小説家になるにはどのような道があるのか・何をすれば良いのか

小説家をはじめとして、才能や人気が必要な職業に就くのは不安定さがつきまといます。どうすれば小説家になれるのかも不明瞭だし、なったとしても生活を成り立たせることができるのかも分からない。

「医者になりたい」「弁護士になりたい」といった夢に対しては、しっかり勉強をすることでその道が開かれるでしょう。ところが、「小説家になりたい」と思っても、まず何を頑張れば良いのかが分からない……。

出版不況と言われる昨今、小説家への道のりも少しずつ変化しています。一体どうすれば小説家になることができるのか、その方法をひとつずつ見ていくことにしましょう。

「小説家」とは?

そもそも「小説家」とはなんでしょう? 少しでも小説を書いた経験のある人が全員小説家なのであれば、世界中は小説家だらけになってしまいます。一方で「小説を書くだけで生計を立てている人」が小説家だとすると、それはほんの一握りの人に限られてしまいます。

そこで、ここでは「小説家」を「商業出版経験のある人」と定義しましょう。出版社から本を出せば、それによってどのくらいの収入を得たのかを問わず、その人のことは小説家と呼ぶことにします。小説を書いて生計を立てようと思えばここからさらに刊行点数を重ねなければならないのですが、ひとまずスタートラインには立てている人ということです。

このスタートラインに立つために、一体どのような道筋があるでしょうか。

小説家への道のり

小説家になるためには、主に以下の3つのうちいずれかの選択肢を取ることになるでしょう。

  • 新人賞を受賞する
  • ネット上で話題になることでスカウトされる
  • 自費出版する

それぞれ、どのような道筋になるのでしょうか。

新人賞を受賞する

今も昔も、小説家になるための王道は新人賞を受賞することです。出版社は新たな才能を求めていて、常にさまざまな新人賞が催されています。新人賞には出版社もお金と労力をかけていますので、ここで受賞すれば小説家としてデビューできることはほぼ間違いありません。

ただし、もちろんこれは簡単な道のりではありません。賞にもよりますが、応募作が数百から数千ある中で、新人賞を受賞してデビューできるのはほんの数作品だけ。しかも、同じ賞の最終選考に何度も残り続けているという強者もゴロゴロいます。王道には王道なりの厳しさがあることも覚えておきましょう。

小説の新人賞は出版社やレーベルが主催していることが多く、ジャンルなどが指定されていることがほとんどです。ライトノベル、ライト文芸、大衆文芸、純文学といった大枠が決まっていることもありますし、ミステリーやホラー、恋愛ものなどジャンルが決まっているものもあります。まずは、どういう方向性の小説を書きたいのかを考えてみましょう。

参考あなたが応募すべき小説新人賞は?まずはジャンルを見分けるところから始めよう

また、小説家になりたいには、常時50件以上の小説新人賞・コンテスト情報が掲載されています。「〆切が遠い順」「賞金が多い順」「字数下限が少ない順」で一覧することができますので、応募する新人賞選びの参考にしてみましょう。

ネット上で話題になる

作家としてデビューすることの王道は新人賞受賞ですが、裏道的なルートも存在しています。その中でも有名な道筋が、小説家になろうをはじめとした小説投稿サイトで話題になることでしょう。特にライトノベルでは、小説投稿サイトで人気を博し、ランキング上位になった作品が商業デビューのきっかけになることが少なくありません。

また、漫画や自己啓発本などはTwitterで人気を博したことがきっかけで出版に繋がることがたくさんあります。小説ではまだあまり例がないように見えますが、たとえば140字小説で人気の神田澪さんはこの記事を書いている時点で13万人を超えるフォロワーを有し、すでに2冊の本を出版していたりします。まだほとんど注目されていない分野だからこそ、今はじめることでその分野の第一人者になれる可能性もあります。

自費出版する

商業出版に繋げるために自費出版を行ってみる、というのも一つの手段ではあります。ただ、新人賞は選考委員や編集者がチェックしているということが質の担保に繋がり、ネットで話題になった場合も、すでにその人の文章をたくさんの人が楽しんでいるという証拠がありますが、自費出版はそういった後ろ盾が全くないので、出版したとしてもどうなるか分からないという欠点があります。

しかし自費出版から商業出版に繋がった例が全くないかというと、全くそういうわけではなりません。たとえば、『ハロー・ワールド』で吉川英治文学新人賞を受賞した藤井太洋氏はセルフパブリッシングで『Gene Mapper -core-』を電子書籍として販売し、それがきかっけで早川書房から商業出版を行っています。

その他にも同人誌で出したものが後に商業出版された例もあり、たとえば『夫のちんぽが入らない』『かわいいウルフ』がそれに該当するでしょう。ただ、これらはいずれも小説作品の単著ではありません。小説作品が同人誌から拾い上げられる例は、管弦に入る限りではそれほど多くありません。しかし自分の作品やテキストに自信があれば、まずは世に出してみて評価を問うのも一つの方法ではあります。

小説家になるための勉強

小説家になる道筋には複数の方法があります。しかしいずれの方法をとっても共通する問題は、「読んでもらえる小説を書き、それを実際に商業に繋げるのが難しい」ということです。つまり、小説家になるための情報を集めたり技術を磨いたりと、何かしらの勉強をする必要があるわけですね。

勉強方法にはそれぞれ一長一短があります。いくつかの方法を検討して、自分にはどれが一番あっているのかを考えるのが良いでしょう。

小説の専門学校へ行く

何かを学びたいと考えたとき真っ先に思いつくのが、学校へ行ってみるという選択肢でしょう。そして、小説家になるための技術や情報を伝授してくれる専門学校がいくつかあります。

