講評から見るライトノベル新人賞~持続可能なワナビ生活~

さあ、ライトノベル作家になろう! あなたは唐突に思いついたとします。そうして作品を無事書き上げて、いざ投稿、となったとき、あなたはどの新人賞に送ればいいのか、おそらく迷うはずです。一体、どういった基準でどの新人賞に送ればいいのか。

作品の傾向? 受賞率? 一番締め切りが近いところ? 賞金額? 自分が好きなレーベル? どれも間違いではありませんが、私はあえて言いたい。

講評を基準に考えてみてはどうかと。

なぜ講評に注目すべきなのか

そもそも、ライトノベル作家になるのはどれだけ大変なのか。新人賞の受賞率について、2019年までのものがまとめられている記事があります。

この記事によると、一番低いのが電撃文庫大賞の0.19%(最終選考作品が書籍化することも大いにありますが、それを含めてもかなり低い)、一番高いのがHJ文庫大賞の1.35%です。つまり、控えめに言って99%の作品は賞を受賞できないのです。それどころか、一次選考ですらGA文庫で3割(第13回前後期平均)が、電撃文庫で1割(第27回)しか通過できないのがライトノベル新人賞なのです。

それでは、そんな過酷な環境の中で、落選者が持ち帰ることの出来る最も大事なものはなにか。そうです、それが講評なのです。

新人賞の下読みは、プロの作家や編集者が行うことが多く、講評も彼らが書きます。知り合いに読んでもらっても出てこない感想や意見が出てくるのが講評、と言っていいかもしれません。もちろん、プロの作家に添削を依頼できるサービスは数多に存在しますが、なにはともあれお金がかかる。一方、こちらは(講評の分量は少なくなりますが)タダなのです。

しかし、不安に思う方もいるでしょう。

「もし酷評されたら嫌だな…」「偉そうで中身のない罵倒が来たら嫌だな…」

せっかく手塩にかけた作品が落選した挙げ句、ろくな講評も貰えない。おそらくこれが、誰もが脳裏によぎる最悪の可能性でしょう。実際、知人に手厳しすぎる講評を貰ったせいでしばらく筆を折った人がいます。

だったら、こうすればいいのです。応募する賞を選ぶ際に、「いい講評」をもらえるか否かを基準に選べばいいと。

なお、私が思う「いい講評」「わるい講評」の基準は以下の通りです。

いい講評

  • 応募した側も落選したことが納得できる
  • 何が良くて何が悪かったのかが具体的によく分かる

わるい講評

  • 「全体的に駄目」「意味不明」などといった漠然とした感想しか書かれていない

そもそも、講評ってどんな感じに書かれてるの?

まず、一次選考。これはとても分量があるため、一般的にそのレーベルの編集(自社編集)だけではなく、プロの作家やフリーの編集が下読みとして携わっていることが多いと聞きます。すなわち、そこでふるいにかけられて、自社編集に渡される、ということです。そして二次選考からは、レーベル編集者のみでの選考が行われる……といったイメージです。

さて、では下読みと自社編集の立場の違いとは、一体何なのでしょうか。

それはすなわち、次がある、ということです。

面接に例えれば分かりやすいでしょうか。

『この人はダメそうだけど、だからこそお客様として気分良く帰ってもらわねば……』

一般の面接においては、こういった意識が働くものです。さらに、

『もしかしたら将来、この人と仕事をするかもしれないし、あんまり適当なことは言えないな……』

といった意識も、新人賞においては自社編集のうちに働くでしょう。

つまり、自社編集はレーベルのイメージを守ったり、書き手のやる気を削がないようにするために、比較的真摯な講評を書きますが、下読みはそうする必要性がないし、頼まれてもいない、ということです。

もちろん、下読みでも真摯な講評を書く方はいるのでしょうが、それでも立場の違いによって比較的辛口になってしまう……といったことです。もちろん、面白い作品は誰が読んでも面白いので、この話には適合しません。

そのことを念頭に置いて、各新人賞の特徴を見ていきましょう。

※自分がもらった講評は詳しく書けますが、それ以外は簡素になるのであしからず。また、情報も当時(2016~2020年)で止まっている可能性があります。

1次通過すると講評がもらえる賞

電撃文庫

特徴…上に大きく『この作品は○次選考を通過しました。○次選考通過作は、応募総数☓☓☓☓作品中△△△作品です』と書いてあります。うれしい。

『オリジナリティー』、『ストーリー』、『設定』、『キャラクター』、『文章力』の5段階評価にコメントが付いてきます。

1次・2次通過で編集者2名、3次通過以降は編集者5名のコメントが貰えます。自分は1次でしたが、かなり褒めてもらえた+詳細に書いてもらえたのでうれしかったです。

また、1次通過時点で編集者2名によるコメントというのは破格なため、通るのは難しい(だいたい10%)ですが、得るものは大きいでしょう。

このように、自社編集が講評を書いている+1次通過以上は、先述したいい講評が貰える可能性が高いというメリットがあります。

こういった1次通過者以降が講評を貰える形式の賞は、他に小学館ライトノベル大賞(ガガガ文庫)や、ファンタジア大賞、講談社ラノベ文庫新人賞、集英社ライトノベル新人賞などがあります。

