瀬尾まいこ作品おすすめ5選

瀬尾まいこさんは『卵の緒』で2001年に第7回坊ちゃん文学賞大賞を受賞し、翌年デビューされました。2005年に『幸福な食卓』で吉川英治文学新人賞、2008年に坪田譲二文学賞、2019年には『そして、バトンは渡された』で第16回本屋大賞を受賞されています。中学校で国語の教師をされていた経歴をお持ちの方です。

私が瀬尾まいこさんの作品と出会ったのは高校の図書室です。以来、ユーモアに包まれた作風とあたたかな物語に魅了され続けています。心が弱ったときに瀬尾まいこさんの作品を読むと、「まあ、なんとかなるだろう」と肩の力が抜けて、うまいこと現実を乗り切れる気がするのです。もちろん心が元気な時にも作品を読んで幸せな気持ちになっています。

心に効く、と言いましょうか。いつ読んでも気持ちが上を向くのでステイホームが長引いて閉塞感のあるこの頃にご紹介できれば、と思いました。

というわけで、今回は瀬尾さんの作品を5つ紹介させていただきます。

『卵の緒』 / 卵でも、へその緒でもない親子の証し。

自分を捨て子と疑う小学生の育生は、ある日学校で「へその緒」を知り、母さんに見せるようにせがむ。しかし、見せられたのは、木箱に入ったへその緒ではなく、饅頭の箱に入っている卵の殻。でも、育生は自分が母さんに愛されていることをちゃんと分かっている。

瀬尾さんのデビュー作で、瀬尾さんらしさが詰まった一作です。親子の絆ってなんだろう?と考えさせられる作品。誰かを大切に思う気持ちの尊さを教えてもらいました。一見適当にみえるお母さんですが、「大切なこと」を理解していて、それを真摯に育生に伝えていきます。育生がまっすぐな素敵な男の子に育っているのは、まぎれもなく母さんの愛を受け取っているからでしょう。同時収録されている『7‘s blood』は異母兄弟のお話。たくましく生きる七子と七生に勇気づけられます。こちらも素敵なのでぜひ。

『見えない誰かと』 / 色んな距離の色んな人たち

瀬尾さん、初のエッセイ。様々な人とのつながりやエピソードが書かれています。学校で働いていた時の同僚、校長先生、生徒、友人、飼っていた猫、いとこ……。普段は面倒に感じてしまう人間関係も、いろんな人のおかげで毎日楽しく過ごせていると分かると、ちょっと気が楽になるかもしれません。読むと誰かに会いたくなる一冊です。

私が印象に残っているのは、『ゴージャス敏子おばさん』である。敏子おばさんは瀬尾さんのお母さんの職場の友達である。瀬尾さんの入学式や参観日にも参加したという敏子おばさん。私は敏子おばさんに対して豪快で愉快な人だな、という印象を受けた。私自身もお母さんの友達にかわいがってもらったけれど、学校行事にまで来てくれた人はいない。それが当たり前なんだろうけど、家族以外の人が学校行事に参加してくれるなんて面白そうだし、ちょっぴり誇らしく思えそうである。瀬尾さんの作品緒世界観にあるあたたかさは周りの人との関わりが影響しているのかも、なんて考えた。

『おしまいのデート』 / 風変わりですてきなデート

こちらは著者2冊目の短編集。ちょっぴり風変りだけれど素敵なデートの様子が描かれた5編が収録されています。その中から今回は「ランクアップ丼」をご紹介。高校3年生・三好はひょんなことから、隣のクラスの担任・上じいとご飯を食べる仲になる。上じいと一緒に食べるのは決まってうどん屋の玉子丼。高校卒業後、就職してからも月に一度、一緒に玉子丼を食べていた。学生の頃は上じいに奢ってもらっていたけれど、就職を機に三好がごちそうするように。

誰かが作ってくれたご飯を誰かと一緒に食べる。些細なことだけれど、ご飯の時間が身体だけではなく、確実に心の栄養になる。三好は上じいとの時間で、大切な人を大切にする術を学んだのかもしれない。近くも遠くもない距離で自分を気にかけてくれる人がいるって幸せだよなあ。月に一回の楽しみがあると頑張れることってありますよね。作中の玉子丼がおいしそうで、おなかがすいてきちゃいます。

『春、戻る』 / 突然現れた「年下の兄」

結婚を目前に控えたさくらの前に、兄と言い張る年下の男の子が現れる。さくらのことをよく知っている男の子に戸惑いつつも、男の子のペースに巻き込まれていくさくら。男の子は結婚相手の山田さん一家が営んでいる和菓子屋にも顔を出したり、さくらに料理を教えたりとかいがいしく世話を焼く。「年下のおにいさん」の正体とは……?

見知らぬ人が突然身内だと言い張ってきたら、誰だって困惑するし、怪しむ。だけど、なんだか憎めない「おにいさん」をさくらも周りの人も受け入れていく。それは「おにいさん」のもつ要領の良さと不器用さから来る気遣いがこころにじんわりと広がるから。へたくそだけれど、一生懸命なおにいさんがかわいらしい。さくらが自分の過去とこれからについてお兄さんとの出会いがきっかけで、少しずつ整理していくところも必見。わたしも年下のお兄さんがほしいなあ。

『あと少し、もう少し』 / いつの間にか応援したくなる

市野中の陸上部の顧問が異動となった。代わりにやってきたのは美術教師の上原。知識も経験もない上原に部長の桝井は愕然とする。駅伝で県大会に出場するために部長としての仕事を全うしようと、桝井はメンバー集めに奔走する。いじめられっ子だった設楽、不良の大田、お調子者のジロー、吹奏楽部の渡部、2年生の俊介、部長の桝井。駅伝大会に出るための「寄せ集め」チームで県大会出場は叶うのか?

どのメンバーもみんな素敵なのである。初めて読んだ高校生の時は共感することが多くて駅伝メンバーと友達のような感覚だったのに、いつの間にか先生目線でみんなを応援したくなる気持ちが強くなった。青春真っただ中の彼らだけど、案外その中にいるときはキラキラなんて感じられなくて悩み事を誰にも打ち明けられなくて苦しいものだよねえ。上原先生、とぼけているように見えて生徒を良い方向にさりげなくアシストしてくれます。きっと、中学時代を思い出して、懐かしく歯がゆく、そして、駅伝メンバーを応援したくなるはず。

まとめ

突飛なお話に見えても、瀬尾さんが書くと納得してしまう。チャーミングな登場人物たちの説得力によって心温かくなる読後感。読んでいてくすっと笑える描写も多いです。何度も読み返している瀬尾まいこさんの作品。その魅力が伝われば本望です。

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