あさのあつこが描く“時代を超えた人の闇”「弥勒」シリーズレビュー!

初めまして。[。-MaLu-]と申します。今回は、私が今一番おすすめしたい本をご紹介します。

 

まずはじめに、皆さんにお尋ねしたいことがあります。

 

  • 時代小説、読みますか?
  • 人のドロドロした、暗〜い部分、好きだったりしますか?

 

 前者の問いには「いいえ」、後者の問いには「はい」と答えたそこのあなたに! そうでないあなたにも! おすすめしたいのがあさのあつこさんの「弥勒」シリーズです。

青春小説の騎手、あさのあつこが描く時代小説

 

(※上記は「弥勒」シリーズ第一巻『弥勒の月』)

 

あさのあつこさんといえば、『バッテリー』や『NO.6』で有名ですよね。私は中学生、高校生のとき、『ガールズ・ブルー』であさのあつこ作品と初めて出会いました。爽やかで、透き通るような文章を書く人だな、と感動したのを今でも覚えています。

けれど、この「弥勒」シリーズはいい意味で今までの私のイメージをぶち壊してくれました。描かれているのは人の、そして世の中の、暗くドロドロした部分。塞ぎ込みたくなるような、人の心の裏側なのです。

「弥勒」シリーズのあらすじ

 主な登場人物は3人。

  • 北定町廻り同心(きたじょうまちまわりどうしん)木暮信次郎(こぐれしんじろう)
  • 岡っ引、伊佐治(いさじ)親分
  • 小間物問屋遠野屋の主人、清之介(せいのすけ)

 
3人が出会ったのはある事件がきっかけだった。それは清之介の妻で遠野屋の若女将、おりんの死。水死体として川で発見されたおりんを口切りに江戸の町で次々と殺人事件が起こる。事件解決とおりんの死の真相解明のために奔走する3人、そして事件の背景には清之介の過去が関係していた……。

日常に退屈し、歪なもの、普通でないものを好む信次郎は「生きる時代を間違えた」と言われるほどの考察力の高さで難解な事件を紐解いていくのだが、事件解決の糸口を見つけるための重要な役割を果たす人物が伊佐治と清之介。

伊佐治は自分が疑問に思ったことをぶつけることで、清之介は静かに話を聞くことで、信次郎の推理のきっかけを与えていく。2人との会話の中やほんの些細な糸口から事件の真相に辿り着くと、そこには意外な結末が……!

時代小説感を感じさせない「あさのマジック」

初めに質問させていただいたのですが、読者の皆さんの中には「時代小説を読んだことがない」といった人は必ずいるでしょう。苦手意識すら感じる方もいるのではないでしょうか?

実のところ、私も時代小説に抵抗を感じていました。普通の小説ならスラスラと読めるのになぜか時代小説はすぐに引っかかって、結局読むのを止めてしまう……。そんなことが今までに何回もありました。

けれど、「あさのあつこさんが書いている」というネームバリューだけで買ってきた『弥勒の月』を読み始めると最後の書評までスルスルスルーっと読み切っていたんです!

驚きと同時に湧いてきたのが「こんなに面白いのになぜ今まで時代小説に面白みを感じてこなかったんだろう?」という疑問でした。

そこで、他の読みきれなかった時代小説との違いを探してみました。するとあることに気づきます。「弥勒」シリーズには明確な時代設定がないんです!

