蓼食う本の虫は、本好き・物書きの方に向けて幅広い情報をお届けする文芸Webメディアです。そんなメディアを運営しておきながら、主宰の僕にとって小説を書くことは日常ではありません。
もちろん、小説を書くことを全くしてこなかったというわけではなく、小学生の頃には既に物語らしきものは書いていました。また、過去には大学の文芸サークルに所属し、そこで発行しているサークル誌に小説を年4回寄稿していたこともありました。
しかし、社会人になって働き始め、小説がめっきり書けなくなってしまいました。それは30代を迎えた今でも変わらず、「書きたい気持ちはあるけれど、何を書いたら良いのか分からない……」という気持ちに日々苦しめられていました。
しかし、先日『LAZURITE』という同人アンソロジー用に掲載するための短編小説を久しぶりに書くことができました。文字数としては8,000字程度とかなり短いものの、久しぶりに小説が書けてとても嬉しかったです。
そこで今回は、「長らく小説を書けなかった30代男性が、久しぶりに小説を書けるようになったのにはどういう要因があったのか?」ということについてご紹介いたします。上手に小説を書けるようになる方法は分かりませんが、スランプなどで今なかなか小説が書けないという方にとっては、少し役に立つ情報が含まれているのではないかと思います。
言うまでもなく、締切は神である
今回の小説は、冒頭でも紹介した通り『LAZURITE』という同人アンソロジーに寄稿するために書いたものでした。
『LAZURITE』というのは僕が所属している文芸同人サークル「無間書房」が発刊している機関誌で、今回が7号目になります。前号となる6号を出したのが2019年だったので、およそ6年ぶりの新刊です。
2025年の9月頃に「新刊を出しましょう!」という話になり、初売りの目標は同年11月23日開催の文学フリマ東京。今回は入稿をギリギリまで待ってくれるポプルスで印刷することを決めていたので、入稿締切は11月18日。校正や組版などの作業を考え、余裕を持って11月頭に初稿締切を設定していました。
普段はぼんやりと「小説を書きたい気がするな〜でも書けないな〜」などと言いながら暮らしているのですが、本を作るという目標ができると、やはり俄然やる気が出てきますね。というより、他の同人メンバーが原稿を出してくれる手前、自分が書けていないのはかなりマズい。そういう思いで、何とか初稿を書き上げることができました。
なお、編集長権限で、初稿の締切よりも少し遅れて原稿を完成させたことはここだけの秘密です。他のメンバーの原稿のクオリティの高さに驚き、慌てて自分の原稿をちゃんと完成させました。
これを踏まえて、やはり締切というものは偉大だなあと思いました。自分一人で本を作る場合などにも効くと思いますが、他の人と一緒に本を作るとなると、もっと効果が強い。どうしても小説が書けないと悩んでいる方は、ぜひ誰かと一緒に短編小説アンソロジーを作る計画を立ててみるのが良いと思います。
テーマがあると楽
今回、小説を書くにあたってもうひとつ良かった点があり、それは「テーマ」があったということです。
文学フリマで本を販売するにあたって、読者の方は何かしらのテーマがあった方が同人アンソロジーを手に取りやすいだろうという思いから、『LAZURITE』ではテーマを設定することにしています。今回の号のテーマは「装う」で、これがあったからこそ小説を書くことができたような気がします。
森羅万象の中から自分の書きたいものを選び取るのはなかなか難しいですが、所与の条件として「装う」という一単語があるだけでもかなり救われます。自分が「装う」で連想するものを挙げていき、そこから興味のある領域を取り上げていけば良いわけですから。
自分の経験を盛り込む
小説の創作論では、よく「自分が経験したことしか小説には書けない」と言われたりします。これを額面的に受け取ってはいけないと思いますが、少なくとも「自分が経験したことは書きやすいし、リアリティも生まれやすい」とは言えるのではないかと思っています。
僕は今回の「装う」というテーマを見て、自分の減量のことを思い出しました。僕は2025年3月から減量計画に取り組み、9月の時点で30kgほどの減量に成功していたのですが、その時の経験を小説にできないかと考えていました。
