野﨑まどが捉える“人間”──おすすめ小説5選

人間とは何か。そんな答えの定まらない漠然とした問いに対して、ささやかなヒントが得られるような小説がある。野﨑まどの小説だ。今回はそんな長編小説を5つご紹介します。

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舞台は「情報材」の発明によって到来した超情報化社会に対応すべく脳を人工の「電子葉」で拡張することが一般的になった世界。情報庁で働くエリート官僚、御野おの・連レルと謎の少女、道終みちお・知ルの壮絶な4日間を描いたSF作品だ。

謎解きあり、バトルあり、ドラマありでエンタメ満点な小説になっている。アニメやマンガ並に派手な絵面を想起させる展開が期待を煽り、散りばめられた謎とSF要素が好奇心を煽る。脳を人工的に拡張して情報処理に特化した人間の振る舞いや社会の営みが描かれておりとても興味深い。

特に、ラストで示される新たな人間像が衝撃的だ。一見なんの脈絡もなく、とんでもないものに思えるかもしれないが、確かに、人間の脳や情報処理について物語のなかで語られたものの延長線上にある。そしてそこには、何を人間と定義しているのかということがしっかりと表れている。脳科学だの神経科学だのに興味のある人には特におすすめの一冊だ。

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パーフェクトフレンド

友情がテーマのジュブナイルでちょっと不思議なミステリ。少しだけ賢い小学校4年生の理桜りざくらは同級生で不登校の天才数学者さなかと出会う。そこに能天気なややや(「ややや」という名前です)、引っ込み思案な柊子ひいらぎこの2人を加えた同級生の少女4人が織り成す日常とちょっとした事件をコメディタッチで描いた作品。

とにかくキャラクター同士の掛け合いが愉快で面白い。『化物語』などの西尾維新作品が好きな人はきっと大いに楽しめるだろう。

物語り中盤で「友達とは何か」「人はどうして友達を作るのか」という問いに対して天才数学者のさなかが導きだす答えが興味深い。詳しくはネタバレになるので控えるが、導き出された答えだけでなくそこに至る過程やその手段からも「人間なんてこんなもんだぞ!」というかなりパワフルな主張を感じることが出来てとても味わい深い。果たしてこの答えが妥当なのかどうか。それは是非ご自身で最後まで読んで決めてみてほしい。

小説家の作り方

駆け出しの小説家である主人公のもとに「小説の書き方を教えてほしい」というファンレターが届く。差出人は「紫 依代」という、どこか浮世離れした女性だった。主人公は戸惑いながらも紫に小説の書き方を指南することにするのだが、やはり紫の世間知らずぶりは並大抵ではなく……という話。

「この世で一番面白い小説」を書くためのレクチャーやら取材やらという形でストーリーが進むのだが、やはりそこでのキャラクター達のやり取りがいちいち面白おかしい。紫さんは何者なのかとか、どうしてわざわざ駆け出し作家である主人公に小説の書き方を教わろうとしたのか、あたりに注目して読むと、きっと著者の人間観の一端に触れることが出来るだろう。

この作品は先に挙げた『パーフェクトフレンド』や後に上げる『【映】アムリタ』と同じくメディアワークス文庫から出ている作品で、野﨑まどの初期の著作である。この頃の作品は「ライトなミステリ×少し不思議×コメディな小説」というスタイルが共通しているので、どれか一つ手に取って気に入ったらほかの作品も読んでみることをお勧めする。でも『2』は最後に読んで下さい。

『ファンタジスタドール イヴ』

カードからちくわや「ドール」と呼ばれる美少女が出てきて戦ったりお風呂に入ったりするアニメ『ファンタジスタドール』の前日譚。舞台は近未来の東京のとある大学、理想の女体に囚われたある物理学徒が妄執と葛藤の末に「ドール」を生み出すに至った経緯を生々しく陰鬱に描いたSF小説。

どうしてカードからちくわや美少女が出てくるのか、そもそも「ドール」とはなんなのか、理想の女性を希求する男の愚かしさ、などといったアニメでは決して語られることのなかった陰の部分が徹底的に語り尽くされている。太宰治の『人間失格』を思わせる文体で、人間の体と心について自然科学的、人文学的な切り口の両方から語る異色づくめの作品。

僕はこの小説にちょっとだけ人生を狂わされた結果、色んな人に布教すべくレビュー記事を書かせていただいた。だから詳しくはそちらを参照してほしい。それくらいパワーのある作品だ。

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太宰とおっぱいはみんな好き / 野﨑まど『ファンタジスタドール イヴ』レビュー

『【映】アムリタ』

野﨑まどのデビュー作。芸大生の二見遭一ふたみあいいちは、同じ芸大の後輩で謎の天才美少女映画監督、最原最早さいはらもはやの自主制作映画に参加することになった。映画制作の過程で、二見は常軌を逸した最原最早の才能に圧倒され続けることになる。

異常な天才、最原最早とそれに振り回される主人公の二見を面白おかしく、しかしどこか仄暗く描いた小説。「創作」「天才」「才能」なんかのキーワードにピンときた人は迷わず手に取って欲しい作品だ。圧倒的な才能を前にした凡人の失意や無力感をしっかりと味わうことが出来るだろう。しかしそれだけではない。

詳しくはネタバレになるのでぼかした言い方をさせてもらうが、天才・最原最早の持つ特殊能力、というか才能の正体とでも言うべき力がとても興味深い。「野﨑まどが捉える”人間”」と銘打って今回の記事で紹介した作品、その全ての根底にある思想が、最原最早の持つ能力にかなり色濃く表れている。もしも「野﨑まど、最近のSF路線は好きだけど初期の作品はちょっと違うっぽいんだよな」と思っている方がいたら、そういう人にこそ読んで欲しい一冊だ。

おわりに

「人間」にまつわるもの、という観点から野﨑まどの小説5つを紹介させて頂いた。どれか1つでも気になる作品があったら是非ご一読願いたい。本当は「全部読まんかい!」と力強く布教したいところだが、1つ読んでしまえば他の作品も読みたくなること請け合いなので、その必要はないのだ。2冊、3冊と読むうちに、いつしか身も心も新作を待ちわびることになるだろう。恐るべきは野﨑まど。この吸引力には抗えない。