全応募作品に講評がもらえる賞

では次に、講評が全応募作品に貰える賞について見ていきましょう。

オーバーラップ文庫大賞

特徴…『キャラクター』、『ストーリーライン』、『世界観・設定』、『構成』、『文章力』の5段階評価。特色として総合コメントにプラスして、各項目にコメントが付いており、投稿作のどこが良くてどこが悪いかが分かりやすいです。さらに、総合ランク(通過にどれほど届いたのか)も付いてモチベーションの維持がしやすいです。

こちらも○次審査に比例して選評者の数が増えていきます。

MF文庫Jライトノベル新人賞

特徴…『キャラ』、『ストーリー』、『世界観・アイデア』、『構成力』、『文章力』について各4項目、合計20項目が5段階で評価されます。

これらの全応募作品に講評が貰える賞は、結果が良くない+下読みが辛辣だったときのダメージも大きいです。特別、こちらのMF文庫Jは評価項目が細かいため、自分が自信を持っていたところを狙い撃ちにされる可能性も出てきます。

先ほど言ったとおり、1次選考は下読み=プロの作家やフリーの編集者という自由な立場の方々が読み、それに講評がつく場合は心をバキバキに折られる可能性もあります。

自衛のために読まない、といった選択肢さえ十分アリです。それでは成長できませんが、いっそなぜ落ちたのか自分1人で考えて準備運動してから読むのもいいかもしれません。

では、万年1次落ちは酷評に怯えて生きていかねばならないのか? いいえ、そんなことはないのです。

GA文庫大賞

特徴…『設定について』、『文章力・表現力』、『作品構成力』、『ストーリー』、『キャラクター』を5段階評価され、総合ランク(通過にどれほど届いたのか)と総評が貰えます。

しかし、この賞最大の特徴はそこではありません。

……なんとこのGA文庫大賞は、下読みがいないのです。

参照:なぜなにGA文庫・GA文庫大賞の巻|GA文庫

すなわち全てを自社編集で賄っているため、1次落選でも自社編集からの講評を直接もらうことが出来るのです。さらにさらに、公式ツイッターでは作品名を伏せてですが、簡単な講評が呟かれています。それにより、どういった講評がもらえるのか予想出来るため、初心者にとても優しいのです。

このように講評を外に公表(ダジャレではない)する習慣は、人に読ませられない講評を書かないことに繋がるため、実に投稿者ファーストなやり方だと言えるでしょう。

星海社FICTIONS新人賞

最後に、厳密にはライトノベルではありませんが、こちらを紹介して終わりにしたいと思います。

特徴…各季ごとに編集者による座談会が行われ、全応募作品に最低でも一行コメントが貰えます。こちらも下読みなしで、自社編集が最初から読む形です。

特徴的なのは、投稿作の中でも(良くも悪くも)印象に残った作品が座談会内において取り上げられ、褒められたり貶されたり類似作について語られることでしょう。

かなり明け透けな内容となっているため、編集者が普段どういった事を考えているのかよく分かります。読んでもらえばだいたいどういった雰囲気なのかは分かるので、自信がある方は応募してみてもいいかもしれません。

最後に

このように、新人賞の講評というのは千差万別です。

たとえば、投稿を始めたいが自信がない……といった方は、まず手始めにGA文庫大賞に応募してみて慣らしていく、というのもいいかもしれません(前述したとおり、1次通過のハードルは3割程度と比較的低いのも自信をつけるのにいいかもしれません)

もちろん、最終目標は受賞ですから、あくまでこれは長く続けるための考え方の一環でしかありません。しかし、書かなければ、出さなければ、絶対に受賞は出来ません。

そのためには、長く続ける環境を整えるのが重要だと私は考えているわけです。

新人賞の講評は、当時創作仲間もいなかった私にとって唯一の希望でした。たとえ勝てなくても、誰かがちゃんと読んでくれて、ちゃんと感想をくれる。ネット小説全盛の今でさえ感想をもらうのは大変ですが、賞に投稿すれば確実に貰えるのです。

そういった視点でも新人賞を楽しめることを知ってもらえたら、それで十分です。

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ABOUTこの記事を書いた人

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第二回百合文芸コンテストにてガガガ文庫賞を受賞。書籍化を逃したため、新人賞への投稿を続けている。好きな作家は矢部嵩、伴名練、小林泰三、野崎まど。同人アンソロにも寄稿している。まんがタイムきららが好き。