この減量は、食事と運動を組み合わせて行いました。その運動の一環としてジョギングを行っていく中で、精神が研ぎ澄まされていくような感覚になることがありました。いわゆるランナーズハイというやつですね。すると、自分の内側と外界がとても薄い皮一枚でしか隔たれていないような、妙に不安な感覚になったんです。とすると、これまでの自分は脂肪という鎧を装うことで、外界とはぬくぬくと対峙していたのではないか……。みたいなところから小説を書き始めました。
小説全体としても、自分の経験したエピソードをミックスしながら入れていったので、ノンフィクションではないもののリアリティのある描写に仕上げることができたのではないかと思います。自分の経験を思い出しながら書くだけなので、執筆スピードもかなり速かったです。
ファンタジー作品などを書く際には使えない手法ですが、身辺雑記や私小説的な作品を書く場合は、ぜひ自分の経験に取材して小説を書くのを試してみていただきたいです。
AIと会話しながら書く
今回はAIも活用してみようと思い、ChatGPTにいろいろと話しかけてみました。
それほどがっつり使ったわけではないのですが、執筆に行き詰まった時の話し相手としては優秀だなと思います。具体的には、「どう書いたら良いか全然わからね〜!」という時に、そこまで書いていた小説のテキストを渡して、「この続きを書いてみて」と指示していました。すると、だいたいはよく分からない文章を返してくるのですが、たまに「その発想はなかった!」みたいな文章が来ることがあります。そういう発想を有り難く頂戴しつつ、また行き詰まったら質問してみる、といった使い方をしていました。
AIでいちから小説を作るというのはまだあまり現実的では無いと思うのですが、発想段階でブレスト的に使ったり、行き詰まった時の突破口を見つけるために使ったりするのはかなり便利なのではないかなと思っています。
エディタを切り替えながら書く
小説を最後まで書き切るというのは、短編小説であっても時間がかかるもので、途中で飽きたり疲れたりします。そこで、何かしらの気分転換を行ってあげると良いわけです。
この気分転換のために、今回はエディタを切り替えながら書くという作戦を実行してみました。
最初は手書きから始めました。PCの前で唸っていても何も書き始めることができなかったので、仕方なくコピー用紙の裏にボールペンで書いてみた、という形です。すると、不思議なことに書き出しみたいなものがするすると出てきました。一気呵成に1,000字くらい書けたものを見て、「やればできるじゃん!」と嬉しくなりました。
このまま手書きで続けるのは疲れるので、続いてはこの手書きの文字たちをPCに打ち込んでいきます。最初はstoneというテキストエディタを使いました。これはmacOS用のシンプルなテキストエディタで、小説を書く時にはよく利用しています。打ち込み終わったら、stoneでしばらく続きを書いていきます。
次に、そろそろ休憩しようかなという段階でGoogleドキュメントにそれまで書いたテキストを移します。こうしておくと、外出先でテキストを見られるようになって非常に便利です。散歩のついでにふと小説を読み返してみたりすると、新たな発想が生まれてきたりします。一度移した後は、基本的にGoogleドキュメントで執筆を進めていきます。
いつもはGoogleドキュメントで最後まで仕上げることが多いのですが、今回は最終的にInDesignで執筆を行いました。というのも、他の方の原稿は完成して続々と届くのに、自分の原稿は5,000字くらいで止まってしまっているという状況に陥り、組版をある程度終えた後でもまだ執筆する必要があったから、このような事態になってしまいました。InDesignで書くと何が良いかというと、必要なページ数を満たすためにあとどのくらい書けば良いのかが視覚的に分かりやすいという点が非常に良かったです。
ライフハックを発見していきたい
今回の小説を書き進めるにあたって改めて思ったのは、僕は小説を書くための小さなライフハックのようなものが好きなんだな、ということです。
上手く小説が書けないと悩んでいる時に、ある小さな行動が光をもたらすことがある。一つひとつの光は小さくとも、それをいくつも重ねていけば、やがて大きな道しるべとなる。そういう書き方が好きです。
まだ短い小説を一本書き上げただけなので偉そうなことは言えないのですが、これからも小説を書くために発見していき、もっと快適な執筆ライフを送れるようにしたいと思っています。その過程で発見したことは蓼食う本の虫で皆さんにもお伝えしていきたいと思いますので、よろしければお付き合いください!

