絞り出すようにあなたが呟いた最後の言葉は聞こえなかった。
聞き返すことができずに頷いて、終わりの影は傾いてくる。
小さくて冷たい爪を撫でていた。ずっとやさしい、白い深爪。
沈黙に紛れて進む秒針がやけに大きく時間を刻む。
どうしても大事なものをつかめない。夜の流れに身を任せては
うしなったあとでさめざめうなだれる。
傷つく覚悟もなかったのにね。
柔らかい空気を裂いた声色におびえる資格はなかったけれど、
下手くそな気遣いなんていらないと笑うあなたはうつくしかった。
もうぜんぶ無理なんだって。だめだって。
ちいさな夢をなくしたときも、しなやかなあなたの指はインスタに鮮やかすぎる写真をあげる。
スクロールするスピードで落ちてって、映画だったらこれでおしまい。
謝ってほしくなんかはなかったの。ふたりで傘を折ったんだから。
戻らないことは十分わかってる。点滅信号。まばたきの青。