時代小説の冒頭によくあるのが「〇〇年、誰々がナントカしたのと同じ年」というような時代背景を説明する語句。江戸時代が舞台になっていると「〇代将軍、ナンタラが〜」というような説明。それらが時代小説のハードルをあげているのではないのでしょうか。

あくまでもそれが要らない、という話ではないですし、そういった作品を批判するつもりも全くありませんが、初心者にとって抵抗があるのはそこなんじゃないかなというのが私の見解です。

「弥勒」シリーズ、例えば1巻『弥勒の月』の冒頭は、

「月が出ていた。丸く、丸く、妙に艶めいて見える月だ。」

という感じで、普通の小説のような入りになっているので、時代小説だと身構えることなく話に入っていけます。

さらには『弥勒』シリーズには注釈がありません。時間やお店の分類など、江戸時代特有の言い回しは多く出てきますが、注釈は一切ないんです。

そう聞くと「本当に内容を理解できるのだろうか」と思われる方もいると思いますが、ご安心ください!本文で出てくる表現でそのシーンの時間帯や店の規模など、ある程度は想像できるんです。

時代小説の雰囲気をあまり感じさせず、ストレスがあまりない状態で読めるので、これから時代小説に挑戦する方にぴったりです!

嫌われ者がいない!? 個性溢れるキャラクターたち

この話の魅力は何と言っても人物!

主要人物の3人の個性溢れながらもスタイリッシュな雰囲気は読む者を惹きつけて止まないでしょう。

よく語り役でも登場する伊佐治親分は「根っからの岡っ引」と言われるほどの仕事人間で、妻のおふじからは

「うちの亭主は出たっきりなのさ。当てにならないのは、屋根の上の猫といい勝負なんだからねえ。」
(『宵に咲く花』より)

なんて言われていたり……。

けれど、義理と人情に厚く、家族のこともちゃんと思いやる、それこそ時代劇の主人公のような親分は是非ともお父さんに欲しい!(笑)

そんな伊佐治親分には共感することもたくさんあるはず!信次郎や清之介と話している時の怖いもの見たさや、実際に事件が動いた時の興奮は読んでいるこちらも手に汗を握ってしまいます。

遠野屋清之介は商人らしい緩やかとした物言いや行動が特徴的。ほんの些細な気配りもしっかりできる人で活字から感じ取れるイケメンさは女性ファンがいてもおかしくないはず!

そんな清之介は実は商人の家の生まれではありません。遠野屋に婿養子として入った元・武士なんです!では、なぜ商人になったのか……。そこには清之介の暗く、ドロドロとした過去がありました。

命に代えてでも遠野屋を守るという固い決心と、客だけでなく奉公人も大切に思う心、そんな商人の鑑のような一面と、どこまでも付きまとってくる武家の頃の過去。清之介はどう立ち向かっていくのか……!必見です。

そして、木暮信次郎。正直、4巻まで読んでいる(現在1〜5巻が発売中です)私も、この人がどんな人なのか、いまいち掴みきれておりません!でもそこが楽しい!!

読んでいる印象では、私が読んだ小説の中で「誰よりも賢く、悪役に近い正義の味方」という感じでしょうか。「悪役に近い」なので、最終的に悪役だった、というような場合は除きますが。人の弱みを当て、そこを抉りながら相手が苦しんでいる姿を見て楽しむというようなシーンがちらほら出てくるような、まさに「ドS」。本来なら嫌われ役になりそうな感じですが、なぜか拒絶できない……。そんな不思議な魅力がこの男にはある!

そんな信次郎について、作中でぜひ注目していただきたいのは彼の鋭い観察力と考察力、そして普段とは一変する犯人に辿り着くまでの生き生きとした姿!「えっ、そんなところに目をつけるの?」と思ったらそれが事件解決の大きな糸口になるんです。そして事件の内容を説明するシーンではもはや感嘆の声しか出てきませんでした。

魅力的なキャラクターは他にも大勢出てきますが、他のキャラクターさんには読者の皆さんの手元でページをめくる音とともにその個性を存分に発揮していただきたいと思います。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

正直なところ、魅力が多すぎてまだまだ伝えきれていない部分がたくさんあり、とても悔しいです!

ですが今回はこの辺で、残りの魅力はみなさん自身で確かめていただけたらいいなと思います。

それではまた、記事でお会いしましょう。[。-MaLu]でした。

 

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