短歌が「575」だと思ってる人へおくる
ドヤ顔したくなる短歌の基礎知識

みなさん!突然の質問ですが、「短歌」は好きですか?

 

 

短歌ってあのー、575……
77の
77のですね!
はい!

 

 

というのがお決まりの文芸ジャンルで、多くは学校の教科書で読んだっきり、また読書好きな方でも「短歌を読むのが好きだ」「日頃からよく読んでいる」という方はそれほど多くはないのではないでしょうか?

とはいえ、いわゆる短歌の「五七調」や「七五調」と呼ばれるリズムは、普段の生活の随所で見受けられるもの。
そんな馴染みがあるようで、じつはよくわからない短歌の“生態”。

ここでは、なんとなく短歌を読んでみたい人も詠んでみたい人もそうでない人も、知ってて損はない基礎知識を紹介します。

短歌とは

そもそも短歌ってなんでしょうか?

おそらく短歌の一番簡潔な定義がこちら。

「5音・7音・5音・7音・7音」の五句、計31音からなる和歌の一形式。

なんだか専門用語っぽい説明で、いけ好かないですね。少し細かく見てみます。

まず「音」というのは、「あ・い・う・え・お」の「あ」にあたります。

なので、5音のことばと言われたら「あたたかい」「かたたたき」「たたらむら」などが、5音といえます。

 

では、ちょっと応用編。

  • チョコレート
  • シャルロッテ
  • 焼きプリン


上記はそれぞれ何音になるでしょう? 

お察しの通りこれらもすべて5音です。

 

また、次のようなものは、それぞれ1音として数えます。

  • 「ん」(撥音という)
  • 「●ゃ・●ゅ・●ょ」(「ちょ」「しゃ」「でぃ」など。拗音という)
  • 「ー」(「れー」のように伸ばす音。長音という)
  • 「っ」(「あっ」や「ろっ」などのちいさい「っ」のような詰まる音)

 

つまりこんな感じです。

  • ちょ・こ・れ・ー・と

  • しゃ・る・ろ・っ・て

  • や・き・ぷ・り・ん

句というのは、音のひとかたまり、すなわちパーツのことです。

例)
バニラ味スーパーカップアイス食う真冬のこたつあったかいなあ

→ばにらあじ/すーぱーかっぷ/あいすくう/まふゆのこたつ/あったかいなあ

このように「5音・7音・5音・7音・7音」で区切ることができます。
また各パーツは順に「初句・二句・三句・四句・結句」と呼ばれ、
さらに「初句・二句・三句(575)」のかたまりを「上の句」、
「四句・結句(77)」を「下の句」と呼びます。

「上の句」「下の句」は耳にしたこともあるかもしれませんね。

和歌の一形式

このあたりは細かい話なので省略してもいいのですが、「和歌=短歌じゃないの?」という疑問や俳句との違いを踏まえ、少しだけ触れておきます。

歴史を遡ると、古代、万葉集などの和歌集には、長歌(ちょうか)・旋頭歌(せどうか)・仏足石歌(ぶっそくせきか)など、短歌とは異なる音数で構成された形式の詩歌が収められ、短歌はそのひとつという扱いでした。


まあ、「チロルチョコのひとつである『きなこもち』」という扱いです。

それが平安時代に入り、短歌は一躍注目をあびるジャンルとなり、もてはやされます。「チロルチョコ=きなこもち」状態ですね。
そのため短歌以外のジャンルは次第に見向きされなくなり、現在では「昔の短歌(古典の授業で習ったもの)=和歌」のような認識が一般的といえるかもしれません。


俳句との違い

平安時代に盛り上がった「短歌」ですが、次第に上の句と下の句をそれぞれ別の人が詠んでつないでいく「連歌(れんが)」という遊び方をされるように。

この連歌における最初の上の句を「発句」といい、江戸時代ごろに発達する、連歌のなかでもユーモラスな味わいをもったジャンル「俳諧」では、おもにこの発句が重要視されました。

これがいまでいうところの「俳句」に相当します。

なので、俳句の構成は「5音・7音・5音」の計17音です。

また短歌と違って、俳句には「季語」という季節を表現することばが必要です。短歌は俳句より長いので、季語を使わずイメージを描写します。

このように、短歌と俳句は、きのこの山とたけのこの里のように似ているようで、実は別のものだということがおわかりいただけたかと思います。

まとめ

 
短歌とは「5・7・5・7・7で季語なし」つって覚えとってね!

