「バカなことしませんかって言ったとき、笑ってくれてありがとう」
「うん」
ひとりでも狭い証明写真機の中ではじめて口づけをして、
正しさを信じたくせに間違った。
嘘つきになるはずじゃなかった。
使い捨てカイロみたいなぬくもりは、一度冷えたらずっとつめたい。
「不自由な自由がちょうどいいことをちゃんと前から知ってたんだね」
「黙ってて、ごめん。ごめんな」
「もういいよ、ほんとはあたしも気づいてたから」
ふたりなら無敵でしょってはにかんだ君のえくぼが好きだったんだ。
その細い首のホクロも、左手の少しいびつな爪のかたちも。
「隣から見上げた角度の横顔が大好きだった」
君が微笑む。
「あと先のとがった鼻のかたちとか、ほらこの薄い耳たぶとかも」
泣きそうな声が滲んでぼやけてく。
どうして僕は、僕は、どうして。
さよならを吐息と一緒に白くして、君はきれいに僕を許した。
重なってぶつかりながら愛してた。
愛してたって言えないままで。