ホラーの真髄を知りたいあなたに。実話怪談おすすめ5選

あなたはホラーがお好きですか? 幽霊や心霊が登場するオカルトものから隣人の狂気にぞくりとするヒトコワものまで、一口にホラーと言ってもジャンルは幅広いです。

その中で一大ジャンルを確立している実話怪談。これは作者の実際の体験……または現地を取材し、情報提供者から聞いたエピソードを収録した怪談にあたります。

今回はホラーが大好きな読者や「たくさんありすぎてどれからにすればいいかわからない……」とお悩みの初心者に向け、実話怪談のおすすめ本を5選紹介してきます。

「拝み屋怪談」シリーズ 郷内心瞳

東北在住の拝み屋(祈祷師)でもある著者が自らの体験をもとに書いたシリーズ。基本一話完結の短編と中編で構成されています。

現役の拝み屋が関与した怪異を書いているので、怖さは折り紙付き。筆力も非常に高く、描写が凝っていて読みごたえがありました。

著者が巻き込まれる怪異は多岐に渡り、呪いや祟り、怨霊や悪霊、さらには生霊が絡むものまで様々。とてもバリエイションに富んでおり飽きさせません。京極夏彦の世界観にも通じる、じっとり湿った和の恐怖を感じさせてくれます。

主人公にして語り手・郷里の痛快なキャラクターにも注目。ヤンキー上がりの口の悪さと豪胆ぶりで、道理に反したヤツとみれば霊のみならず依頼人だろうと啖呵を切って追い返す性格に好感が持てます。愛妻家で猫好きなのもポイント。

心優しい妻や癖の強い師匠や同業者、のちに長い付き合いとなる依頼人たちも総じていい味を出しています。

シリーズ中の白眉は「花嫁の家」。こちらは後に刊行された「壊れた母様の家〈陽〉」「壊れた母様の家〈陰〉」と表裏一体となっています。

バラバラの怪異だと見過ごされていた伏線が中盤以降一気に回収され、登場人物たちの接点が暴かれていく展開が衝撃でした。

ちなみに本作を読み、初めて「タルパ」の事を知りました。人間の念が生み出した空想上の友人や恋人が実体を持った存在をさすそうで、イマジナリーフレンドの亜種ともとれます。

『怪談忌中録 煙仏』 下駄華緒

「怪談最恐戦2019」にてグランプリ、怪談最恐位を獲得した下駄華緒。

バーのマスター、火葬場スタッフ、葬儀屋、ロックバンドのメンバーと異色の遍歴を辿った彼の怪談は他と一線を画します。

本作に収録されているのは主に火葬場スタッフ時代の実体験。幽霊や心霊が登場するオカルトド直球のエピソードも存在しますが、ヒトコワ系も結構な割合を占めていました。

何より興味深いのは知っているようで意外と知られていない火葬場トリビア。

火葬場スタッフが普段どんな仕事をしているのか、火葬やお骨上げの手順はどうなっているのか……読みやすい文章で噛み砕いて書かれており、目から鱗が落ちまくりました。

著者はYouTubeにチャンネルを持っている為、既出で重複しているエピソードも多いです。しかしそんな事は気にならないほど、文章から伝わってくる本人の人柄が味わい深い。

優しさと誠実さとユーモア、さらに故人や遺族への敬意が感じられるせいか、怖い話にもかかわらず後味はけっして悪くありません。

水死体の隠語の「水仏」、火葬中に煙を多く出す「煙仏」など、火葬場スタッフの間で日常的に用いられている通称も面白く為になりました。身内が火葬場でお世話になった経験があるなら、より感情移入が捗るのではないでしょうか。

個人的には火葬される男の子に同情したら部屋まで憑いてこられ、しりとりをするはめになるエピソードにぞくりとしました。

下駄華緒原作、 蓮古田二郎作画のエッセイコミック『最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常』と合わせて読むとさらに楽しめますよ。

『忌み地 怪談社奇聞録』 福澤徹三/糸柳寿昭

福澤徹三は怪談界における有名人。日本全国数々の怪談を蒐集しており、小野不由美や平山夢明らホラー作家とも交流があります。

小説『残穢』後半にて、平山夢明とダブル出演した「私」の同業者といえばおわかりいただけるでしょうか。

『忌み地 怪談社奇聞録』は福澤と糸柳が情報提供者に対面取材を行い、実際に足を使って集めた話をもとにした怪談集。

タイトルの忌み地は足を踏み入れてはいけない場所の事。日本では山や風葬地、廃神社がよく取り上げられています。

禁忌に触れたら呪いや祟りが降りかかるとされており、古来より人々は近寄るのを避けてきました。

近年では特定の土地以外に、事件・事故・自殺の現場となった不動産も包括するそうです。

福澤たちが日本を回り地元の人々から聞いた怪談は、なんとも不吉で厭な後味を残すものばかり。

水捌けの悪い宅地で連続する怪死の謎、姿のない猫の鳴き声が聞こえる夜道の真相など、その事象が発生した経緯が何十年も前に遡ってわかってくるとがぜんおぞましさが増します。