短歌は「5・7・5・7・7」だと思ってるあなたへ

と、ここまでは「なーんだ、そんなこと知ってるよ」と言われそうな基本的な知識のご紹介でした。

ここからは、”短歌は57577”だと思っている方にお教えしたい、おそるべき短歌の実態に接近します。

破調

まずみなさんに謝らなければなりません。

冒頭から散々短歌は「57577」だとお伝えしてきましたが、実はこれは嘘です。

正確に言うと、「57577」ではない短歌があります。

革命歌作詞家に凭りかかられてすこしずつ液化してゆくピアノ(塚本邦雄『水葬物語』)

群(むらが)れる蝌蚪(くわと)の卵に春日さす 生れたければ生れてみよ(宮柊二『日本挽歌』)

馬を洗はば馬のたましひ冱ゆるまで人戀はば人あやむるこころ(塚本邦雄『感幻樂』)

上記の歌は、短歌界では非常に有名な短歌です。音数を数えてみます。
 
革命歌・作詞家に凭り・かかられて・すこしずつ液化・してゆくピアノ
5・7・5・8・7

群れる・蝌蚪の卵に・春日さす・生れたければ・生れてみよ
5・7・5・7・6

馬を洗はば・馬のたましひ・冱ゆるまで・人戀はば人・あやむるこころ
7・7・5・7・7

句のなかで、音数が規定より多いものを「字余り」、音数が規定より少ないものを「字足らず」、そしてこれらのように本来の音数と異なる短歌を指して「破調」と呼びます。

びっくりするかもしれませんが、これらも短歌です。

「言葉を省略すると違和感がある」ときや「リズム感に変化をつけたい」ときなどに、破調がしばしば出てきます。

3首目の歌は「初句七音」と呼ばれる、いまでこそ比較的珍しくないつくりの歌ですが、「守破離」のように基本の形を身につけてからでないと、キラーフレーズのようにうまく決まらないもの。
そのため多くの入門書は、まず定型を守って詠むことを基本としています。

ちなみに字余りはよくみられますが、字足らずは破調の歌のなかでもあまり見かけません。

句ごとに一字あけない

短歌の表記の仕方でよく見かけるのが、句ごとに一字あけるパターンです。

例)
バニラ味 スーパーカップ アイス食う 真冬のこたつ あったかいなあ

 

実は、現代短歌でこの手法はあまり一般的ではありません。
もちろん技法上、一字あけることは珍しくないのですが、すべてあけることは傾向上あまりないです。
ちなみに一字あけをすると、

  • バニラ味スーパーカップアイス食う 真冬のこたつあったかいなあ
  • バニラ味スーパーカップアイス食う真冬のこたつ あったかいなあ

のように、表現上ニュアンスをつけることができます。上の歌だと「真冬のこたつ」に焦点があたりますし、下の歌は「あったかいなあ」という実感が増します。

短歌の業界語

どのジャンルにもあることですが、界隈に行けば業界語のような独特な言葉があります。頻出語彙としては、こんなものが。

 
例文)

  • この歌は破調が効いてると思うので、定型におさめなくてもいいんじゃないですか。
  • 明日提出締め切りの詠草ができない〜〜、どっかに落ちてないかな。
  • 次回の歌会は、題詠「草」1首、自由詠1首をご提出ください。

 

短歌に限らず、音の数が決まっている言語作品を「韻文」、あるいは「定型(詩)」と呼びます 。

そして短歌を作ることは「詠む」。短歌を指すときは単に「歌」ということが多いです。「詠草」というのも短歌のことです。ときどき「短詩」という言い方をする方も。

短歌は「1首、2首、3首……」と数えます。「ここで一句」は、俳句のときに使う表現なのでご注意を。

例文にある「歌会」というのは、作品批評会のようなものです。作品を持ち寄って互いに批評しあいます。そのときに提出する歌の形式として、自由に詠む「自由詠」、指定された言葉を詠みこむ「題詠」などがあります。

ちなみに、詠草を提出するとだいたい「詠草拝受いたしました」と連絡がきます。

さいごに

となんだか長くなりましたが、とにかく大事なことは

短歌とは「5・7・5・7・7で季語なし」(ときどき破調もあるよ)!

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