V時代の最先端を行く! VTuberが活躍する小説6選

VTuberとはVirtual YouTuberの略。2016年のキズナアイが動画内で自称したのを始まりとするこの呼称は、今ではすっかりネット界に定着している。

近年における「にじさんじ」「ホロライブ」の台頭を見てもその人気はすさまじく、SNSにおけるインフルエンサーとしても絶大な支持を獲得した。

彼ら彼女らの仕事はYouTubeを主戦場とする動画投稿や生配信で、その内容はゲーム実況や歌ってみた、他のVTuberやYouTuberとのコラボ、あるいは企業案件のプロモーションなど多岐に渡る。

今回はそんなVTuberの活躍が印象的な小説を6選紹介したい。

『インフルエンス・インシデント』(駿馬京/電撃文庫)

電撃文庫第27回小説大賞銀賞受賞作。作者の駿馬京はポケモン実況者としてニコニコ動画で活動していたYouTuberでもあり、SNSの炎上に造詣が深い。

タイトルを直訳すると『影響力の事件』。インターネットの発展やSNSの進化、動画サイトの流行によって配信者と視聴者の敷居が低くなったことで巻き起こる様々なトラブルに警鐘を鳴らしている。

本作の一巻ではメイク動画がバズった男の娘配信者のストーカー被害が、二巻では元子役の配信者のエピソードが綴られており、どちらも考えさせられる内容だ。

友人の友人の友人といった具合に辿っていくと6番目で世界中の人間と知り合いになるとされる俗説「六次の隔たり」や、インターネットに拡散された文面や映像記録が半永久的に残り続ける「デジタルタトゥー」に関してもわかりやすく解説されているので、SNSの炎上を他人事だと考えている人にぜひ読んでほしい。

自分が被害者にも加害者にもなりえると知った上で、どちらにもならない為にできることを教えてくれる。

さらには自分や親しい人間がネットで誹謗中傷を受けた際の具体的な対処法も学べるのだ。

電撃文庫では珍しい緻密な伏線を張り巡らせた本格ミステリーであり、その意味でももっと知られてほしいポテンシャルを秘めた作品だ。

癒し系お姉さん×男の娘に萌える人も要チェック、小難しいSNS理論を平易に嚙み砕いてエンターテイメントに落とし込んでいる。

自身もVTuberとして活動している竹花ノートの可愛らしい挿絵も魅力を倍増している。

『Vチューバーだけど、百合営業したらドハマリした件』(みかみてれん/みかみてれん文庫)

一般にはあまり知られてないがVTuberには百合営業の文化がある。特に美少女VTuberに特化したホロライブはこの傾向が顕著だ。

百合営業とはすなわち百合好きな層を対象に女性同士が両想い、あるいは互いを意識している振る舞いをすること。

VTuber業界ではコラボが多いVTuberや、動画内でよく言及されるVTuberとの間柄に憶測が飛び交っている。

この百合営業、刺さる人には確実に刺さるとあって故意にするVTuberも多い。

本作はその百合営業を出来心で始めたら相手にマジ惚れしてしまったVTuberの顛末を描いたライトノベルで、美少女VTuberの成り立ちや百合営業の実態を知りたい読者ならぜひ押さえてほしい良質な手引書だ。

もちろんそれだけではなく、中身と外見のギャップに悩める乙女心を繊細に掘り下げているのもポイント。

カワイイとは何か?ガワと内面が乖離していてもそれは「カワイイ」なのか?など、ファンとの適切な距離感も含めたシビアな問題提起を投げかけている。

『VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた』(七斗七/富士見ファンタジア文庫)

角川が主催する小説投稿サイト「カクヨム」発の作品。

大手の箱に所属する清楚系VTuberが配信の切り忘れがきっかけでオタク全開の本性を暴露され、消したくても消せない黒歴史を打ち立てるところから始まるノンストップコメディだ。

V(You)Tuberにとって配信の切り忘れは致命的な失態にもなるが、それがバズることもあるから世の中捨てたもんではない。

本作の主人公・心音淡雪(こころねあわゆき)は後者に属し、配信を切り忘れたことでむしろ濃いファンが付き、素面の時はイジられ系のアワちゃん、アルコールが入った時は暴走キャラのシュワちゃんの二重人格として成り上がっていく。

VTuberだってもちろん私生活があり、背後には生身の人間がいる。酷い言葉を投げかけられれば傷付くし、優しい言葉をもらえば頑張れる。ギャグでありながらそんな当たり前のことに気付かせてくれる本作は、根っからの悪人が存在しないとても素晴らしいライトノベルだ。