特筆すべきは怪異を受け入れた上で忌み地に根を張る、しぶとく逞しい人々の適応力でしょうか。よそ者の目から見れば異常な現象でも、先祖代々忌み地に住んでいる人々からすれば日常であり、とりたてて騒ぐほどでもない……忌み地の存在を受け入れ、穢れの元凶を敬し遠ざける姿勢は、生きる知恵でもあるのかもしれません。此岸と彼岸の認識の溝や価値観の齟齬が薄ら寒くなりました。

実在の場所や家屋の写真も、活字のみだと油断していた読者の背筋を凍り付かせてくれます。

ボランティアの一環として児童養護施設で行われる公演や、著者が主催している怪談師養成講座の模様など、職業としての怪談師に興味を持っている人に向けた情報も豊富なので興味があるならおすすめです。

「新耳袋 現代百物語」シリーズ 木原浩勝/中山市朗

著者が実際に集めた怪談を収録した本。本書が原作のオムニバスドラマ「怪談新耳袋」は劇場版が公開されるほどヒットしました。

特徴は一篇一篇が短い点。老若男女様々な人々から聞いた話な為、舞台となる土地や時代のバリエイションに富んでいます。通勤通学のスキマ時間に一話ごとツマミ読みできるのもポイント。

結末にぞっとする、演出に戦慄、というよりは後からじわじわ怖くなる話が多く、しこりのように不気味な余韻が残りました。読者が想像で補完するのを前提にした怪談といったらいいでしょうか。

全部の因果関係がスッキリ解明されるわけでないので、アレは何だったのだろうと考察する余地があるのが贅沢でした。

文体は極めて淡々としており、それがかえって他にないリアリティを生んでいます。
タイトルの由来は江戸時代の町奉行、根岸九郎左衛門鎮衛が著した怪談本「耳袋」。「新」と付けるあたりに、古典を現代版にアップデートしようとした作者の気概を感じます。

関西圏の話が多いので、関西在住の方は特に入り込みやすいかもしれません。現在の怪談ブームの火付け役となった不朽のベストセラーなので、ぜひ押さえてください。

『異界怪談 闇憑』 黒史郎

黒史郎は怪談蒐集家兼小説家。ホラー小説方面では『魔女の子供はやってこない』『夜は一緒に散歩しよ』など、人間の異常心理とオカルトを絡めた傑作を生みだしています。

本作は黒史郎が竹書房で手がけた怪談シリーズの一冊にして最終作。

物がすぐ腐る家の謎、YouTube中毒の母親が突然改心したきっかけ、山形県のある地方に受け継がれる禁断の因習など、奇想天外な超常現象はもちろん「裏の世界から見ています」に代表されるサイコホラー寄りのヒトコワまで網羅しています。

文章は水のようにするすると癖がなく、それでいて恐怖の盛り上げ所をしっかり押さえていました。話の起承転結を整理してエンターテイメントに仕立て直す圧巻の筆力は、さすが小説家といったところでしょうか。

常軌を逸した怪異の恐ろしさと人間の本質的な怖さを紐付けるのが上手く、オカルトを導入に別の場所に着地する短編はどれも粒ぞろい。

幽霊や生霊にとどまらず緑の血の宇宙人やら夜道にたたずむ河童もどきやら、得体の知れない異生物が登場するのでオカルト方面に広範な関心がある読者におすすめしたいです。取材がしっかりしている為、消化不良のモヤモヤ感があまりないのも好感触。

ひとまず雰囲気を掴みたい方は一話目、「サンショウウオの這う家」を試し読みしてください。この話が気に入れば最後までぞくぞく読み進められます。

まとめ

以上、ホラー好きなら必ず満足できる怪談本を5冊紹介しました。怖さ順に並べ直すと「拝み屋」>「忌み地」>「闇憑」>「新耳袋」>「煙仏」です。

「拝み屋」シリーズはサクサク読める短編とガッツリ読みごたえがある中・長編、どちらも素晴らしく完成度が高いです。

「煙仏」は火葬場スタッフのこぼれ話やハートフルなエピソードも含まれるので、怖さよりも知識が増える快感や面白さを求める向きにすすめたいですね。とはいえしっかり怖いのですが……。

この場を借りてライターの見解を表明すると、長年ホラー小説を愛読しているせいか、怪談においては実体験のリアルさより物語としての面白さを重視しています。

そもそも真実か否かは、語り手の主観に左右されるのを念頭においてください。聞き手が本にする際に大小の脚色を施されるのは避けられません。悪意による歪曲や捏造にあらず、世に出す読み物として体裁を整える為の措置です。

今回ご紹介したのはどれもリアリティと面白さを両立させた怪談本です。

安全圏から観測するフィクションも勿論楽しいですが、実話と銘打たれた話を読み、「自分の身にも同じ事が起こり得るかもしれない」と妄想を膨らませるのも怪談の醍醐味ではないでしょうか。