不健康悪女・琴崎白奈にお前らも感染しろ! 森バジル『1/2―デュアル― 死にすら値しない紅』

悪い女の子は好きですか?

例えば『ヒロアカ』のトガヒミコ。『バットマン』ならハーレイ・クイン。最近でいったら、ライダーさんとかフェイカーさんとかわたしはめちゃめちゃ好きです。

敵女(てきじょ/てきおんな)とかダークヒロインとかライバルヒロインとかいろいろ呼び方はあるみたいですが、とにかくそんな感じの悪属性の女の子!
2019年1月1日、また新たな悪い女の子が爆誕してしまったので紹介させてください。

『1/2―デュアル― 死にすら値しない紅』の悪役の一人。琴崎白奈さんです。

▲でも表紙の子は別人です。別ヒロインです。

テッシュだ!こよりだ!鼻水だ!

「紗束が後退の構えに入る直前、琴崎が動いた。いきなりマスクを外して捨てたかと思うと、鼻にティッシュペーパーで作ったこよりを突っ込んだのだ。」

([第1章 神様は何も禁止なんかしてない]38ページより)

初登場シーンで「鼻にこよりを突っ込む」女の子が、かつていたでしょうか。
琴崎さんはやるのです。先述の引用はマジです。私の捏造じゃないんです信じてください。

琴崎さんのお姿に関しては、とりあえず公式試し読みの4ページ目を見てください。
こんな子が人前でこより突っ込むとか最高では……?

とはいえ、琴崎さんとて趣味でこより突っ込んでる訳ではありません。本作はいわゆる異能バトルものの側面を持ち、琴崎さんの奇行にもちゃんと理由があります。

琴崎さんは、“偽生者(ワナビー)”という特殊な存在です。
偽生者とは? 一度死に、何かを「喪失」して蘇った人々の総称です。〈眼球〉や〈右腕〉、〈肺〉や〈肝臓〉といった肉体的な「喪失」から、といった〈サイズ感〉〈姿〉〈死〉といった概念的な「喪失」まで。

〈サイズ感〉を喪失した偽生者は巨人のようになるし、〈姿〉を喪失した偽生者は透明人間になります。

琴崎さんは〈健康〉を喪失した偽生者です。
だからこそ、琴崎さんの第一の攻撃は「くしゃみ」。琴崎さんの戦い方は「不健康の感染」なんです!

くしゃみによって撒き散らされる涎と鼻水が、バイオ兵器として襲いかかるわけですよ!ひゃっほう!!

必殺!えげつないキス!

パープル・ヘイズ然りナックラヴィー然りマゼラン然り、「病気使い」という能力は強キャラの香りがプンプンします。

そんな琴崎さんの第二の攻撃こそ、「えげつないキス」。
それはもうおそろしい一撃です。毎日素振りを千回もやってる剣豪系ヒロインに対してすら一瞬にして間合いを詰め……!!舌!!「不健康」の直接的挿入!!
こんな目の下くまだらけで顔色からしてゲロ悪い系の悪い子が、即死攻撃としてキスしてくるんですよ。 こんなん考えた作者の先生は変態と天才を足して二で割らなかった妖怪です。

もちろん「えげつないキス」を受ければ、だいたいえげつない感じに死にます。めちゃくちゃ病気になって死にます。素晴らしいですね。こわくて夜も眠れなくなります。

そんな琴崎さんは、いったいどうして悪い子なんでしょうか。
理由は単純で、偽生者は生きていてはいけない存在だからです。

一度死に、ヒトとしての何かしらを喪失して蘇った偽生者は、速やかに処分されるのがこの世界の常識です。すべての偽生者が戦闘的な喪失を持っている訳ではなく、その最後は安楽死でもマシな方。どうせ一回死んでいるのだから、という理由で惨たらしく惨殺されるなんてこともよくあること。

琴崎さんは、そんな世界を変えるために戦っている健気な子なんですよ……!
なんていうと、まるで琴崎さんがメインヒロインみたいな感じになっちゃいますが違います。琴崎さんはあくまで敵役。偽生者を狩る側こそが、本作の主役サイドにあたります。

ワナビー死すべし慈悲はない

「死んだ人は生き返らない」という法則に真っ向から反する偽生者を、返殺(キルバック)する民間企業GLIL。若くしてGLILに所属し、偽生者を殺すことで生きているのが主人公・竹内限夏です。
GLILはあくまで法律に基づき、業務としての偽生者処分を遂行する株式会社。しかし主人公は、どうも生活の手段として返殺している訳ではなさそうです。

可哀想な幼い少女偽生者を見れば、問答無用で心臓をブチ抜き。
見目麗しいヒロイン偽生者を見れば、問答無用で頭部をブチ抜き。
暗殺系偽生者の姿が見えなくても、問答無用でブチ抜きます。すごい。こわい。
とにかく偽生者を見れば即座に殺さないと気がすまない、一見ちょっと友達になりたくないタイプの子です。

つまり偽生者(ワナビー)ぜったい殺すマン
偽生者だって、蘇りたくて蘇った訳ではないのに、主人公はそんな偽生者たちを殺して殺して殺しまくるのです。琴崎さんの命が心配になってきましたね。

絶妙にダークでブラックな世界観が魅力的な本作。伏線の張り方が美しく、バチバチとパズルのピースがハマっていくような展開には心奪われました。まさか全裸のアレがあんなところであんな働きをするなんて!
株式会社GLILの、何気にドロっとした爛れ気味な人間関係も個人的に好きです。

こより突っ込み系ヒロイン、我らが琴崎白奈さんは、いかにして偽生者(ワナビー)スレイヤーを苦しめるのか!! ぜひとも、読んでみてください。
なんと試し読みの範囲だけでも琴崎さんのイラストが二枚も見れます。見ましょう。見て琴崎さんを讃えよ。

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