最近は何かと擬人化・キャラ化するものが多いですが、実は文豪もイケメンになって登場したりしています。その代表的な作品が『文豪ストレイドッグス』(文スト)。朝霧カフカ原作、春河35著作の漫画をはじめとして、朝霧カフカによる番外編・過去編の小説も多数出版されています。アニメも大人気で、そこから文豪にハマった人間も少なくないことでしょう。
周囲でも「文ストって気にはなるけどどこから入れば良いのかわからない……」という声を耳にします。
幅広く文スト作品を読んだ私としては、文スト入門に「外伝」をおすすめしたいです。なぜ「外伝」から読んだほうが良いのか? そのポイントを紹介しようと思います。
「文スト」って、何?
そもそも「文スト」とは、文豪の名を冠する美男美女が「異能力」をもって様々な事件・陰謀に巻き込まれては解決をする一連のお話のことです。たとえば主人公の中島敦の異能力「月下獣」は自らの体を虎に変化させて相手と戦います。また、太宰治の「人間失格」はあらゆる異能力を触れただけで無効化します。もう勘のいい方はお気づきだと思いますが、この異能力は文豪の代表作の名前をとっています。芥川龍之介なら「羅生門」、中原中也なら「汚れちまつた悲しみに」という感じです。それぞれがこの異能力をもって事件を解決したり、あるいは対峙したりする……そういったお話なのです。
しかし、異能力でドンパチするだけではありません。ヨコハマを舞台に、それぞれの思惑、過去、現在そして未来……そういったものが複雑に絡まり合うお話になっています。
何故「外伝」なの?
文豪ストレイドッグスでは、上にも記したように原作の朝霧カフカが小説を書いたりしています。そのほとんどが番外編・過去編なのですが、唯一全く違う異色の一冊があります。
その名は「文豪ストレイドッグス外伝 綾辻行人VS.京極夏彦」!
なんと現役作家さん同士の異色のコラボ。タイトルに登場するお二人のほか、辻村深月先生までもいらっしゃいます。
外伝の良さというのはズバリ『異能力×ミステリ』。本編小説ではどちらかといえば異能力でバトル&ヒューマンドラマという物語が多いのですが、本作では異能力というある種の超常現象を用いたトリックが用意されています。勿論それぞれの異能力についてしっかり把握していれば理解できるトリック。しかし、それだけではなく勿論本編作品にもあるヒューマンドラマ要素も勿論書かれています。つまり面白さが2倍……!!
肝心のキャラ設定と異能力について以下に整理してみました。
- 綾辻行人……殺人探偵と呼ばれている。その生活は軟禁状態。骨董を買うのが趣味。異能力「Another」。殺人事件の真相を見抜くと犯人が必ず事故死する。
- 辻村深月……異能力特務課(※異能力は危険なので政府として異能力者を補足しています)のエージェント。危険な異能力を持っている綾辻を監視している。異能力「きのうの影踏み」。【影の仔】と呼ばれる奇妙な生命体を操る。
- 京極夏彦……妖術師。異能力「憑き物落とし」。対象に【憑き物】を落とし、相手の精神を変調させてしまう。
ここでも各先生方の代表作やそれらしい異能力の持ち主であることが解りますね。ここで簡単なあらすじを紹介しましょう。
“殺人探偵”と呼ばれる綾辻行人は、殺人事件の真相を見抜くと犯人が必ず事故死するという危険な異能を持つため、異能特務課の新人エージェント・辻村深月から監視を受ける身だ。ある日、2人は奇怪な殺人事件にまつわる謎解きを政府から依頼される。だがそれは、綾辻の永遠の宿敵で社会の敵でもある妖術師・京極夏彦との命懸けの闘いの始まりだった―。
( 『文豪ストレイドッグス外伝 綾辻行人VS.京極夏彦』)
この小説、現役作家同士のバトルもありながらミステリ要素が含まれているのがポイントです。たとえば死体のある密室の小部屋から、どうやって犯人は脱出したのか。京極のトリックを綾辻は見破れるのか。勿論、私たちにもトリックは見破れるようにはなっていますがそこは朝霧カフカ。「異能力」というものを斬新に使い、ミステリを構築しているのです。
絶対に消える筈のない、消えられる筈のない密室から消えた京極。この謎があなたに解けるか! ぜひ頭をフル回転させて挑戦していただきたいです。
「外伝」の良さ、その仕掛け
上にも記したように、「外伝」には様々な謎・トリックが仕込まれています。しかしそれだけではありません。「文スト」ならではのヒューマンドラマも勿論がっつり記されています。
そもそも辻村が綾辻行人の監視人になったのには理由があります。過去に綾辻が解決した事件の中で犠牲になったのが辻村の母なのです。勿論複雑な思いに駆られていますがそこはそれ、仕事は仕事として監視を続け、しかしどこか綾辻に対する複雑な感情があり……。
また、綾辻の方も「どうせ母親のことだろう」と愛想なさげな対応はしていますが……。むしろドSですが、実は辻村のことを気にかけていたりしています。
そのせいでとある大事件を起こす羽目になるのですが……そこはぜひ、小説で読んでいただきたいです。
おわりに
文豪ストレイドッグスに興味はあれど、どこから入れば良いのか解らない、といった読者の皆さんに届けば良いと思います。
勿論、他の文庫、例えば太宰治の過去編であったり、番外で事件に巻き込まれる話であったりと、様々なシリーズが刊行されており、どれも読み応えのある作品になっております。
アニメ続編が発表されている現在、ぜひここから文ストの世界へ飛び込んでみませんか?