読んで楽しい辞典「てにをは辞典」を味方に小説を書く

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『てにをは辞典』をご存じでしょうか? 淡い青色の箱に入った辞典で、ゾウのイラストが特徴的です。

このゾウをよく見ると文字が集まってできており、それらは辞典に記載されている内容となっています。

この『てにをは辞典』は、僕たちがよく知る辞典や辞書とは少し異なります。

僕たちが辞典や辞書を手に取る時、本などを読んでいて分からない言葉を調べることが目的であることが多いですよね。しかし、『てにをは辞典』は帯にも「ひとつ上をめざす 文章上達のための辞典」と書かれているように、文章を書く時にこそ役立つ辞典となっています。

文章上達のための辞典

『てにをは辞典』の帯の言葉を借りると、本辞典は「本格的日本語コロケーション辞典!」となります。

コロケーションとは「文・句における語の慣用的なつながり方。連語法。」(広辞苑 第七版)のこと。『てにをは辞典』の中で、このコロケーションは「結合語」と呼ばれて使われています。

例えば「小説を書く」という句は、「小説」と「書く」が助詞「を」を介して結びついていますよね。こういったものを「結合語」と呼んでいます。

普通の辞書では、言葉の意味や文法的な解説が行なわれますが、そういった記述はこの辞典にはありません。

例えば「小説」を調べると以下のような内容が記載されています。

「しょうせつ【小説」】」▲が 書ける。ハッピーエンドで終わる。 ▲を 愛読する。あげつらう。味わう。集める。著す。etc.

小内一編 てにをは辞典(2010年9月17日第1刷発行 三省堂)p.782

「小説を著す」とはどういう意味か、この辞典には記載されていません。しかし、「小説を著す」という表現があることは教えてくれます。

このような用例の部分は、普通の辞典や辞書では一つ二つ掲載されている程度です。そのため、調べた単語がどのように使われているかが分かりませんでした。しかし『てにをは辞典』を使えば、調べた単語がどのように使われているかを知ることができます。

ある単語の結合語表現を追っていくだけで、その単語の意味や使われ方が浮かび上がってくる。それが『てにをは辞典』の面白さであり、「ひとつ上をめざす 文章上達のための辞典」と書かれる所以でしょう。

50名の作家が使った言葉たち

では、この語と語の結びつきが並ぶ辞典の言葉たちは、どこから集められたのでしょうか?
本辞典の6、7ページ目に「●本書の結合語例を採取した本の作者名・訳者名一覧」が記載されています。

一覧に記載された作家の数は250名。教科書や近所の本屋で必ず見かける方々ばかりです。この250名が書いた作品から、60万例もの結合語を採集しています。

さきほど例に出した「小説を著す」も、実際に作家が使った表現です。『てにをは辞典』を手にした時、こんなに心強いものはないと思いました。

今、僕はこの文章を読んでくださる方に何かを伝えたくて言葉を紡いでいます。言葉とは人に何かを伝達する為に作られ、発展してきました。

それは僕たちが想像するよりもはるか昔から担われてきた役割です。言葉の第一目的は、読んで意味が通じることです。

意味が通じなければ、相手は何も判断してくれません。意味が通じた後に読みやすいか読みにくいか、面白いか面白くないかを判断してくれます。

この意味が通じるか否かを判断する基準として、『てにをは辞典』を頼ることができます。

なんと言っても、『てにをは辞典』は作家たちが意味が通じると判断し使った表現が集められています。自分の書いた表現を調べることで、それで意味が通じるのか、読みやすいか読みにくいか、などを考えるきっかけにできます。

編者の小内一は、最初の「はしがき」で「結合語は、文庫本を中心に採取した」と書いており、主な書籍の一覧を見ていくと文春文庫、新潮文庫、角川文庫と見慣れた出版社が目につきます。

また、「はしがき」の中で、この辞典を作るきっかけとして「文章に関わる仕事(校正)をしながら、この言葉はどうもしっくりこないな、他の言い回しや表現はないのだろうかとさがした時に、参考になる本が見当たらなかった(pp.3-4)」からだと書いています。

『てにをは辞典』は文章に関わる仕事(校正)の目線から選ばれたためか、採集対象は非常に不思議な並びとなっています。

文学(もしくは、エンタメ)的な価値基準ではなく、あくまで優れた言い回しや異なった表現を採集するための選別になっており、この一覧を読書の手引きとして、本屋や図書館で見かけた時に手にとってみるのも一興かもしれません。

『てにをは辞典』で単語を調べると、自分が知りたかった表現ではない言葉も目にするので、なぜこのような表現がされたのか? この言葉によって、どんな情景が描写されたのかと使われた作品に思いを馳せることができます。

その答えを一覧の文庫本の中から探し出すのは、干し草の中で縫い針を探すようなものです。しかし、答えはあり、僕たちが普段なにげなく読んでいる小説の表現を集めると、辞典のようにもなるんだ、と言う感慨は日々の読書の意識を少しだけ変えてくれるようにも思います。物語を追うだけでなく、表現も追ってみる。

そのような新たな視点を与えてくれるきっかけにもなるのが、『てにをは辞典』の優れた点だと僕は考えています。

伝えたいことがある人にこそ

僕が今回お伝えしたかったのは、『てにをは辞典』には良い小説の良い文章が集められている、ということです。とてもシンプルですね。

優れた辞典を味方にすれば、間違いなく文章は上達します。ただ、そんな力強い味方がいても、どうしようもないことがあります。

それは自分の感性や伝えたい文章は、どんな辞典を開いても見つからない、ということです。
変な例えかも知れませんが、好きな子にラブレターを送る時はまず自分の言葉で書いてみないと相手の心を動かす内容にはならないことに似ています。告白する相手に自分の気持ちが届くのなら、間違った文章や誤字があるのは大した問題ではありません。

大事なのは、相手に伝えたい内容を考えているかどうかです。

『てにをは辞典』が最も役に立つ時はここだと僕は思っています。伝えたいものがあって、伝えたい相手もいるのに、言葉が出てこない。どんな言葉を使えばいいのかも分からない。

そんな風に、言いあぐねてしまって、言葉が渦巻いている人に、『てにをは辞典』は作家たちが使った言葉と情景を教えてくれます。

辞典を開いて調べて考えて悩んだ結果、「好き」の一言に集約することもあるでしょう。その「好き」には潤沢なイメージが宿っています。

それが伝わるかどうかは分かりません。しかし、伝わらなかった時はまた新たな結合語をてにをは辞典で調べることができます。伝えたいことさえ持っていれば、『てにをは辞典』ほど力強い味方になってくれる存在はありません。

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何者でもない大阪在住の成人男性。趣味はラジオとお酒と散歩。文芸誌を毎月1冊買い始めて10年が経った。マイブームは自粛中にはじめた料理。オムライスはいつまでも下手なまま。