最も有名なのはアミューズメントメディア総合学院
の小説・シナリオ学科でしょうか。刊行実績を見てみると、複数の在学生・卒業生が商業出版を行っていることが分かります。また、AMG出版という内部の出版機能もあるので、そこから出版を行う道も開かれています。

ただし、小説・シナリオの書き方に特化したカリキュラムになっているので、卒業後に小説家になれなかった場合のキャリアパスをどうするかを考えておいた方が良いかもしれません。小説家になってそれだけで生活できる人というのはそれほど多くありません。それでも小説の技法を徹底的に学びたいという方は、専門学校を検討しても良いでしょう。今後の人生にかかわることなので、資料請求などを行って何が学べるのあじっくり考えるのがおすすめです。

大学の文芸学科に行く

小説の書き方を学びたいのであれば、四年制大学の文芸学科に行くという手もあります。

四年制大学が良いのは、就活の幅が広まるということです。企業の中には、応募資格として四年制大学を卒業していることを要求してくるところがたくさんあります。学校を卒業した後に小説家になるのであればそんなこと関係ないかもしれませんが、小説家一本で生活ができない場合に、四大卒という資格を得られているというのは重要なことです。

文芸学科は私立大学に多く、日本大学芸術学部文芸学科、東海大学文学部文芸創作学科、などがあります。

大学の文学科へ行く

四年生大学という選択肢の中では、文学科に進学するというのも一つの手です。文芸学科のカリキュラムでは小説の書き方や文芸批評に重きが置かれているのに対して、文学科では文学研究似重きが置かれています。平たくいえば、小説を書くことではなく読むことを学んでいきます。

文学科の場合には、国公立大学でもたくさん開講されています。文学科や文学部に進学して役に立つのか分からないという方には、実際に文学科を卒業した後で人生がどうなったのかを紹介する記事を公開しているので、そちらもぜひお読みください。

参考文学部って就職の役に立つんですか?

小説の教室を受講する

専門学校や四年生大学は、長い期間通わなければなりませんし、コマ数も膨大です。もっと短期間で勉強をしたいという方は、小説の書き方を教えてくれる教室に行くという選択肢もあります。

たとえば、第19回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞してデビューした新川帆立さんは、山村教室という小説講座の出身です。その他に有名な小説講座としては書評家の大森望氏が主任講師を務めるゲンロンSF創作講座や、人気作家をゲスト講師として招く山形小説家・ライター講座などがあります。

自分の書きたい小説のジャンルを考え、輩出作家を見ながら選ぶと良いでしょう。

本を読む

学校や教室に通って学ぶ以外に、本を読んで独学する方法もあります。小説家の書いた創作論や出版に携わっている方の書いた本も多数ありますので、まずはそこから情報を得るのもおすすめです。かかる金額や時間をグッと抑えることができます。

小説を読む

小説家になりたいのであれば、まずはたくさんの小説を読むところから始めるのが良いでしょう。世の中にどのような小説があるのかを知ることで、自分の書くべきものの輪郭が見えてきます。

たとえば小説家の斜線堂有紀氏は、3年間で1,000冊の本を読んでいる大変な読書家です。敵を知り己を知れば百選危うからず、まずは小説というものがどういう構造を持ち、どのように書かれているのかを体に叩き込みましょう。

小説の書き方を説いた本を読む

小説の書き方について書かれた情報は大変多く、このサイト・蓼食う本の虫でも様々な方法を紹介しています。そんな中でも、実際に小説を生活の糧としている小説家の方々の書いた創作論などは参考になる場合が多いです。

たとえば、三浦しをん『マナーはいらない 小説の書き方講座』では、小説執筆に関する様々な疑問に対して現役小説家としての答えが提示されています。日本推理作家協会の『ミステリー作家の書き方』も良著で、人気ミステリー作家43人の創作論が凝縮されています。

小説家のなり方や実情を書いた本を読む

小説の書き方については様々なところに情報がありますが、具体的に「小説家になる」のがどういうことなのか解説されているような本はあまり見当たりません。そんな中で、松岡圭祐『小説家になって億を稼ごう』は、『万能鑑定士Qの事件簿』などで知られる氏が小説の書き方のみならずどうやって生計を立てていくのかの戦略にまで踏み込んで解説してくれています。

また、吉田親司『作家で億は稼げません』もあわせておすすめ。年収で億はいかないけれど、それでも小説家として生計を立てている小説家の半生が語られています。

小説投稿サイトの攻略法を書いた本を読む

小説投稿サイトからのデビューを目指したいという方は、それに合わせた本も参考にしてみると良いでしょう。小説投稿サイト「小説家になろう」を運営するヒナプロジェクトが監修を行った『読者の心をつかむ WEB小説ヒットの方程式』などがあります。

また、Web小説にどのような歴史があるのか気になるという方は、小説投稿サイト関連で様々な考察を展開しているライター・飯田一史氏の『ウェブ小説の衝撃 ──ネット発ヒットコンテンツのしくみ』などが参考になるかもしれません。

おわりに

近年はクリエイタエコノミーについての話題が盛り上がっており、創作者が個人のちからで生計を立てる方法もかなり浸透してきました。しかしこと小説という分野に限ってはまだその方法論が確立しておらず、商業出版を行うことが小説で生活するために最も確実な方法です。

努力をしても小説家になれるとは限りません。しかし方向性がある程度見えれば、そこへ向かって進んでいくことはできるでしょう。

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