アガサ・クリスティーといえばミステリ好きはだれもが一度は手に取る作家ではないでしょうか。全世界で発行数20億部を突破し、ギネスブックに「史上最高のベストセラー作家」と認定された彼女は、85歳で生涯をおえるまでにたくさんの作品を残しました。その数は、長編66作、中短篇156作、戯曲15作にも及びます。
クリスティー作品には名探偵ポアロとミス・マープルという二大巨頭の探偵がいます。名探偵ポアロは口ひげをたたえた小男で、自らを「灰色の脳細胞」と称し理詰めの推理を展開していきます。ミス・マープルはかわらいしいおばあちゃん探偵で、つつましいセリフの中で鋭い指摘をしたり、お年寄りにしか感じない違和感の中から事件を解決へと導きます。
今回は名探偵ポアロから2編、ミス・マープルから2編、そして「ノンシリーズ」と呼ばれるポアロもマープルも登場しない、しかしサスペンスフルなミステリを1編ご紹介します。
この記事の目次
女主人の死は仕組まれた罠だったのか?『スタイルズ荘の怪事件』
友人の招きでスタイルズ荘を訪れたヘイスティングは、そこの女主人が殺害される事件に巻き込まれてしまいます。彼女の死は遺産を巡る夫の謀略なのか?ポアロの推理が冴えわたります。
クリスティーのデビュー作であり、名探偵エルキュール・ポアロの初登場作品でもあります。視点がポアロ自身ではなく、旧友であるヘイスティングという部分がポイントです。事件が起こってからのヘイスティングの行動にポアロが頭を抱えたり、ヘイスティング自身が事件の関係者に恋をしてしまったりと、ときおりクスッとくる場面もありすが、ミステリとしては一級品。
名探偵ポアロを読んでみたい人はまずこの1冊からどうぞ。
豪華客船で起こる華麗なる犯罪『ナイルに死す』
資産家の妻とその夫につきまとう夫の元婚約者。新婚旅行先のエジプトにまで元婚約者は追いすがり、ついにはナイル川をめぐる豪華客船上で殺人事件まで勃発します。しかし、殺害されたのは意外な人物なのです。
ケネス・ブラナー主演で「ナイル川殺人事件」として映画も公開予定で、注目を集めている作品ではないでしょうか。一見ただの三角関係のもつれにように見えますが、資産家の妻をめぐって壮大な伏線が張ってある超絶技巧ミステリです。複雑な人間ドラマを、名探偵ポアロがゆっくりほどいていきます。映画のような事件の終わり方にも注目です。
かなりボリュームのある本ですが、一度事件が起きてしまうと坂を石が転がるように次々と謎が現れ膨大なページ数など気にならくなるはずです。
予告された殺人は本物か?ただの冗談か?『予告殺人』
チッピング・クレグホーンという田舎の村でだれもが読むローカル紙「ガゼット」。その個人広告欄に殺人の予告が掲載されるところからことは始まります。殺害場所は書いてあるのに、肝心の「だれが殺害されるか?」が分からずじまいのまま。しかし、予告時間を迎えると予期しなかった事件が起こります。
事件解決を主導するのはもちろん警察です。しかし、物語の後半から登場するミス・マープルが好奇心と鋭い洞察力、観察力を発揮し、警察に事件の別の可能性を示唆していきます。マープルをただのかわいらしい「おばあちゃん」だと見くびってはいけません。
牧歌的でのどかな風景の中で描かれる殺人事件、戦争とあまりにも親密すぎた人間関係が招いた悲劇と言えるでしょう。
マープルの人となりを知るのにもぴったりの1冊です。
気軽に読めてしっかりミステリ「クリスマスの悲劇」
友人との集まりで男性陣が刺激的で、冒険心があふれる話しをするのですが、「女性陣も何か話したらどうだ」と1人の男性が女性陣に話しを振ります。しかし、男性のような冒険をしたこともなければ、特別な話題を持たない女性たちは躊躇します。そこでお鉢がまわってきたのがミス・マープル。彼女は自らが体験した奇妙な殺人事件を話し始めるのです。
こちらはミス・マープルの短篇です。ページ数にして約30ページほどしかありませんが、彼女が静かに語るのは恐ろしく巧妙に仕組まれた犯罪です。そして、マープルはその犯罪を自らの経験から予測していたのですが、防ぐことができなかったと後悔しているとも語るのです。
少ないページ数にクリスティーの技が光る一編です。
裁かれなかった罪の行方『そして誰もいなくなった』
兵隊島に集められた様々な職業の、年齢も性別もバラバラの10人の招待客たち。しかし、一向に島に招待してきた主人夫婦は現れず、不審に思っていた矢先に不気味なレコードが流れだします。それは招待客たちの罪を告発するものだったのです。ダイニングテーブルに置かれた兵隊の人形が、1人が殺害されるごとに1つずつ減っていきます。各部屋の額縁に入った童謡のとおりに……。
こちらの作品はクリスティーの中でもかなり有名なものです。しかし、ポアロもマープルも登場しません。いわゆる「ノンシリーズ」と言われる形を取っており、ミステリ的には外部との連絡が断たれた「嵐の山荘もの」です。
アッと驚くラストの仕掛けを、予想しながら読むと楽しいかもしれません。
まとめ
クリスティーは「ミステリの女王」と呼ばれ、あらゆる年代、世代の人に読み継がれてきました。
本格ミステリの黄金期を支えた彼女の作品を、ぜひ堪能してください。
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