Gitで「セーブデータ」を取りながら小説を管理する

Gitというソフトウェアをご存知でしょうか。

Gitは本来プログラマ向けのツールですが、小説を書くときに使ってみると思いのほか便利でした。もともと私は執筆速度が異常に遅く、一ヶ月で3万字程度がやっとというのが通常運転でした。そんな超遅筆の私ですが、今回、Gitを使ってみると思いのほか筆が進み、一ヶ月弱で10万字ほど小説を書き進めることができました。

小説執筆の際に、Gitのどこが便利だと思ったか、以下でご紹介したいと思います。

※以下では、Gitを操作するGUIツールとしてVS Codeというテキストエディタを使っています。

小説の「セーブデータ」を取ろう

Gitとは、ひとことで言うと、「ファイルの変更履歴が残せるツール」です。変更履歴を残すというのは、ゲームでたとえれば「セーブデータを取る」ようなもの。ゆえにGitを用いれば、セーブした時点にかんたんに戻ることができます。

これは、小説を書くときに非常に便利です。Gitを使えば、たとえ文章をばっさり削ったとしても、それを後から容易に復活させることができるのです。

実際の画面を見るとわかりやすいと思います。

画面左下の「TIMELINE」という部分に、「セーブデータ」の一覧がコメント付きで示されています(このセーブデータの一覧は、Gitでは「コミット履歴」と言います。ちなみにコメントの内容は自分がわかりやすいよう自由に記述することができます)。

ここでは「initial commit」と「加筆修正」と「冒頭部をばっさり削除」の三つが表示されています。過去三回、セーブデータを保存したというイメージです。

「冒頭部をばっさり削除」というところをクリックすると、冒頭部を削除する前のバージョンと削除した後のバージョンとが見開きで表示されます。左が削除前、右が削除後です。

小説を書いている最中、文章を削除することはよくあることです。書いた文章が気に入らなかったときや、字数制限をオーバーしてしまったときなどは、ばさばさと文章を削っていくことになります。

しかし文章を削った後、単純にファイルを上書き保存してPCをシャットダウンしてしまったら最後、「やっぱりあの文章は必要だった」と思い直しても、もはや復活させることができません。

Gitを使えば、もうその心配は要らなくなります。削除した文章を、後からいくらでも取り出して復活させられるからです。気軽にがんがん文章を削ることができるようになります。

「セーブデータ」同士の比較もできる

Gitは、単に「セーブデータ」を取って過去のバージョンに遡ることができるだけではありません。過去のバージョンと現在のバージョンとを比較することもかんたんにできます。

「TIMELINE」の「加筆修正」というところをクリックしてみます。すると、加筆修正前と加筆修正後のファイルが見開きで表示されます。

どこをどう加筆修正したか、色分けされて表示されるので便利です。推敲したり、誤字脱字を修正したりする際に、この機能はすこぶる威力を発揮するでしょう。

ちなみに私は、この差分表示機能を執筆中に多用していました。

私は文章力に乏しく、一発で読みやすい文章を書けた試しがありません。そこで執筆中は、言い回しを細かく修正する作業を必ずやっています。しかし修正を繰り返して文章をこねくり回すうちに「修正前のほうがまだ読みやすかったような気がする……」と思えてくることも多いです。

そんなとき、差分表示機能が役立ちました。修正前と修正後を気軽にさっと見比べられるので、「やはり修正してよかった」とか「修正前のほうが読みやすいな」などとただちに判断ができ、執筆が捗りました。

進捗を視覚的に把握しやすい

今日一日でどれだけの分量を書けたのか、視覚的に把握できると、モチベーションの維持につながります。

画面を見るとわかるように、新しく加筆修正した段落の左側には、色つきの線が表示されます。画面では、緑色の線が「新しく執筆した段落」を、青色の波線が「加筆修正した段落」を、それぞれ示しています。

線が引かれた箇所が多ければ多いほど、そのぶん「今日一日がんばった」ということがわかります。これは、モチベーションの維持・向上に大変有効です。

また、コミット履歴には「いつコミットしたか(いつセーブデータを取ったか)」が日付・時刻とともに記録されています。

それゆえ、自分の執筆速度の把握をすることもできます。「一週間で自分はどれだけの字数が書けるのか」といったことがわかっていれば、イベントや公募に向けて執筆する場合などにスケジュール管理がしやすくて便利です。

ギークっぽくてかっこいい

正直なところ、必ずしも小説を書くのにGitは必要ありません。

Gitに限らず、小説を書くのに複雑なツールは不要です。Wordで十分な場合も多いでしょう。PCでさえ、必需品ではありません。小説は、紙とペンさえあれば書けるからです(ちなみに芥川賞作家の本谷有希子氏は、ある時期を境に、PCでの執筆から手書きでの執筆に切り替えたそうです)。いや、究極的には何の道具も要らないのかもしれません。記憶力さえよければ、頭の中だけで執筆することだってできるでしょう。

それにもかかわらず、わざわざプログラマ向けのツールであるGitを小説執筆に用いる利点はどこにあるのでしょうか。

最大の利点は、モチベーションの向上という点にあると思っています。実際私も、Gitを使ったことにより、執筆意欲が少々高まりました。

いい紙質の原稿用紙を使う。高級な万年筆を使う。作りのいい書斎机を買う。それだけで気分は上がります。「特注の原稿用紙を作ってもらって執筆していた」などという話は、PC普及以前の作家のエピソードとして、しばしば見かけるものです。

Gitも同じです。Gitを使うとなんだかギークっぽくてかっこいい。これだって、Gitを導入する立派な理由の一つだと思います。

おわりに

上で紹介したGitの機能は、Gitが持つ機能のうちのごくごく一部にすぎません。また、GitHubやBitbucketなどの無料のウェブサービスを利用すれば、もっとGitが便利に使えます。

例えばGitとGitHubを使えば、小説を共同執筆するうえで便利かもしれません。また、他人に小説を校正してもらうときにもGit/GitHubは便利なようです。

なおGitによる小説管理について、技術的により詳細な説明は、以下のウェブサイトの記事がわかりやすいと思います。Gitに興味を持たれた方には一読をおすすめします。

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ABOUTこの記事を書いた人

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文芸サークル『神聖自炊帝国』の総書記。好きな作家は、井上ひさし、土屋賢二など。文芸の技術的側面(とりわけLaTeX組版)についてのニッチな情報をまとめたウェブサイト(https://qdaibungei.github.io/latex/)を運営中。