こんにちは、ライターのぬいと申します。
今回、文豪についてのレビューをさせていただくことになり、私が選んだのは、澁澤龍彦。
その名前を聞いて、「知らない…」と思った人もいるでしょう。
実は澁澤は、知る人ぞ知る、そしてハマる人はドハマりする、異色の評論家の一人。
文豪とは少しタイプが違うかもしれませんが、知らないのはもったいないほど面白い評論を多く書いている作家なので、今回紹介することにしました。
澁澤龍彦とは?
1928年生まれ。東大でフランス文学を学んだ後、マルキ・ド・サドの著作を日本に紹介するかたわら、人間精神や文明の暗黒面に光を当てる多彩なエッセイを発表し注目を集めました。ちなみにマルキ・ド・サドは、あのサディストという言葉の元となった人物です。
世界の奇人や悪女、オカルトな話題、秘密結社、芸術など、世界の様々な謎や伝説等に隠された真意を、当時その手の本が日本にまだなかったにも関わらず、彼自身の計り知れない博識さで抉り出すエッセイは、今読んでも新鮮。
澁澤の書く評論の魅力に取り憑かれると、当分抜け出せなくなってしまいます(私もその一人)。
こう書くと難しそうに思われるかもしれませんが、比較的読みやすいですし、何より話題がとても面白いので、一読の価値は十分にあります。
入門的おすすめ評論5選
今回は、澁澤龍彦の中でもすぐ読める、ページ数が少なめで、初心者でも興味を持ちやすい話題のものを選びました。
東西不思議物語
澁澤龍彦を初めて読む人にもおすすめのエッセイでです。タイトル通り、東(アジアなど)西(ヨーロッパなど)の不思議な話について紹介されていて、スナックをつまむような気軽な気持ちで、ワクワクしながら読めます。
「不思議」という言葉から想像されるように、幽霊好きのイギリス人、ポルターガイスト、百鬼夜行、占いアラカルト、キツネを使う妖術、悪魔と修道士についてなどなど、奇妙でオカルトな話題が満載。
また、澁澤の引き出しの多さにも驚かされます。例えば「肉体から抜ける魂のこと」では、一つの話題に関わらず、ドイツの伝説から柳田邦男まで、様々な視点からの引用が盛りだくさん。
文章の量も長過ぎず程よいので、活字離れの現代人でも読んでいて飽きないはず。澁澤の持つ知識の圧倒的幅広さと深さの一端を感じられる作品です。
妖人奇人館
秘密結社の主宰者や予言者、錬金術師、犯罪者、カニバリストなど、主に胡散臭くてクセの強い人物ばかりを取り上げたエッセイ。
こちらも分量は少ないので、軽く読めると思います。
とはいえ、後半には倒錯した性の持ち主についての記述も多く、こんな趣味の輩もいるのかと驚くかもしれません。
しかし、そういう話題は普段耳にしないので(時たまニュースでもとんでもない事件が報道されることもありますが……)、私たちのような凡人が、人間という生き物の秘めた未知なる部分を知るためには、絶好のエッセイになるのではないかと思います。
幻想の肖像
芸術や絵が好きな人にとってはとても興味深いであろうエッセイで、芸術の知識がない人でもきっと楽ししめる一冊。澁澤流の絵画鑑賞本。
紹介されているのは、主に女性の肖像画です。美しい女性の肖像画だけでなく、何か歪んだ顔つきの聖母子や、生首を掴み剣を持った美女、ウジ虫が湧き蛇が絡み付いた死人の男女、男をたぶらかし動物に変えた魔性の魔女キルケー、悪魔に魂を捧げた魔女たちの破廉恥なサバトの光景を描いた絵なども紹介されています。
美しい女から醜い女まで様々に取り上げることで、女性の持つ美しさやエロスの神秘を解き明かそうとする、博識さを武器にした澁澤龍彦の挑戦が見られて面白いですよ。
記憶の遠近法
二部作になっており、一部は火とかげのサラマンドラ、一角獣、タロット(作中ではタロッコ)、宝石の伝説などオカルティックな話題が多く、目の散歩という章では、澁澤の持つ溢れんばかりの知識を短めに書き記しています。
読んでいると、知識の世界を散歩して、それを横を歩く読者にこっそり伝え歩いてくれているような感覚になりますよ。
二部は、わりと現実感のある話題が多く、澁澤本人の趣味のルーツを探るような話が書かれてあります。
記憶の遠近法というタイトルのように、自分の子供時代の記憶や好きだったものを色んな角度から見ることで、その当時の澁澤自身を見つめ直しているようにも思えます。澁澤龍彦という天才を理解する上で欠かせない一冊。
黒魔術の手帖
個人的な話ですが、私が澁澤に興味を持った初めの作品がこの『黒魔術の手帖』です。
手帖シリーズは三部あって、この本の他に、『秘密結社の手帖』、『毒薬の手帖』があります。
どれもダークサイドな話題ですが、そういう闇をはらんだ話題が好きな、いわゆる中二病患者にはたまらないエッセイでしょう。
これが書かれたのは1960年代にはその手の書物がほとんどなく、オカルトなジャンルの書物が続出するきっかけとなった先駆的作品だそう。
澁澤龍彦という人間がいなかったら、日本でのオカルトに関する本自体が書店に並ぶことがその分遅くなったのかもしれません。
内容はオカルトに関する知識の基礎とも言うべき話題が満載で、カバラ、占星術、タロット、錬金術、魔術、サバト、黒ミサなど、その手のジャンルに少しでも興味がある人にはおすすめです。
そして読んだ後は、遠かった魔術の世界が少し近くに感じられるかもしれません。
まとめ
以上、澁澤龍彦の入門的おすすめ作品を5つ紹介させていただきましたが、気になった本はあったでしょうか。
澁澤の評論は、中身は濃いですがページ数は少なめなので、休みに一章読もうとか、気軽にチャレンジしてほしいと思います。
そして、深い知識の海を、楽しみながら航海してみて下さい。