特殊設定ミステリ入門編ー名作“破格”ミステリ5選

特殊設定ミステリとは?

ミステリ用語で、特殊な状況下におけるミステリのことを「特殊設定ミステリ」と呼称する。現実世界とは違った物理法則・科学技術のある世界やSF・ファンタジー的異世界を舞台にしたミステリ、魔法や超能力を組み込んだミステリなどが該当するものだ。

特殊設定ミステリでは、その設定ならではの巧妙なトリックや驚愕のロジックが描かれており、あらすじだけで読みたくなってしまうものばかり。今回はそんな特殊設定ミステリの中から、自信を持っておすすめできる傑作5作品をご紹介したい。

読めばあなたも特殊設定ミステリの虜になること間違いなし。

特殊設定ミステリの始祖にして金字塔/山口雅也『生ける屍の死』

1990年代末、アメリカでは「死者の蘇り」事件が多発していた。祖父の居るニューイングランドの片田舎へ訪れた主人公・グリンは、お茶会で毒を飲み、自室でひっそりと死んでしまう。けれど、彼は「蘇った」……。生ける屍となったグリンは、自らの死の真相を突き止めるべく、遺産相続を巡る殺人計画の謎を追いかけるのだった。次々と起こる殺人と復活。果たしてグリンは、自身の肉体が崩壊するまでに真相を手にすることができるのか?

「死んだ筈の人間が生き還る」状況という特殊設定下で起きる殺人劇のなんと不可解なことか。さらに探偵も死んでしまうという大胆さには惹きつけられずにはいられない。一体誰が死者なのか、死者が蘇る状況でなぜ殺人を犯さなければならなかったのか。山口雅也のデビュー作にして、不朽の名作。軽快なアメリカらしい会話の掛け合いや、翻訳小説のような文体、死生観の哲学も魅力的な1冊。

ループもの超能力ミステリ!?/西澤保彦『七回死んだ男』

同じ一日を合計9回繰り返すという特殊体質を持つ主人公・久太郎。この『反復落とし穴』現象は、突如始まり、久太郎にしか観測できない。そして、9週目の出来事だけが、決定版として翌日以降に引き継がれる。年始、親族一同が集まる中、遺言状で跡継ぎを指名するはずの祖父が殺され、反復落とし穴が始まってしまう。久太郎は祖父を死なせないため奔走するが……!?

特殊設定ミステリの名手・西澤保彦の代表作。SF的ガジェット・タイムリープを本格ロジックの中に取り込むという発想の面白さもさることながら、ポップでコミカルな描写も読みやすく、特殊設定ミステリ入門に最適な1冊。どんでん返しが好きな読者に刺さらないわけがない、私たちの期待に応えてくれる作品だ。著者の他作品を読めば、特殊設定ミステリマニアへの道を歩き出せることだろう。

ファンタジー×ミステリ、ロジックの傑作/米澤穂信『折れた竜骨』

ソロン諸島領主の娘アミーナは、旅する騎士ファルクとその従士の少年ニコラと出会う。ファルクは、御身は恐るべき魔術の使い手である暗殺騎士に命を狙われている、とアミーナの父に告げた。消えた不死の青年、呪われたデーン人の襲来、封印の鐘……。魔術が存在する世界を舞台にした珠玉のファンタジーミステリ。
 
現実にはありえないような魔法や呪いが描かれていても、読者との約束ごと、つまりルールさえ存在すれば、ミステリは成立する。そのことを丁寧に教えてくれるような本作からは、幻想の中で際立つ論理の美しさを感じることができる。ファンタジーものとして世界観に没頭しながらも、極上の本格ミステリの味を楽しめる。米澤穂信の真骨頂ここにありと謳いたくなるような1冊、ご堪能あれ。

鬼畜系特殊設定パズラーの手腕に惚れる/白井智之『東京結合人間』

男女一組が身体を「結合」し生殖する世界。結合人間は目が4つ、手足が4本、身長は3mを超える。結合人間が生まれる時、稀に一切嘘がつけない「オネストマン」が発生する。そんな中「オネストマン」だけが集う絶海の孤島で殺人事件が起きる。しかし、嘘がつけないはずの容疑者たちは全員が犯行を否定。犯人は一体誰なのか?

こんな設定を思いつく作家が他にいるだろうか?本作を読んだ読者は、鬼畜系特殊設定パズラーという白井の異名に納得せざるをえないだろう。冒頭から過激エログロ描写に度肝を抜かれ、さらに結合人間・オネストマンという特殊設定に衝撃を受ける。さらに白井の持ち味である超絶怒涛の推理パートは圧巻、論理の激流に殴られるような体験が楽しめる。新しい読書体験を求めて頁を開けば、あなたもやみつきになってしまうかもしれない。

衝撃の設定と展開!映画化もされた話題作/今村昌弘『屍人荘の殺人』

大学ミステリ愛好会会長にして自称名探偵の明智恭介と助手・葉村譲は、同大学に通う正真正銘の美少女名探偵・剣崎比留子に誘われ、脅迫状が届いたという映研の夏合宿に参加することに。初日の夜、一行を襲ったのは、思いもよらない事態だった……!混乱の最中、脱出不可能なペンションで畳みかけるように連続殺人が起きる……。

ネタバレ厳禁の本作は、これまでに挙げてきた作品たちに負けず劣らずの大胆な特殊設定を活かした新しいクローズド・サークルミステリ。密室あり、連続殺人ありの大盤振る舞いに大満足。個性の強いキャラクターたちのやりとりも楽しい。探偵と助手の物語に心動かさずにはいられない場面もあり、エンターテイメントと本格ミステリの友情を感じられる読み味となっている。

おわりに

特殊設定ミステリの魅力は、その設定だからこその謎と解決が生まれることだ。どのような状況であっても論理さえあればミステリは成り立つということに、ミステリという概念の持つ自由さを見ることができる。一風変わった状況だからこそ輝く独特な謎解きの面白さはまさにパズルさながら。あなたも是非ミステリの幅広さとロジックを楽しんでみてはいかがだろうか。

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あなたの隣の席で本と映画の話をめっちゃしてくる同級生系Vtuber。YouTubeにておすすめの本や映画を紹介したり、好きな作家について語ったりしています。ミステリが好きです。