リアルでVTuberに救われた経験のある読者ならきっと共感できるはず。

また『賭博黙示録カイジ』のビールパロや2017年に話題になった壺オジのもじりなど、わかる人ならくすりとできる小ネタを散りばめた遊び心も憎い。

『脳科学捜査官 真田夏希 デンジャラス・ゴールド』(鳴神響一/角川文庫)

本作は神奈川県警所属の特別捜査官、真田夏希が主人公の人気シリーズ第八弾にあたる。

夏希は脳科学の専門家であり、知識と経験を駆使して難事件の犯人像に迫っていく。
このシリーズのキーパーソンとなるのがホワイトハッカーの龍造寺ミーナと謎のVTuber・波龍。

ホワイトハッカーとは企業や警察に属する正義のハッカーである。対する波龍は正義とはかけ離れたVTuberとして登場する。

夏希はハンドルネーム「かもめ★百合さん」として、様々な事件の犯人にSNSで接触してきた経験があった。波龍はそんな彼女に対し、彼女の過去の失態を吊るし上げる動画を送り付けてきたのだ。

VTuberにも様々な人物が存在する。

一部の炎上系YouTuberの迷惑行為がたびたび話題になるのを例にあげるまでもなく、有名人や同業者のトラブルを虚実入り混じる動画に仕立て騒ぎを大きくするVTuberも、残念ながら皆無とはいえない。そんな卑劣なVTuberに夏希がどうやって立ち向かうのかが本作の見所だ。

VTuberの多様性を知る上でもぜひ押さえてほしい一冊である。

『妹の好きなVTuberが実は俺だなんて言えない』(芦屋六月/電撃文庫)

地味で陰キャな高校生の主人公は、裏でイケメンVTuber・爽坂として活躍している。しかしよりにもよって実の妹に「爽坂くんが大好きなんです」と告白され……。

どのジャンルにもガチ恋勢は存在する。ガチ恋、即ちアイドルや推しに本気で恋してしまうことで、恋は盲目を地でいく彼ら彼女らは一直線にこちらに向かってくる。

そのガチ恋勢の筆頭がリアルで微妙な関係の自分の妹だったらどうなるか、本作はこの命題に真正面から切り込んだ意欲作だ。主人公が妹に身バレしない為に試行錯誤するのが笑いを誘うし、VTuberあるあるネタの数々は楽しく読める。

さらには兄と推しへの言動の温度差など、実際にこんな感じかもしれないリアリティがじわじわくる。

ガチ恋勢の心理も細かく書かれており、画面の向こうの人物に惚れてしまうこともあるかもな、と思わせてくれた。

『特許やぶりの女王弁理士・大鳳未来』(南原詠/宝島社)

「このミステリーがすごい」第20回大賞受賞作は現役代理士が書く、前代未聞の企業ミステリーだ。

本作のテーマは特許権。知っているようで意外と知られてないこの題材を、エンターテイメントとして見事に料理している。

主人公の大鳳未来は凄腕弁理士。彼女のクライアント天ノ川トリィは人気VTuberだが、映像技術の特許権侵害を警告され、活動の危機に直面していた。

はたして未来は絶体絶命に陥ったVTuberを救済し、彼女をトップに返り咲かせることができるのだろうか?

本作の魅力は特許権とVTuber業界を絡めた発想。トリィが巻き込まれるトラブルはVTuberにとって身近なもので、だからこそよりリアリティを増している。

特許に疎い読者にもわかりやすい説明を交えて解説してくれるので、楽しみながら知識を身に付けることができた。

さらに主人公・未来のやりたい放題なキャラが痛快。自分の目的を遂げる為なら手段を選ばない剛腕ぶりには同性でも惚れそうになる。

まとめ

以上、VTuberを扱った小説おすすめ6選を紹介した。

どの小説にも共通するのはVTuberならではの問題や悩みを扱っていること。

ストーカーに百合営業、身バレの危険性や特許トラブルなど、あなたがVTuberでもVTuberでなくてもきっと参考になるはずだ。

今回挙げた本を読んでVTuberの活動に興味を持ってくれたら嬉しい。

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趣味で小説を書いている腐女子。ジャンルは創作BL・ホラー・ヒューマンドラマその他。好きな作家は恩田陸・浅田次郎・古川日出男・東山彰良・馳星周・ブレイディみかこ他多数。塩顔眼鏡男子が好きです。