ネネネの短歌条例第九回「カラフル」

絞り出すようにあなたが呟いた最後の言葉は聞こえなかった。
聞き返すことができずに頷いて、終わりの影は傾いてくる。
小さくて冷たい爪を撫でていた。ずっとやさしい、白い深爪。

沈黙に紛れて進む秒針がやけに大きく時間を刻む。

どうしても大事なものをつかめない。夜の流れに身を任せては
うしなったあとでさめざめうなだれる。

傷つく覚悟もなかったのにね。

柔らかい空気を裂いた声色におびえる資格はなかったけれど、
下手くそな気遣いなんていらないと笑うあなたはうつくしかった。

もうぜんぶ無理なんだって。だめだって。
ちいさな夢をなくしたときも、しなやかなあなたの指はインスタに鮮やかすぎる写真をあげる。

スクロールするスピードで落ちてって、映画だったらこれでおしまい。

謝ってほしくなんかはなかったの。ふたりで傘を折ったんだから。
戻らないことは十分わかってる。点滅信号。まばたきの青。

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短歌をつくって絵を描くライター。
最近川の近くで一人暮らしを始めました。食べられるチーズと食べられないチーズがあります。特技はおいしいコーヒーのお店を見つけること。