ノベルゲーム制作って楽しい?大変? 実作者の方に聞いてみました

みなさんは「ノベルゲーム」をプレイしたことがありますか? このジャンルの作品としては、『ひぐらしのなく頃に』や『fate/stay night』といった作品が有名です。

普通のゲームとは違い、かといって小説とも違う……。テキスト要素とビジュアル要素、さらに音楽やプログラミングなど、様々な技術が必要になります。

ノベルゲームを制作するうえで楽しいことや大変なことって何でしょうか? また、どのようなスキルが必要となるのでしょうか?

ノベルゲームに関するあれやこれを、これまで5作品のノベルゲームを制作し、5月1日に新作『その恋、保留につき、』を公開した、ととと。さんにお話を伺います!

 

ーーーーノベルゲームをはじめて作ったときのことをお伺いします。なぜノベルゲームを作ろうと思ったのですか? また、それ以前に創作を行なっていたことがあれば、その経験についても教えてください。

ととと。
はじめてノベルゲームを作ったのは、大学1年生の時でした。東方Projectというゲームが好きなのですが、そのゲームが好きな友人たちとファン作品を作ってみたいという話になり、サークルを結成しました。キャライラストが描ける私、SS書きの友人、ジャズ研究会所属で作曲ができる友人という構成だったので、各々のスキルが活かせる“ノベルゲーム”という作品表現が、おのずと私たちのやりたいことになるのではないか、という方向性で話がまとまりました。

余談ですが、その際、背景イラストは私が所属していた漫研の先輩(神レベルに絵が上手い美術科の方)に丸投げをしてしまいました。その時の悔いと反省が、今も私の中にはあり、背景イラスト制作のモチベーションとなっていますし、その先輩超えをすることが当面の目標でもあります。

そのサークルを結成する前は、一人で漫画を描いていました。当時はサークルでの創作や外部委託が念頭になく、自分一人で短期間で完結できる漫画という表現手段に頼るのが自然でした。ノベルゲームの制作中も、完成まで時間がかかるので、他の人が作業をしている合間に漫画を描いたりしていましたね。

 

ーーーーノベルゲームを作るには、文章を書くだけではなくさまざまなスキルが必要だと思います。具体的にはどのようなスキルが必要だと思いますか? また、それらのスキルをどのようにして身につけたかも教えてください。

ととと。
“文章を書く”という作業ひとつとっても、小説とノベルゲームとでは大きく異なります。

小説にすること前提で書かれた文章は、そのままノベルゲームにすることはできません。ゲームを作るためには、文章を起こす前に、どのようなシステムフローにするか、どのような背景デザインにするか、どのような文字の段組にするか……といったことを前もって計画し、それらを文章に落とし込む必要があります。文章を書く段階で、すでにビジュアル的な要素も決まっているのです。そのような段取りができるスキルは必須ですね。それができなければ、いざノベルゲームの形にする際に、仕様として成り立たなかったり、後追い作業に追われ、完成は困難となります。

私の作品では声優様にキャラクターの声を演じていただいています。そのためには脚本や設定資料を起こす必要があります。そのキャラはどういう性格で、他のキャラとはどう違って、どのような信条を持っているのか、その台詞はどんな心境から発したものかを脚本中に落とし込んでいます。作者自身がそこをきちんと持っておかないと、声優様は演じることができませんし、読者にもなかなか伝わらないかと思います。そういうわけで、演技の演出をするスキルも必要となってきます。もちろん、実際に物語を書くので、ライティングスキルも必要になります。

まとめると、ノベルゲームを作成するのに必要なスキルは大きく分けて3つで、「ディレクション」「演出」「ライティング」になります。

これらのスキルに関しては、これまで5つのノベルゲームを作ってきた中で生まれた反省を生かし、身についた部分が大きいです。これは本当にトライ&エラーで経験していく、もしくは作りながら先駆者から逐次ノウハウを伺うしかないと思います。また、今までにプレイしてきたゲーム作品にも大きな影響を受けていると感じています。

 
ーーーーなるほど。プログラミングやUI設計なども担当していると伺いましたが、そのあたりについても詳しく教えていただけますか?

