『電撃文庫マガジン』レビュー 2017年11月号

電撃文庫マガジンの2017年11月号は、14年ぶりの再TVアニメ化となった「キノの旅」が表紙&巻頭特集。

昔からのラノベファンも、最近ライトノベルに手を出し始めた人も楽しめる号となっている。

メディアミックス作品の特集

この秋、14年ぶりの再アニメ化を果たした「キノの旅」をはじめ、「ソードアート・オンライン」や「とある魔術の禁書目録」などビックタイトルの告知ページが組まれている。「キノの旅」や「とある魔術の禁書目録」の原作小説が発表されのは10年以上前のことだ。アニメから入ったという若いファンもいるだろうが、そういう人たちでも楽しめる構成となっている。

多くの人に支持された作品は長く愛されていると改めて実感した。私も以前はライトノベルを愛読していだのが、ここ6年ほどはほとんど読まない生活を送っていた。そんな私でもわかるようなタイトルが電撃文庫マガジンに並んでいることにホッとした。

もちろん、古くからある名作だけではなく、新作についても目白押し。「博多豚骨ラーメンズ」「天使の3P!」といった、近年の電撃の受賞者が執筆した作品も特集されている。

小説作品

今回掲載された中では、

  • 「幼馴染の山吹さん」
  • 「この世界にiをこめて」

の2作品をおすすめしたい。

「幼馴染の山吹さん」

「幼馴染の山吹さん」は、高校を舞台にした恋愛青春小説。

美人なヒロインに地味系な主人公、男女のクラスメイト。それぞれのキャラ立ちは「これぞライトノベル!」という印象だ。ヒロインは自身のかわいさに自信を持っているし、精霊だって一人登場する。

ただし、ヒロインが受けた呪いの進行を遅らせるため、ヒロインと主人公が二人でミッションをこなすことが話の本筋だ。ちなみにミッションは二人で青春すること。詳細は精霊から指示される。設定こそラノベ。しかし描写は、青春ミッションをめぐってゆっくりと進む。

この軸になっているので、二人が友達以上、恋人未満のやりとりをしている描写に思わずにやにやしてしまう。ほんのりとした甘酸っぱさにこんな学生生活を送りたかった!と思ってしまうような作品だ。

 

「この世界にiをこめて」

「この世界にiをこめて」は10月25日発売予定の同作試し読み版。

小説家を目指していた主人公と、その仲間の喪失、そんななかやってきた転校生との出会いがなにかを変えていく。そのように思わせるストーリー展開だ。

表紙イラストや作風がキャラクター文芸、あるいは一般文芸寄りで、ライトノベルから離れていてもすんなりと読むことができる。主人公の内面描写が繊細で、当たり障りなく生活しながらもなにかを抱える様が現代人の生活とリンクする。

似たような設定としては文学少女シリーズがあるが、あちらのヒロインは「物語を食べちゃいたいくらい好き」という強烈なキャラクターだ。また、物語の後半には実在する作品を語るという側面もある。
「この世界に~」の方は、どちらかというとキャラ立ちは抑えめになるのではないだろうか。冒頭に死を持ってきていることも理由の1つだ。静かに物語が進み、寂しさや心に残る展開が待つような気がする。

まとめ

小説本文以外は基本的にカラーで、扉絵もある。「ソードアート・オンライン」のマンガ作品もあり読むための敷居は他の文芸誌と比べ低いだろう。また「狼と香辛料」「0能力者」のような知名度がある小説作品も掲載されている。

イラストや一部女の子キャラを見る限り、全体的に若い男性をターゲットにしている。そのあたりが苦手な場合は作品を選ぶかもしれない。

こてこてのライトノベルにとどまらず、様々なカラーの作品を取り上げている。この構成から、読者に読んだうちのなにかが刺さるような誌面になっていると感じた。

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書く・読む・吟じることが趣味。 小説をサイトに投稿したり、文フリやコミティアで同人誌を販売しています。