこまでするなら、本を読まずにずっとブース周辺に気を配っていれば良いのでは、という話ではあるのですが……。

ブース前で立ち止まって表紙やポスターを見ている方には、もれなく「よろしければお手に取ってご覧ください」とお声がけしました。すると、だいたい9割くらいの方は手にとって読んでくださいます。さらに、そのうちのさらに9割の方は『自然言語演習 日本語篇』を手に取ってくださっていました。

パラパラと中身を確認してくださり、それが終わりに近づいたかなというタイミングで、僕の方から20秒くらいで本の説明をしていました。「これは今年の春に出した本で、たとえば有給休暇を略す時って、どちらの漢字を使うか悩みませんか? そのほかに、料理と調理の違いも解説していて……」といった具合です。すると、大抵の方が「たしかに……!」という顔をしてくださりました。この説明をする時、表紙を見ながら説明できるのがとても便利でした。やはり今回の文学フリマでの一番の成功要因は、表紙をちゃんとつくったことかもしれません。

その流れで、同じくことばの謎を取り扱っている新刊『自然言語狩り 2025秋』の内容もご説明。その結果として、この2冊を同時にご購入いただけた方がかなり多かったです。また、委託本としてお預かりしていた『#にほんごウォッチ まとめ本』の方も、「こちらは、現役の日本語教師・日本語学者の方が書かれた本で〜」という感じで、合わせてご案内しました。その結果として、こちらの本も追加で買ってくださった方がいらっしゃって、とても嬉しかったです。

また、文芸誌として『游象』創刊号、『LAZURITE Vol.7』も置いていたので、こちらに興味を持っていただけた方には、この2冊をまとめてご紹介していました。

参加ジャンル

文学フリマにおいては、参加ジャンルも大切なのではないかと思います。思うのですが、蓼食う本の虫にとって最適なジャンルがどこなのかはあまりよく分かっていません。

今回は、ことばの謎の本と文芸誌を同時に売るというよく分からない状況だったので、とりあえず「ノンフィクション|エッセイ・随筆・体験記」に出店しました。よく考えれば、エッセイをほとんど取り扱っていないような気もするのですが……。参加ジャンルによってブースや見本誌コーナーの位置が変わるので、ここは一考の余地がありそうです。

ちなみに、ことばの謎に近しい辞書同人サークルのL「exicography 101」さんは、「評論・研究|出版」で出店されていたようです。

価格

よく考えれば、今回の500円という価格も、手に取りやすいちょうど良い価格だったのではないかなと思います。

ただ、最近は紙の値段が上がってきているので、500円で売ってもあまり利益が出ないのですよね……。イベント出店料や交通費を考えれば完全に赤字です。利益のことを考えると、もう少し分厚い本を作り、1冊あたりの単価を1,000円くらいにした方が良いのかなあなどとは思います。

まとめ

振り返ってみると、思っていたより色々なことを考えて本を作ったりブースを設営したりしていたのだなあ……と思います。どれも細かいことではありますが、出店経験を重ねながら、一つひとつ改善していくことが重要だなと思いました。

しかし、100部売れるようにするために最も大切なのは、結局のところ「本の企画」だったのではないかと思います。「おもしろい本」を書くのは当然として、「おもしろそうな本」を書くというのが重要なのかもしれません。まずはおもしろそうな企画を作って、おもしそろうなタイトルをつけて、おもしろそうな表紙に仕上げてみる。今後も、おもしろそうな本を作っていきたいなあ。

なお、今回ご紹介した『自然言語演習 日本語篇』『自然言語狩り 2025秋』は、BOOTHにて通販も行っております! この記事を読んで中身が気になった方がいらっしゃれば、ぜひご購入いただけますと幸いです。

次回の文学フリマに向けては、まず『自然言語狩り 2026春』の刊行を目指して、日頃からことばの謎の収集に努めたいと思います。できれば、『自然言語演習』シリーズも何か出したいですね。今後は何かしらのトピックに絞って分析をしてみたいと考えていて、目下のところ「類義語」に注目しています。それから、何かしらのトピックのことばをたくさん集めて、辞書的なものも作りたいなあと思っています。

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ABOUTこの記事を書いた人

1993年生まれ、福岡県出身、熊本県在住。
2016年より、文芸Webメディア「蓼食う本の虫」を主宰・運営。
熊本大学文学部文学科卒。在学中は日本語日本文学研究室に所属。卒業論文のテーマは「太宰治の私小説的作品について」。
新卒で印刷会社に入社し、営業・Webディレクターとして業務に従事。2018年にピクシブ株式会社に入社。チャット小説サービス「pixiv chatstory」のディレクター、pixiv小説チームのプロダクトマネージャー・コミュニティマネージャーを担当。2021年に個人事業主として独立。
詳しいプロフィールやご連絡については、atohs.meをご覧ください。