ここまでで、「ノベルゲームの文章を作るにはさまざまなスキルが必要」とお話ししました。しかし文章を作ることができれば、もう半分以上は完成したも同然です。それさえできてしまえば、あとはそのままゲームにするだけです。こちらに関しては、後ほど紹介します。実際、私の今回の開発期間の内訳としては、脚本が9ヶ月、ゲーム制作が8ヶ月となっていますので、大半が文章の制作に充てられています。また、これまで企画倒れしたプロジェクトのほぼ全てが、“文章が完成しなかった”というのが主要因です。“ノベル”ゲームというだけあっていかに文章が大事かわかっていただけると幸いです。

さて“そのままゲームにするだけ”に関してです。携わっていない方は馴染みのないと思いますが、ノベルゲームの業界はツールやサポートが充実しており、ノベルゲームを作るためのさまざまなソフトが提供され、現在も新しいソフトが開発されています。それらのソフトのおかげで、ノベルゲーム制作の敷居は格段に引き下げられ、簡単な内容であればプログラミングの知識のない方も1日でゲームを組むことができます。ソフトによってはデフォルト素材が充実していて、イラストや音楽を募ることなく作品を完成させることができます。今回の「その恋、保留につき、」の制作には“ティラノビルダー”というソフトを使用させていただきました。そのソフトは「ドラッグ&ドロップだけで本格ノベルゲーム製作」というキャッチフレーズで、制作作業の簡素さを売りにしています。今回(2~4 作品目で愛用していたソフトのサポート&開発が終了したため)このソフトを初めて導入し、前作までの蓄積もかなぐり捨てて制作を行いましたが、とくに技術的な困難もなく制作することができました。ティラノビルダーに限らず無料で提供されている制作ソフトがたくさんあるので、一度遊んでみてはいかがでしょう。知られざるあなたの才能に出会えるかもしれません。

UIに関して。UIは私も勉強段階で、常日頃から参考書やデザイン見本、素材集等を回覧するようにしています。デザイン案の引きだしの蓄積がセンスにつながると信じているからです。皆様の身近なところではスマホゲームがデザインのアイディアの詰まった素晴らしい教材と思います。普段は何気なくプレイされていると思いますが、いったん手を止めてUIの細部、全体を眺めてみると、何か発見があるかもしれません。さてUIで一番重要な要素の二つは“コンセプト”と“操作性”です。この二つはある意味トレードオフの関係と言えるかと思います。

コンセプトに関しては、どんな作品にでも合うおしゃれなデザインというのは確かに存在するかもしれませんが、本作品の世界感を彩る要素としてこれを使わないのはもったいない、この作品に使用する上で、必然性のないデザインは存在してはいけないと考えのもと、自らデザインいたしました。

本作品イメージの一つに“リンドウの花”があります。小澄さんのイメージを添える一つの要素としてリンドウをチョイスしています。小澄さんの髪飾りもこの花をモチーフとしています。そのリンドウの花を、プレイヤーが一番目にするであろうノベルゲームUIの花形“メッセージウィンドウ”にあしらっています。そこを起点として全体的なデザインに統一感を持たせる形でUIの設計に着手いたしました。

次に操作性に関してです。如何におしゃれなデザインコンセプトであっても、読みにくい、伝わりにくいものであってはUIとして何の意味もありません。今回はスマホでのプレイも想定しておりましたので、遠くからでもみやすい、文字サイズ、色の案配、縁取りを意識しました。一部デザインが犠牲となる部分が発生しつつも、操作性の良さとの着地点を探りながら制作にあたれたと思います。

 

ーーーーノベルゲームは、やはり一人で作るのは難しい部分があるかと思います。そこで、「何を自分でやり」「何を人に任せるのか」という基準のようなものを教えていただけますか?

ととと。
本作品は、私としてははじめて“サークル方式”ではなく、“製作委員会方式”を採用した作品です。“サークル方式”はまずサークルという組織が存在し、その組織の枠の中で作りたいものを検討する方式となります。もしも一人のメンバーの進捗が悪い場合は、作業の内容に問わず他のメンバーで分担することもできるでしょう。

一方、“製作委員会方式”はまず作りたい作品を決め、その作品を作るためだけに必要なスタッフを集結させます。メンバーという括りがないので、もしも進捗が悪い場合は、新たなスタッフに依頼する必要があります。今回必要となるスタッフは“自分のスキルで対応可能な範疇か否か”で選びました。立ち絵&CGイラスト、CV、BGM、動画、ホームページ制作、こちら全て外部の方にご依頼いたしました。サークル方式とは違い、各々がその責任の範疇で依頼分をこなす必要があります。逆に私ができることとしては、脚本、キャラクターデザイン原案、背景、UI ロゴ設計、プログラミングとなっております。こちらの部分に関してはすべて私の責任の範疇となります。

まとめると、①各役割り別で分割(それぞれが役割をまたぐことは無い)、②自分のスキルで対応可能かで判断した、となります。

ただ、これだけは言わせてください。初めてノベルゲームを製作される方は、ここまでやる必要は全くございません!! ノベルゲームは一人で作れます!

