文学部って就職の役に立つんですか?

「文学部にいくと就職で苦労する」「文学部に行っても将来の役に立たない」などということが、今から10年ほど前、僕が高校生だったころはまことしやかに囁かれていました。「文学部 就職」などでGoogle検索をしてみると、今でも同じようなことが言われているようです。

たしかに理系の諸学部や、法学、経済学といった社会科学系の学問は、将来どのような役に立ちそうかかぼんやりとイメージがつきます。一方で、文学部で学んだことが何の役に立つかというのは、なんだか曖昧模糊としていますね。

高校時代の僕も進学先には随分と悩んだのでしが、結果的には文学部へ進学することを決めました。やっぱり自分の興味のあることを学ぶのが一番だと考えたからです。そして大学を卒業し、5年ほどが経ちます。果たして文学部で学んだことがどのように生きているのか、あるいは生きていないのか。これから文学部へ行こうかどうか迷っている方のために、n=1にはなりますが、僕の事例を紹介したいと思います。

文学部で何を学んだのか

「文学部」とひとくちに言っても、その下には様々な学科があります。文学部は人文学の様々な学問が集まっているので、文学だけをやっているわけではないんですね。僕が卒業した熊本大学文学部には、文学科、歴史学科、総合人間学科、コミュニケーション情報学科という4つの学科がありました。

僕が進学したのは文学科。なんだか、役に立たなそうな匂いがしますね。3年次から研究室を選ぶことになり、そこでは日本語日本文学研究室を選択しました。名前の通り、日本語と日本文学のことを学んだり研究したりします。特に興味のあったのは近代日本文学と現代日本語で、それらの講義や演習は熱心に出席していたのを覚えています。

近代文学の講義では、代表的な近代文学作家の作品について、ゼミ形式で発表していました。たとえば、芥川龍之介の「酒虫」という作品について先行研究等を調べてレジュメを作ったり、皆で夏目漱石の『こころ』を読んで発表したり。僕は最終的に近代文学の分野で卒論を書きました。テーマは太宰治です。

現代日本語の講義で思い出深いのは、類義語を取り扱う演習です。僕は「にぎる」と「つかむ」の違いを説明するべく、辞書を引いたり用例を調べたりして発表を行いました。

ざっくり言うと、上記のような勉強をしていました。所属ゼミにかかわらず古典のこともある程度学ばなくてはならないため、くずし字で書かれた文献を翻読して現代語訳する、といった授業もありました。

文学部は就職で不利なのか

さて、文学部で学んだことは就活に生かせるのでしょうか。

僕は怠け者の学生だったので最終的には3社ほどしか面接を受けていないのですが、そのいずれでも、文学部であることが特別生きた場面はなかったかなと思います。もちろん、「大学では何を専攻しているのですか?」というのはお決まりの質問なのですが、「で、うちの会社の仕事の何の役に立つの?」と聞かれたことはありません。ただ、僕が受けたのは中小企業ばかりだったので、大企業やメガベンチャーを狙いたいという場合は、大学で学んだことが役に立つかを気にされるのかもしれません。

大学の就職活動では、主に課外活動で取り組んでいたことについて話していたような気がします。大学生の頃からブログを書いたりTwitter botの運営をしていたりしたので、それで大変だったことを話したりしました。その結果、最終的に印刷会社の営業職として内定を頂くことになります。

周りの文学部の友人・知人たちを見ても、専攻のせいで就活に特別困っているという人はいなかったような気がします。比率としては女性が多かったのですが、出身県の金融機関に就職するような人が多かったように思います。その他、僕の周りではプログラマーやSEになった人も多いですね。新卒で未経験から育ててくれるところも多いらしく、なるほどそんな道もあったんだなーと思います。

そのため、文学部が就活に不利なことって特にないのかなと思います。それよりも、4年間という時間の中で何に取り組むのが重要な気がしています。

文学部で学んだことは人生の役に立っているのか

文学部での学びが就活の役に立ったかはあんまりよくわからないのですが、ここからは、文学部で学んだことが人生の役に立っているかどうかについて。

文学部に進学したばかりの頃は、小説家になりたいなという気持ちも少しだけありました。文学のことを学び、その知見を小説執筆に生かす。学んだことがストレートに役立ちそうで良い感じがします。しかし、書けば書くほど自分の才能の無さを思い知ることとなり、この道も諦めることに。それならば研究者の道に進もうかなとも考えたのですが、特別優秀でもなかったので、それも茨の道だなと考えてしまいました。それでも、せっかく文学部文学科で学んだのだから、この知見を何かに役立てたい。爪痕を残したい。そんな思いから立ち上げたのが、みなさんが今読んでくださっているこの「蓼食う本の虫」というWebサイトです。

蓼食う本の虫というサイトは、僕に多くのものをもたらしてくれました。まず、このサイトを運営していたことがきっかけで、イラスト・マンガ・小説を投稿できる「pixiv」というサービスを運営するピクシブ株式会社へ転職することができました。詳細は個人noteの小説関連ブログをやっていたらイラスト投稿サービスを運営しているIT企業にTwitterを通して転職した非エンジニアの話という記事に書いていますので、気になる方はそちらもご覧ください。ピクシブは新卒の時に書類選考で落ちてしまった会社だったので、これはとても嬉しいことでした。蓼食う本の虫というサイトは日本語日本語文学を学んでなかったら生まれなかったという確信があるので、少なくとも僕は、文学部での学びが結構ダイレクトに人生で役立っています。

また、僕は2021年の9月でピクシブを退職しました。これは、蓼食う本の虫というサイトの収益化の目処が立ち、独立してもしばらくは大丈夫だろうと判断したためです。文学科で学んだ経験があってこそ、他の方からいただく記事のレビューができますし、自身の記事ネタも出すことができているので、卒業してからの5年間を振り返ると「文学部に行って良かった!」と胸を張って言うことができます。

おわりに

以上、僕にとっては文学部での学びがとても有用だったよ、というお話でした。

もちろん、文学部を卒業して就活に苦しんでいる人もいるでしょうし、文学部での学びが何の役にも立っていないという方もいるでしょう。ただ、少なくともここに一人はめちゃくちゃ役に立った人間がいるので、進学先で迷っている方は、よろしければ参考にしてみてください。

また、一人の意見だけを聞いていてはそれを盲信してしまうので、できれば色んな人の話を聞いてみましょう。あなたの進学先選びが上手くいきますように。

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