ここまで言っておいて矛盾していると思われる方もいるかもしれません。ただ、前の設問でも回答したとおり、現在ノベルゲーム業界においてはツールやサポートが充実しており、背景、立ち絵、BGM、UI等、さまざまな素材が提供されています。中にはプロの方が作られた「本当に無料素材なのか?」と思うようなハイクオリティのものまであります。立ち絵やUIに関しても差分を組み替えることで、独自にカスタマイズしたものが作れます。また、CVに関しても読み上げソフトを使うことも可能です。

ノベルゲーム制作で最も大切なのは「誰かに伝えたい物語がある」ことだと思っています。私も、本作品はそれを大きなモチベーションとしてやってきました。確かに制作者それぞれにこだわりや技術等があり、その作品の魅力につながっていることも事実です。しかしイチ創作者として他人に発信することこそに一番の価値があると信じております。

 

−−−−ノベルゲームは、完璧にテキストだけの小説や戯曲でもなく、リッチな映像がついているアニメでもなく、その中間にあるように思います。その中で、創作形態としてノベルゲームを選んだ理由があればえてください。

ととと。
まずアニメではない理由に関してですが、それは今回の作品『その恋、保留につき、」に関しては、大テーマである“保留”と“決定”に帰結しています。

アニメと小説の大きな違いは、視聴者&読者が受動的か能動的かにあると考えています。アニメは何もせずともストーリーが進行していきますが、小説は自分でページをめくり、読み進んでいく必要があります。本作品でも、ページをめくることはなくとも、クリック操作でプレイヤー自ら作品を読み進めてほしいという願いがあります。

今回のゲームシステムでは“マップ画面”で、プレイヤー自らが場所とシナリオを選ぶことになります。そしてそれを選んだ後に、“決定”ボタンを押すことでシナリオが始まります。この演出の肝は『プレイヤーの“決定”で物語が進展する』ということです。もちろんその選択の中には“保留ボタン”を押すことや、もうゲームをプレイしないといったものも含まれるでしょう。

また、要所に選択肢を設けており、プレイヤーはどの女の子を選択し、それがどのような結末へとつながるのか、という演出も可能です。こういった点は、アニメでは表現できないノベルゲームの強みだと思います。

次に、小説ではない理由について。本作品のサブテーマとして“地域振興”があります。何故そのサブテーマを掲げたのかについては長くなるので割愛しますが、そのテーマを達成するため、本作品では街丸々一つを舞台にし、そこに根付いた設定、演出、展開となっています。

たとえば、あなたの好きな場所や風景があったとします。あなたはその場所の良さを伝えるために、どのような媒体を使いますか? 小説の強みは、読者にその場所を想像させることができる点にあります。「爽やかなそよ風が吹き渡る湖畔」と書けば、読者は自由に湖畔の風景を想像できるでしょう。しかし私がやりたいのは、そうことではありません。実際にある場所の良さを伝えたいのです。湖畔をビジュアル的に前面に出します。「この舞台はこういう場所です。さあどう思いますか?」と、読者に風景を明示して、そこの空気感、雰囲気を感じてほしいのです。あわよくばそこに吹き渡る「爽やかなそよ風」を感じて取ってほしいのです。

人は、体験や思い出に基づいた場所は強く印象付けられるものだと考えています。この街で、ゲームを通して体験することで、少しでも誰かの心の中に印象付けられればと期待しています。あわよくば「この場所に行ってみたい」「私もこんな場所で青春を送ってみたい」と感じてくだされば、という思いで、小説ではなくノベルゲームという表現を選択しました。

 

ーーーー今回のお話は薙刀がテーマの一つになっており、大変ユニークな作品だなと思いました。着想のきっかけはなにかあったのでしょうか? また、作品づくりで苦労したことがあればおしえたください。

ととと。
この作品は”小澄友香”というヒロイン像を非常に大切にしています。彼女の人となりを表現する際、薙刀という競技の特性が非常にマッチしていると考え、このような設定となりました。剣道はルールの都合上、体格や力の差が支配的な側面があります。それを加味しても強い小澄さんを描くという選択肢もありましたが、ストーリーを読み進めていくにつれて、薙刀最強で完璧に見える小澄さんにも、弱いところ
や意外な一面を発見することになるでしょう。”小澄さんの弱い部分を補う薙刀”の設定が小澄さんのヒロイン像としてしっくり来ています。

薙刀をモチーフにする上で苦労したのは、武道場の背景2種類と袴や剣道着のデザインです。衣装デザインに関しては立ち絵イラスト担当の方と、資料を見比べながら調整する作業に注力しました。実際のものに合わせて作ることで、より現実味を出したいという狙いがありました。

さいごに

以上、『その恋、保留につき、』の制作者・ととと。さんにお話を伺いました!

5月1日にリリースされたばかりの『その恋、保留につき、』は以下のURLで公開されています。今回のインタビューで興味を持たれた方は、ぜひこちらもチェックしてみてくださいね。

https://sonokoi-horyu.net/

執筆者

蓼食う本の虫 主宰。文芸同人「無間書房」で短編小説や140字小説を書いています。

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